
でも実はこれ「桜は来年も変わらずココにある」ことが前提になっている。確かに「樹齢ウン百年」なんて木もあるけど、いつか寿命が尽きるはず。来年もあるとは限らないのでは?
意外に知らない木の寿命――。そこで東京農工大学農学部で森林生態学を担当している生原喜久雄教授に話を聞いてみた。まず木はどれくらい長生きするんですか?
「現在、生存している樹木の中で、最も長寿命は、カリフォルニア州のセコイヤで、4,000年くらいです」
えっ、あの「中国4,000年の歴史」と同じとは……。ちなみに日本では?
「屋久杉の縄文杉や大王杉の樹齢は3,500〜7,000年という説もありますが、最近の放射性炭素による年代測定によると縄文杉は2,500年、大王杉で3,500年といわれています」
いずれにしても人間の寿命なんて到底及ばないスケールの大きな話!
逆に短命なのはクマイチゴやタラノキなど。基本的に明るい所のみで生存可能な低い木(※陽樹という)は寿命が短めなのだとか。といっても生育環境などによって変わってくるので、一概にはいえず、
「もし寿命の長い木が生育に有利であれば、森林を優占する木々は、すべて寿命の長い木になってしまうはず。でも現実はそうでなく、何万年経っても、寿命の長い木と寿命の短い木の両方が生育しています」
木はそれぞれ生育に最適な場所があり、繁殖方法もちがう。森林は寿命の異なる木によって構成され、いくつもの要素が絡み合いながら上手く共存しているというわけだ。
また寿命が長いからといって、いつまでも成長し続けるわけでもない。20年ほどで成長を停止する木(ミズキ、シラカンバ)もあれば、80年のもの(ブナ、ミズナラ、トチノキ)もある。
ところで寿命がくると、木はどうなるんですか?
「実は先ほど木は寿命があると言いましたが、陽樹でなくケヤキ、ブナの様な大径になる木は、理屈では寿命はありません。というのも生きている細胞は大木の中のほんの一部で、多くは死細胞。生命維持に必要な一部の細胞さえあれば、理論的にはいつまでも生存可能なのです」
しかし現実の環境は厳しく、光合成のための光環境・蒸散のための水環境・病気・災害などの理由で「枯死」してしまうのだという。屋久島のスギの寿命が長いのは、その環境がスギの生育に適しているからで、都会のスギが短命なのはその逆。枯死した木は倒れ、土壌中の小動物や微生物によって分解されながら腐朽していく。
ところで冒頭の桜の寿命、一般的には60年前後といわれている。ということは、いま見ている桜より自分のほうが長生きするかも? ……なんてことより桜がもっと長生きできる環境をつくることを考えるほうが大切ですね。
(古屋江美子)