埼玉県川越市で日本唯一の「電気ボンネットバス」が走っています。昔のバスに見られたボンネットのあるレトロなスタイルを、環境に優しい電気バスを改造して再現したというもの。

ただ、導入目的は単なる「エコ」ではありません。

電気ボンネットバスには「エンタメ機能」も備わる

 昭和の時代によく見られた、車体前方にボンネットを有する「ボンネットバス」、そのレトロなスタイルから観光の目玉として各地で導入されていますが、埼玉県川越市では最新式の、それもEV(電気自動車)のボンネットバスが走っています。

 この「電気ボンネットバス」は、川越市内の「小江戸巡回バス」を運行するイーグルバス(川越市)が2020年6月に日本で初めて導入したものです。もともと3月の「小江戸川越春祭り」に合わせて運行を開始する予定でしたが、新型コロナの影響でイベントが中止になり、3か月遅れの導入になりました。

ボンネットバスにまさかのEV!? レトロさそのままに進化 目...の画像はこちら >>

「小江戸巡回バス」として走るイーグルバスの電気ボンネットバス(2020年8月、中島洋平撮影)。

 実は、いま全国で走るボンネットバスは、必ずしも「昔のバス」ではありません。

市販のマイクロバスを改造し、エンジンをわざわざ車体後部から前部に移設してボンネットを構築したものもあります。イーグルバスも1997(平成9)年から、そのようなボンネットバスを小江戸巡回バスで運行してきましたが、同社の創業40周年を機に、EVの最新型へ置き換えたのです。

 青色と赤色の2両からなる電気ボンネットバスは、中国・アジアスター社製の電気バスをベースに、日本で改造した同社オリジナルの車両だそうです。以前の車両は全長6720mm、全幅1990mm、全高2720mmの小型バスでしたが、今回はそれぞれ7540mm、2360mm、2990mmに拡大。中型バス区分となり、乗車定員も26人から41人にアップしているといいます。

 また、乗降扉の開口幅も拡大しており、バリアフリー対応の可動式リフトが、車体の後部から乗降扉のステップ下へ格納される形になりました。

車いすでも乗りやすくなっているそうです。

 EVなので、もちろん排気ガスはゼロ。1回の充電で約200km、エアコンフル稼働時でも約150km走行でき、アイドリング時の車内騒音は25%低減されているとのこと。さらに、夜は車体下とボンネットフード内がライトアップされ、幻想的な雰囲気を醸し出すといった“エンタメ機能”も備えています。

ボンネットの中身は? EV化のメリット

 前出のとおり、従来のディーゼル式のボンネットバスではボンネット内にエンジンが配置されていましたが、今回の電気バスでは車体後部にモーターがあり、ボンネット内には電池の一部が入っているそうです。

 車体デザインは、レトロな建物が多く残る「蔵の街」川越に配慮したものだといいますが、全国で少しずつ導入されている電気バスの多くは、「最新」かつ「環境に優しい」をウリにしており、「レトロ」な表現は異色といえます。

イーグルバスの谷島 賢社長によると、既存のボンネットバスが年数を経て置き換えが必要になったということだけでなく、「やはり、これからは電気」という思いから導入したのだとか。

ボンネットバスにまさかのEV!? レトロさそのままに進化 目的はエコにあらず

青い車体も導入(画像:イーグルバス)。

 まずサービス面では、排気ガスがなく停車中のアイドリングストップが不要なことから、エアコンが止まることもなくなるといいます。また、ギアの概念がない無段変速であるため、シフトチェンジにともなうショックもなし。「路線バスはこまめに停車と発進をくり返すため、ギア回りの負担が大きいのですが、それも軽減できます」と谷島社長は話します。

「ディーゼルのバスと比べて部品数が圧倒的に少ないですし、オイルなどもなくなります。

バスの場合、故障の多くはオイルに絡むもので、オイルまみれになることが、整備士のなり手不足にもつながっています。電気バスになることで、根幹からいろいろ変わります」(イーグルバス 谷島社長)

 このように、電気ボンネットバスの導入は、トータルでの整備コスト削減を見込んだものだそう。また、将来的に自動運転となった際にも、EVのほうがそのシステムを取り入れやすいといい、導入の拡大も検討しているそうです。

 ちなみに値段は1台およそ5000万円ですが、これは、利用者から要望の多かった「PASMO」などの交通系ICカードに対応するための費用も含んだ価格だといいます。