農道にぽつんと建つ「ガンダム石碑」の謎
一瞬、見間違いかと思いそうな、石碑に刻まれた「ガンダム」の文字。
「知ってます? 小布施にガンダムの石碑があるんですよ」
友人の弟くんにそんな話を聞いた。小布施とは長野県の「栗の里」として知られるまちのことで、葛飾北斎の天井絵「八方睨み鳳凰図」がある岩松院近くに、件の「ガンダム石碑」が建っているのだという。

どんなものだろう? ロボットみたいなのを石でつくってるのだろうか? それは「石像」か。
ガンダム世代の30代くらいの人がシャレで建てちゃったのだろうか、と思うと、
「おばあちゃんが書いたガンダムの短歌が書かれた碑なんです」と言う。
ガンダムの短歌? ガンダム好きなポップなおばあちゃんなんだろうか。どういうわけか自分の頭のなかには、子どもの頃に聴いた「コンピューターおばあちゃん」の歌がぐるぐるまわる。

さて“信州・小布施路”。雁田山の道沿いに石碑がぽつり、ぽつりと点在している。
と、唐突に遠めに「ガンダム」の文字が……。
黒い石碑にくっきりと生真面目な文字で刻まれたカタカナの「ガンダム」は、ものすごいインパクト。さらに近づいてみると、こんな短歌が彫られていることが分かる。
「ガンダムのテレビに見入る児は六才 戦死とは何ぞ我に問いたり」
『機動戦士ガンダム』の世界観と、おばあちゃんと、戦死と……。思い描いていたような「ポップなおばあちゃん」とはかけ離れた、ドキッとする歌だった。そういえば、ガンダムって、戦争を描いた作品だったっけ。


これは誰がどんな思いで、どんなときに歌った短歌なのだろう。小布施町役場に問い合わせたところ、教育委員会が調べて、こんな返事をくれた。
「この石碑は平成元年4月に建てられたもので、作者は市村かくさんという方で、すでに亡くなられているそうです。緑道にある石碑は、『短歌 道の会』という会の16名の作品ですが、会員の方はご高齢の方が多く、他にも亡くなられた方がたがいらっしゃるようで、これ以上のことはわかりませんでした……」
ちなみに、この緑道にある他の石碑には、とりわけ変わった短歌はなく、「ガンダム」の石碑だけが異彩を放っている。そんなわけで、ドライブなどで通りがかった人たちの目を奪い、ひそかな話題となっているようである。
(田幸和歌子)