
Recraftのプラットフォームは8カ月前にリリースされたばかりだが、これまでにユーザー数は30万人を超えた。
Recraftは、アドビやCanvaなどの大手企業や各国のスタートアップが熾烈なシェア争いを繰り広げるAIグラフィックデザイン市場に、どのように挑戦しているのだろうか。
ロンドン発、著名機械学習開発者によって設立されたRecraft

基本無料で利用できるウェブ・プラットフォームにサインアップすると、ユーザーはテキストのプロンプトで様々な画像を生成することができる。
生成した画像やイラストレーションに、ジオメトリや線のスタイル選択といった基本ツールやカラーパレットによってカスタマイズを加え、ベクターアートやアイコン、3D画像、イラストを作成できる。
拡大縮小で劣化しづらいベクター画像の生成も可能

昨年の秋に、Adobeの生成AIツール「Adobe Firefly」でベクター画像を生成できるようになったことが発表され、大きな話題となった。このことからも分かるように、これまでほとんどのジェネレーティブAIツールはラスター画像しか生成できなかった。
イラストや3D画像といった、点の集まり(ピクセル)で表現するラスター画像は、複雑な色合いの表現に長けているものの、拡大すると劣化するという欠点があった。
一方、画像や文字などの2次元情報を数値化して記録することで、拡大縮小で劣化しづらいという特徴を持つベクター画像が生成できるようになると、ロゴやアイコンのようなスケーラブルな素材の作成にも、生成した素材を活用できるようになる。これがRecraftを、商用利用するにあたってより魅力的なプラットフォームにしている。
コンシューマーに加えビジネス顧客もターゲット

現在のユーザーのうち、この有料プラン顧客の比率は不明だが、同社は「これまでジェネレーティブAIデザイン・ソリューションの多くは、高度な画像のコントロールを必要とするプロフェッショナルではなく、コンシューマーをターゲットにしてきた。しかし、Recraftは、ベクター画像、スタイルコントロール、エンドツーエンドのコンテンツ制作など、プロフェッショナルなワークフローを提供するものである」として、有料プランを利用するビジネス顧客、プロフェッショナル向けとしてのサービスを目指している。
独自基盤モデル開発で、さらに使いやすい画像生成AIツールを目指す
好調なユーザー数増加を背景に、最近1,200万ユーロの資金調達を発表したRecraftだが、今後は、オープンソースのAIプラットフォームを利用するのではなく、事前に訓練されたディープラーニング・アルゴリズムである独自のグラフィック・デザイン・基盤モデルのトレーニングを進める予定であるという。この投資により、より一貫性のあるデザインや洗練された画像を生成できるツールとして進化することが期待されており、さらに、ブランドイメージの視覚的参照やソーシャルメディアへの投稿などを目的とした、テキストと画像を組み合わせたグラフィックデザインの制作といった新機能の追加も予定されている。
盛り上がる生成AIデザイン市場
このような生成AIを用いたデザインプラットフォーム市場では、すでにプレゼンのカバー画像やソーシャルメディア広告などで活用されている「Typeset」や、直感的で使いやすいプラットフォームが売りの「Kittl」、文章生成をメインとしながらも画像も生成できる「Jasper」といったスタートアップがしのぎを削っている。また、「Canva」や「Adobe」といった大手も、高機能なジェネレーティブAI機能を自社ツールに追加して、ユーザーの根強い支持を得ている。
Recraftは、アイコンや画像などの一貫したデザイン要素を生成するための「独自」の基礎モデル(事前トレーニング済みの深層学習アルゴリズム)を構築することで、より高品質のプロフェッショナル向けツールとして差別化を図ることで、このシェア争いに挑むようだ。
急速に存在感を増す生成AIデザインプラットフォーム

2022年から2032年の間に年平均成長率34%以上で成長が予想されている生成AIの分野、そして、2022年の4億1,200万ドルから2032年には77億5,000万ドルにまで成長するとも予想されているデザイン中心の生成AIの市場で、より高性能となったRecraftは、独自の存在感を示すことができるだろうか。
文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit)