渋野日向子が「全英AIG女子オープン」で優勝してから約2週間が経過してもなお続く『シブコ・フィーバー』。その渋野の優勝の約2カ月前に行われた海外女子メジャー「全米女子オープン」に出場し、「ショットに関してはすごい差があるとは思わなかった」と話したのが岡山絵里
上田桃子らを指導するプロコーチの辻村明志氏が、そんな23歳の世界で戦えるショット力をひも解く。
岡山絵里のでんでん太鼓スイング【連続写真】
■「うらやましい」と語られるスイング 肝は前傾角度
2015年のファイナルQTで10位に入りレギュラーツアーへの出場権を獲得。翌16年には初シード入り。さらに18年には「リゾートトラストレデイス」で初優勝。同年、海外女子メジャー「全英リコー女子オープン」に出場も果たした岡山。今季は、優勝こそないが19試合に出場して予選落ちはなし。
予選会を勝ち抜いて全米女子オープンに出場するなどツアーでも確固たる地位を築いている。

その安定感、高い成績を生み出しているのが、パーオン率4位につける切れ味鋭いアイアンショット。「多くの女子プロがうらやましいと感じるプロの1人。プレーを見ていてポテンシャル、センスの高さを感じます」と辻村氏が語るスイングには、秘密がある。

「今年はとても気にしている」と話すのがブレないスイングプレーン。驚異的な安定感について、辻村氏も「すばらしい」と評する。


「実際にスイングの後方からの映像にテレビのリモコンなどを当ててもらえば分かると思うのですが、岡山さんは構えたアドレスのシャフトが作る角度の線どおりに上がって、トップからクラブが降りてくる。そしてフィニッシュのシャフトの角度もアドレス時のそれと平行です。スイングプレーンで一切波を打つことがありません。なぜこれができるかというと、体が一切浮かず前傾角度がアドレスから崩れないからです」。クラブの通る道は常に一定。だから打球が大きくブレることがない。


前傾角度のキープはプロでも難しい。角度を保つコツは下半身にあった。「岡山さんはスイング中一切足が伸び上がりません。前傾が崩れてしまう人はスローでスイングを見るとダウンスイングで左足が伸び上がる人が多いんです。また前傾を意識しすぎて上半身に力が入ってしまうことも体が起き上がってしまう原因の1つです。岡山さんも伸び上がりますがそれはインパクトの直後。
前傾角度でお悩みのアマチュアの方は、上半身ではなく下半身を意識してみてください」。

■変わらない前傾角度が生み出す腕の振りは“でんでん太鼓”の原理
岡山といえば安定感だけでなく、飛距離を出せるポテンシャルもある。また、海外メジャーのグリーンでも止められるほどの球の高さもある。それを生み出しているのが、速い腕の振りだ。

「力任せに振っていないのに、なぜ、腕のスピードを出せるかといえば、でんでん太鼓と同じ要領です。しっかりとした軸があって高速で回転するから、その軸に垂直に位置している腕もつられて加速していく。
スピードはあるけど、大振りしていないから安定感が出てくる」。でんでん太鼓でいう持ち手がスイングの軸、そして腕は玉がつけられた紐と考えれば分かりやすい。

その持ち手に秘密がある。腕のスピードを速めようとすると腕を振りがちだが、辻村氏が岡山が速度を出せる理由として上げたのが股関節の動きだという。

「股関節の右から左への入れ替えがとてもうまい。テークバックからトップに向けて股関節を回して右の股関節にグッと力を乗せる。
そこからダウンスイングにかけてためたパワーを左股関節へ一気に乗せる」。この動きがするどい腰、つまり軸の回転が作られ、つられて腕の速い振りが生まれる。辻村氏が「右の股関節が左の股関節を追い抜く」と表現するこの動きが岡山のショット力の肝だ。

だが、最後にポテンシャルを感じているからこその厳しい注文が。「現在パーオン率4位ですが、持っているものからするとまだまだ力を出し切れていないように感じています。1位になれる選手ですから、もっともっと力を磨いて欲しいですね」とエールを送った。

解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、山村彩恵、松森彩夏、永井花奈小祝さくらなどを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。

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