なぜ歯は1回しか生えかわらないのか
一生に一回しか生えかわらない歯。乳歯が抜けて生えてくる、永久歯は大切にしましょう。
昔からどうにも納得がいかないこと。それは、「なぜ歯は1回しか生えかわらないのか」ということだ。


脳細胞や肌なども20歳を過ぎれば劣化する一方とよく言われており、子どもの頃から「ピーク、早すぎっ!」と不満だった。
でも、脳や肌は、だましだまし付き合うとしても、歯は80年の人生のうち、永久歯が背負う期間のいかに長いことか。
小学生ぐらいの頃に、「一生モン」を持たされても、その頃の自分には、それがいかに大事かわからない。せめてもう少しモノがわかった時期に、永久歯に生えかわってくれたらいいのに!
そんな不満を、自分の歯がお世話になってる東京・幡ヶ谷の坪田歯科医院、坪田先生にぶつけてみた。

「寿命が急激に延びているいま、70〜80歳というのが当たり前になってますよね。永久歯の負担を『長い』と感じるのは、寿命が延びているせいもあるでしょうね」
平成11年度の統計では、男性の寿命が78.4歳、女性が85.5歳とか。
それに対し、歯の寿命は、下の第一臼歯が53年、下の第二臼歯が50年、上の第一臼歯が58年、上の第二臼歯は51年という。
「昔は人生50〜60年だったから、それほど歯の負担も長く感じなかったんだと思いますよ」
でも、寿命が延びたなら、その分、第二の永久歯「永久歯2」とかが生まれてくれても良いのに、と言うと、
「歯の本数は、むしろ減ってるんですよ」と衝撃的なコメントがあった。

そもそも「親知らず」も、昔は上下4本ずつ生え揃うのが普通だったが、今は完全に生え揃うことがほとんどない。さらに、14〜15歳ぐらいの子などは、親知らずそのものがなくなっているのだそうだ。
「これは、アゴが小さくなっているから。歯のサイズは変わらないのに、アゴが小さいから、親知らずが斜めになる、ひっかかって出てこないなどのトラブルが、今は多いんですよ」
昔は「ペヤング」みたいにエラのはった顔が多かったのに、今は「ハンカチ王子」のようにほっそりした顔が多いでしょ? と坪田先生は言う。


しつこいが、爪や髪は何度も生えかわるのに、歯にはその可能性はないのか、と聞いてみると、
「永久歯が生えかわる可能性はないですね」とキッパリ。
「ただ、逆に、たまに乳歯が抜けて、永久歯が出てこない人や、1〜2個所が乳歯のまま生えかわらない70歳ぐらいの方はいましたよ」
と言う。
サメなどは、歯が武器でもあり、エサをとる道具でもあるため、「歯胚」が次々に出てくるそうだが、人間は歯でエサをとる必要もない。それどころか、食べるものはどんどんやわらかくなっているのが現状だ。
「生き物は、必要のないものは作らないものですからね」

「永久歯2」の出現どころか、「親知らず」も絶滅に近づいている今、大切なのは、日ごろから硬い物をよく噛んで食べることや、歯科医などの専門家の意見を取り入れ、永久歯が少しでも長持ちするよう、しっかりケアしていくことしかないのかもしれない。
(田幸和歌子)