アリババ、初のAIグラスをWAICで披露 アリペイ連携で「見るだけ決済」も

中国IT大手のアリババグループはこのほど開かれた世界人工知能大会(WAIC 2025)で、自社開発した初のスマートグラス「Quark AIグラス」を発表した。同社がAI技術を物理デバイスに搭載・実用化したのは、消費者向けAI事業を統合してから初の取り組みとなる。

Quark AIグラスはハンズフリー通話、音楽再生、翻訳、会議の文字起こしといった基本機能を備え、AI対話の自然さや装着感、画質、連続使用時間なども際立っている。アリババのエコシステムとの連携が大きな特長となっており、同社の大規模言語モデル「通義千問(Qwen)」やAIアシスタント「誇克(Quark)」の最新機能を活用できる。さらに、高徳地図(Amap)のナビゲーションや、QRコードを見つめるだけで支払いができる支付宝(アリペイ)のハンズフリー決済、ECサイト淘宝(タオバオ)での価格比較、旅行サービスの飛猪(フリギー)からの出張リマインドなど、さまざまなサービスが利用可能。将来的には健康管理やビジネスシーンでの応用を探っていく方針だという。

Quark AIグラスは、米メタの「Ray-Ban Meta」の模倣に終始するほかの国産スマートグラスとは一線を画し、全く新しいロジックに基づいて開発された。当初から、日常生活でよくあるシーンに焦点を当てて設計されており、単にAI機能を誇示するのではなく、ユーザーの「見えづらい、覚えられない、判断できない」という日常の悩みに寄り添うことに重点が置かれている。

発表会では、フリギーを使った旅行の行程案内のデモンストレーションが行われた。「搭乗時刻は?」と声をかけるだけで、Quark AIグラスが旅行データを呼び出して、レンズ上に搭乗案内を表示する。スマートフォンを取り出したり、アプリを探したりといった手間は一切不要だ。高徳地図の屋内ナビを組み合わせれば、搭乗口までのルートを音声で案内してくれる。

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アリペイのハンズフリー決済機能を使えば、日常の支払いが驚くほど簡単になる。スマートグラスでQRコードを読み取り、「支払いを確認」とつぶやくだけで決済が完了、スマホに触れる必要もない。

スマートグラスには、端末のひも付けから決済までを安全に保護するセキュリティー機能が内蔵され、盗難時の補償制度も完備している。この決済機能は中国のRokidやシャオミ、RayNeoなどが発売したスマートグラスにも導入されている。

中国Rokid、ARグラスに世界初のハンズフリー決済機能 アリペイ連携で音声・視線で支払い可能に

​​日常のニーズを中心に据えた製品開発の背後には、アリババ社内の複数の事業部門が共同で立ち上げた特別開発チームの存在がある。単に既存のアプリや機能を連携させるのではなく、AIエージェントを目指して高度なカスタマイズを施し、指示に応じるだけのサービスから、先回りして動くサービスへと進化させている。

音声操作については、スマートグラス本体に5つのマイクと骨伝導システムを搭載し、騒がしい環境でも確実に音声で起動できる。また、大規模言語モデルQwenが複数回にわたるやり取りの意図を理解し、独自開発の中枢システム「Mastar Agent」が処理を適切に振り分けるため、応答速度が大きく向上した。画像とそれに関する質問が与えられた際に正しい答えを導く「視覚質問応答(VQA)」でも、画像検索能力や検出アルゴリズムに加え、Qwenによる推論を組み合わせることで、認識速度や回答精度を大きく高められる。

さらに、マルチモーダル機能を実装したことで、単に撮影可能なスマートグラスから一歩進んで、対象物を理解し解説することが可能になった。博物館の見学時や見慣れない植物に出会ったとき、街中で撮影した写真をSNSに投稿する際など、目の前にあるものについて質問すれば即座にAIが解説してくれる。

Quark AIグラスの開発責任者・宋剛氏は、同社のスマートグラスが他社製品よりも優れている点として次の3つを挙げた。まず、かけ心地が良いこと。次に、昼夜を問わずいつでも使えるスマート端末であること。

そして何よりも、持ち歩けるスーパーAIアシスタントであることだ。開発チームではこのスーパーAIアシスタント機能を最優先に考えたという。

(翻訳・畠中裕子)

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