こちら辻村氏に“証言”した森本キャディ
■“相棒”が感じた古江の強さ
「ボギーを打つと隙が見えてしまう。ボギーなしであがれたのは(優勝において)すごく大きかった」。古江はそんな言葉通り、最終ラウンドで1度もスコアを落とすことなく、稲見との一騎打ちで逃げ切った。4日間のフェアウェイキープ率は89.2%。
「フェアウェイを100%でとらえるのは、シーズン通じて1回もできない選手だってかなりの数いるはず。それを週で2回も達成するのは考えられない。必然的にラフから打つ場面も少なくなり、パーオン率も83.3%。それはこの成績が出るよね、という感じです」。辻村氏も、古江の代名詞“曲がらないドライバーショット”には驚くばかりだ。
3打差の2位に終わった稲見も、ラウンド後の会見で「隙がなかった。ミラクルでもないと勝ち目がない」と優勝者を称えるほかなかった。ライバルにもそこまで言わせる古江の強さの理由はどこにあるのか? その“裏付け”を取るため、辻村氏はある人物に連絡した。それが直近の3勝を挙げた大会のうち、2試合で古江のバッグを担いだ森本真祐キャディだ。
■大谷翔平と重なる古江彩佳の言葉
親交が深い森本キャディにラウンド中の古江の様子について聞くと、開口一番返ってきたのが「メンタルが揺るがない」という答えだった。確かに優勝争いの佳境に差し掛かっても、その行動や表情は一定をキープしているように見える。
また技術面でも、こんな話を聞くことができた。ティショットを打った後、古江は「今、いい回転のボールが打てました」と言って、時折満足気な表情を浮かべることがあるという。これを聞いた辻村氏は、「球の回転がすごくイメージできている選手なんだな」ということを感じ取った。
そして、この回転への意識はコースだけにとどまらない。ショット練習場のボールは、基本的には使い回されるため、なかには経年劣化などで芯がズレているものも紛れている。
ある試合で見逃し三振をした大谷は、試合後の会見で記者からこの場面について問われた。すると「あれはボール。もしまた同じボールが同じコースに来ても、僕は振りません」という答えを、自信に満ちた表情で返した。この光景を映像で見ていた森本キャディは、“自分の見極めに絶対の自信を持つ姿”を目の前にいる21歳の若き女子プロゴルファーに重ねた。
■“女子ナンバー1”の再現性あるスイングはどこに秘訣が?
辻村氏は、古江のドライバーから放たれるキレイなバックスピンがかったボールは「捻じれがなく」、そしてこれは「今の女子ゴルフ界でナンバー1」という再現性の高いスイングから生み出されていると説明する。
「テークバックのスムーズさ、ダウンスイングの力感、入射角、クラブパス(インパクト時のクラブの左右軌道)、打点の再現性、この5つが突出しています。軽いインサイドのスイングはブレ幅が本当に少ない。これは、もちろん技術の高さもありますが、どんな場面でも落ち着いた心で振れるということも大事になります。心が体を動かすと考えた時に、その心がズレる時は往々にしてある。古江さんは安定したメンタルで、そのすばらしい技術を引き出しています」
これは前述した森本キャディの言葉にもつながる。
「パットでいろいろな球が出てしまう時は、何通りものラインのイメージが出てしまいます。ボールがキレイな順回転になることで、ライン読みがシンプルになるし、繊細さもでます。もともと古江さんは、3メートル以内の決定力は高く、それに加えタッチを合わせるのもうまい。ジャストタッチで打つ技術もトップクラスといえます。そのうえで抱えていた不安が解消されたとなると、自信も深まりますよね」
そして実際にプレーする姿や森本キャディの話も踏まえた辻村氏は、「ショットもパットも順回転」という表現を用いて、現在の古江の好調ぶりを紐解く。ショットでは捻じれのない、キレイにスピンがかった球がフェアウェイをとらえる。パットも、推進力ある順回転のボールが次々とカップに吸い込まれていく。なによりその好調ぶりを一番近くで見ていたパートナーも感心するほどの精神力が、古江をさらなる高みに押し上げることになるのか。
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、山村彩恵、松森彩夏、小祝さくら、吉田優利、阿部未悠などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。
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