アップルVision Pro、1,000個以上のアプリが登場。OpenAIのCEOは絶賛もメタ・ザッカーバーグCEOは厳しい評価、リリース後の賛否さまざまな声

Vision Pro、52万円超えるヘッドセット、テック企業トップの評価

2024年2月、アップルの複合現実(MR)ヘッドセット「Vision Pro」の販売が開始された。その価格は3,500ドル(約52万5,000円)と、コンシューマ向けヘッドセットとしては非常に高額で、競合デバイスと比べて実際どのようなクオリティなのか、またどのようなことができるのか、多くの人々の関心を集めている。

アップル関連の情報に詳しいアナリスト、ミンチー・クオ氏が推計するところでは、2024年1月19日に始まったVision Proのプレオーダー期間では、約16万~18万台のオーダーがあったという。
また、MacRumorsは2024年1月29日、関係筋の話として同時点までのヘッドセット販売台数は20万台強であると伝えている。

アーリーアダプターらは、早速Vision Proの使用感をレビューしているが、その評価はさまざまだ。

ChatGPT開発企業であるOpenAIのサム・アルトマンCEOは2月10日、X(旧ツイッター)にVision Proを使用した所感として「Vision Proは、iPhoneが登場して以来、2番目にすばらしいテクノロジーだ」という絶賛するメッセージを投稿。

OpenAIは2月初旬に、ChatGPTのVision Pro版をリリースするなど、今後予想されるAIと空間コンピューティングとの融合を見据えた取り組みを進めており、アルトマンCEOのメッセージは、これに対する期待感があらわれたものとなっている。

一方、メタのザッカーバーグCEOはインスタグラムの投稿で、自社のMRヘッドセットQuest3の方が、より価値があり優れた製品であると主張する動画を投稿。テック大手のトップが競合企業の製品を名指しで批評する異例の動画となり注目された。


ザッカーバーグCEOは、実際にVision Proを使用した所感として、ヘッドセット開発企業はそれぞれ異なるデザインを採用しており、強みも異なるが、複合現実向けのヘッドセットとしては、Vision Proに比べQuestの方が多くの点で勝っていると主張している。

1つは、装着感だ。ザッカーバーグCEOは、Quest3はVision Proに比べ120グラム軽いデザインとなっており、エクササイズやゲームに最適だと指摘。その上で、アップルはヘッドセットディスプレイの高画質を優先し、つけ心地やエルゴノミクスに関しては妥協したと批評。このほか、アプリ/コンテンツ数やハンドトラッキングなどでも、Quest3の方が優勢であるという評価を下した。

アプリ数は1,000個以上に、注目アプリとは?

3,500ドルという価格のためマスマーケットへの浸透は難しいと考えられるが、少なくともデベロッパーの関心が高まっているようだ。

当初Vision Proのリリース時におけるアプリ数は150個ほどと言われていたが、2月1日には600個以上の専用アプリがApp Storeに登場。
またアップルのグローバルマーケティング部門のシニアヴァイスプレジデント、グレッグ・ジョスウィアック氏は2月14日Xの投稿で、Vision Pro専用のアプリが1,000個を超えたことを発表しており、約2週間で70%近く増加した格好となる。

Vision Proアプリの中でも注目ジャンルの1つとなるのが動画ストリーミングだろう。

ネットフリックスやYouTubeなどはVision Pro向けの公式アプリをリリースしない方針のようだが、アマゾンプライムビデオ、ESPN、Disney+、PGA Tour、ESPN、NBAなど他の主要動画ストリーミングサービスはすでにVision Proのサポートを表明しており、Vision Proならではの機能を搭載し、利用者の獲得を狙っている。

たとえば、NBAアプリでは、一度に5つの試合放送をストリーミングできる機能を搭載、またPGA Tourアプリにはストリーミング機能に加え、3Dゴルフコース表示とリアルタイムショットトラッキングなど試合観戦の没入感を高める機能が導入されている。

生産性アプリの開発動向も注目されるところ。マイクロソフト、Slack,Zoomなど大手企業各社がVision Pro向けのサポートを明らかにしている一方で、個人開発者もニッチ領域を狙い、さまざまなアプリの開発を進めている。


クリスチャン・セリグ氏が開発したJunoは、YouTubeをVision Pro上で視聴できるアプリ。YouTubeがVision Pro向けの公式アプリをリリースしていないことから、Vision Proの利用者の間では重宝されているようだ。現在、複数のディスプレイを同時視聴することはできないが、Vision Proの仕様上不可能ではなく、今後そのようなアップデートが実装される可能性もある。

コミュニケーションのかたちを大きく変える可能性を持つアプリも登場しており、その進展にも注目が集まっている。

その1つNaviは、リアルタイム翻訳を表示するアプリ。パススルー機能により、会話する相手の姿をディスプレイに投影しつつ、その隣にリアルタイム翻訳を表示し、異なる言語間でもシームレスなコミュニケーションを可能にするものだ。
翻訳表示における若干のラグなどUX・UI的な課題があるものの、今後の改善次第では、かなり有用なアプリになることが期待される。

今後の課題、価格やデザインの改善が必須に

Vision Proにより「空間コンピューティング」という新たな領域を開拓したいアップルだが、ヘッドセットや専用グラスの需要は下落傾向にあり、さらなる普及を狙うのであれば思い切った価格設定や機能が求められる。

市場調査会社Circanaが2023年12月に発表した米国におけるVRヘッドセットとARグラスの販売額は、6億6,400万ドルと前年比で40%の大幅減となった。昨年2%減の11億ドルまで下落したが、そこからさらに下がった格好だ。

アップルはVision Proの廉価版の開発を計画しているとの憶測が流れているが、それでも推定価格は1,500~2,500ドルといわれており、500ドルで提供されているQuest3には及ばない。またThe Vergeは、Vision Proのつけ心地の悪さ、利用後の頭痛や眼精疲労などの理由から返品する購入者が増えていると報じており、デザインや仕様に関する課題も少なくないことがうかがえる。


文:細谷元(Livit