「クッキングパパ」の擬音語・擬態語に迫る
写真に「クッキングパパ」風の「ドーン」を書き加えるだけで、ほら、「うえやまとち」の世界に!?
『週刊モーニング』で連載中の、うえやまとちの『クッキングパパ』(コミックス85巻まで)。
作品に登場する料理は、絵だけ見ると、内臓や猟奇的何かに見えかねないにもかかわらず、なぜか劇中では「美味そう」なのが、以前から不思議だった。

「美味そう」に見せる手法は、料理を見た人たちの「おお〜」「ほほう」「うわっ」「うほーっ」といったリアクションや、食べた瞬間の背景の稲光、レシピ中のパパ自身の自画自賛コメント「ウマイゾッ!」などにある。
だが、何より大きいのは、料理に添えられた「ホカホカ」などの、太く大きな描き文字ではないだろうか。

友人のマンガ誌編集者も、
「いつも“ホカッて”る擬態語・擬音語は、うえやまとち先生の発明。水島新司大先生の定番、観衆の『ワーワー』に並ぶ傑作」と言っていた。
そこで、クッキングパパ1〜30巻を対象に、擬音語擬態語のパターンを調べてみた。
私のイメージでは、「ホカホカ」が圧倒的だと思っていたが、調べてみると、意外な結果に!

まず、いちばん多かったのは、「ドーン」で、45回。「ドン」19回、「どん」8回、「どーん」3回を含めると74回。
これは、丼モノのほか、カレーやコロッケ、ハンバーグなどのボリュームメニューに多く使われていた。迫力や豪勢なイメージがある表現なので、主婦の方などは、ショボイ料理を出すときなど、あえて効果音として口に出してみると良いかもしれない。いや、逆効果か!?
次に多かったのは、「ホクホク」で41回。類義語「ホカホカ」は8回、「ホッカホッカ」2回で、丼モノ、汁モノ、揚げ物、おにぎりなど、広い範囲で使われている。また、ご飯モノや芋類などに使われる「ホコホコ」は8回、「ホックリ」は3回。
いずれも「ドーン」より迫力はないが、温かく美味いイメージだ。

次が、予想外の「じじじ…」で、22回! 肉や魚の焼き物・揚げ物に多く使われており、ちょっぴり「コゲ感」もあるかと思われる。
その次は「ぐっぐっ」で、これはほぼ「鍋モノ専用擬音語」のよう。
他に、料理の種類に関係ない盛り上げ語「ジャーン」が10回、「バーン」が6回。小さな弱々しい文字の「じあ〜ん」が4回。これは市販の弁当などに使われているので、「ささやか感」の演出かもしれない。

また、大半はオーソドックスな表現が占める一方で、特徴的なのは、「そのまんま表現」。
たとえば、冷やし中華など、冷たい料理に使われる「ヒンヤリーッ」4回、「ひんやりーっ」3回、「ヒヤーッ」「ヒンヤーッ」各2回、「ひんやーっ」「つめ〜たい」1回。
ちゃんこ鍋の「どすこい」、スイートポテトプリンの「ポテリーン」、ウニの「ウニーッ」、ぜんざいの「ぜんざい!」なんてものもあった。
料理と同じで、シンプルなのがいちばん美味しいということか!? いや、でも、「ぜんざい!」ってのは擬態語としてアリなのか!?

ちなみに、これらの描き文字が添えられていなかったものは、どら焼き、カステラ、桜もち、チェリータルト、クレープなど。やっぱり迫力や温度がないスイーツに描き文字は不向きなのだろうか。擬音語擬態語がないだけで、途端に美味しく見えなくなる、実に不思議な「うえやまとちマジック」である。
(田幸和歌子)
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