領域を超え、食の未来を考える。世界のイノベーター100名が登壇「SKS JAPAN 2024」開催レポート
自給率低下やフードロス、気候変動、飢餓など、食を取り巻く課題は世界中で山積する。一方で食関連産業の裾野は広く、産官学連携やスタートアップの躍進により、フードテックの開発・実装が活発化。
領域を超えた共創は国際レベルでも進んでおり、AIを筆頭に革新的なソリューションも見られるようになった。

こうした潮流と連動するように、日本では食の共創を生み出すイベント「SKS JAPAN 2024 -Global Foodtech Summit-」が、2024年10月に開催された。世界で活躍する約100名のイノベーターが登壇し、多様なテーマを議論するセッションを展開する同イベントは、食関連業界で注目を集めている。

今回AMPでは、3日にわたるイベントの中から、一部のセッションを取材。食の領域では、今何が起きているのか。最新動向をお届けする。

食を進化させる、国内最大規模のフードテックカンファレンス

10月24日~26日、東京・日本橋のCOREDO室町テラスにて、「SKS JAPAN 2024 -Global Foodtech Summit-」が開催された。株式会社UnlocXとThe Spoonの共同開催である同イベントは、フードテックのカンファレンスとしては国内最大規模であり、世界中から食関連のイノベーターが集うことを特徴とする。

7回目を迎える今年は、国内外約100名の登壇者による40近くのセッションを実施。また日本橋仲通りでは一般参加者に向けた街中展示「食のみらい横丁」も開催され、新たな食を体験する場が提供された。

イベント最初のセッション「フードイノベーションの全体像と現在地」では、著書『フードテック革命』でも知られる株式会社UnlocXの田中宏隆氏が登壇。SKS JAPANを通じて実現すべきビジョンを語った。

田中氏「SKS JAPAN2024のテーマは、『Creating our futures through food innovation~ UNLOCK & CO-CREATE beyond borders ~』。
食の進化を通じて、私たちがつくりたい未来をつくるという思いを込めています。未来というのは画一的なものではなく、さまざまな人の思いが統合されたもの。それを業界や企業、国籍を超えて一緒につくるのが、SKS JAPANのゴールです。スタートアップ、企業、大学、メディア、シェフ、料理学校、投資家、官僚、政治家、AIキャラクターに至るまで、さまざまなパートナーが集まり、同じビジョンを語るエコシステムをつくることで、新しいことが起こると考えています」

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株式会社UnlocX 田中宏隆氏その後、田中氏は独自に作成した「Food Innovation Map(Ver.4)」を提示。購買体験や調理、食体験の進化、レジリエンスや再生・循環型食、文化継承など、食のイノベーションがもたらす可能性を伝えていく。特に近年注目すべきワードとして、「次世代食品開発におけるデジタル化・AI活用」「農業・畜産業の持続可能性向上」「容器、発酵、急速冷凍・急速解凍などの品質向上技術」を挙げた。

田中氏「Food Innovation MapのVer.4には、技術面における『食のデジタルプラットフォーム構築』や『電気調味・音響調味、多感覚知覚・五感活用などコアテクノロジー』、社会実装モデルとして『LIVING LAB』や『都市での実装』などを、新たなキーワードとして加えました。キッチンやレストランの領域で顕著なAIの導入、伝統食の進化・活用にも注目が集まっています」

セッションで紹介されたFood Innovation Mapテクノロジー、ビジネス、経済モデルなど、複層的なレイヤーでイノベーションが進展する食の領域。では、こうした動きはどのように社会課題と結びつくのか。次より二つのセッションを見ていこう。

顕在化する災害時の食料課題、行政と民間は何をすべきか

能登半島地震での食料不足に見られるように、災害と食の課題は深刻化している。2日目に行われたセッション「宇宙から地球のレジリエンスへ、食のエコノミーの未来を切り拓く挑戦」では、災害時の食やサプライチェーンに関する課題について、議論が行われた。一般社団法人 SPACE FOODSPHEREの菊池優太氏は、自身が取り組む「Space Reverse Innovation」という概念を説明する。


菊池氏「私たちは宇宙という極限環境での生活に対し、フードテックをはじめ地上のさまざまな知見を組み合わせることでソリューションを開発し、発展させた技術を再び地上に還元する『Space Reverse Innovation』に取り組んでいます。地上と宇宙の食の共通課題に取り組むのは、宇宙というゼロベースの空間だからこそ、制約にとらわれずにソリューションを開発できるからです。地震や豪雨といった大規模災害はいつ起こるかわかりませんが、顕在化している食の課題は解決を急がなければなりません。本日は皆さんと、レジリエンスなどをキーワードにお話をしたいと考えています」

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一般社団法人 SPACE FOODSPHERE 菊池優太氏宇宙関連事業の立上げ支援などを展開する株式会社Space Food Lab.の浅野高光氏は、これまで被災地でも活動してきたことから、防災食への課題意識を高めている。

浅野氏「日本における防災食の市場は、わずか300億円程度。備えは不足している状況ですが、消費者の欲望に基づくマーケットではないため、経済が動きにくいです。こうした中で私たちが重視するのは、エコノミーの仕組みをつくること。特に『動くもの』である流通と『動かないもの』である不動産に潜ませることに、注目しています。例えばユーズドマーケットなど2次流通に防災食を潜ませ、経済的に回しながら、いざという時に使用するような仕組みが必要になるでしょう」

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株式会社Space Food Lab. 浅野高光氏社会課題が解決された未来社会のデザインに取り組む、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの木下祐輔氏は、防災・レジリエンスに関するリサーチの結果を共有した。

木下氏「行政の視点に立つと、熊本地震におけるプッシュ型支援をはじめ、災害対応は高度化しています。しかし物資の処理能力・輸送力など、自治体の対応には限界があるのも事実です。一方、期待される民間の取り組みですが、何らかの被災地支援の経験がある企業は4割にとどまり、自助ですら困難な現状があります。
突破口となり得るのは、災害対策・対応における金銭的なインセンティブかもしれません。『災害対策=無償』という無言の圧力もあると思いますので、いかに価値観や仕組みを変える取り組みを進めるかが、ポイントになるでしょう」

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三菱UFJリサーチ&コンサルティング 木下祐輔氏災害の現場に立ち、防災食の課題を目の当たりにしてきた公益財団法人 日本財団の樋口裕司氏は、対策として「一次産業に防災食を潜ませる」ことに期待を寄せる。

樋口氏「2週間ほど孤立した地域でも、一次産業が盛んであれば、食料を自分たちで賄えた事例があります。都市部で行うには課題もありますが、自給自足の力を平時から備えておくことは有効です。一方、食料を届ける仕組みも大切で、テクノロジーを活用し、流通の細かな情報を可視化するシステムが構築されれば、行政も災害時に動きやすいのではないでしょうか」

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公益財団法人 日本財団 樋口裕司氏

三菱UFJ銀行が挑む、フードエコシステムの構築

SKS JAPAN2024のプラチナスポンサーである三菱UFJ銀行は、金融機関の立場から食の社会課題解決に取り組んでいる。セッション「MUFGが描く2050年のFuture Food Vision ~食と新世界へ」では、同社の小杉裕司氏より、未来に向けたビジョンと現状の課題が示された。

小杉氏「食は、環境、経済、栄養、健康など、さまざまな課題につながる分野。また、日本の食品企業に目を向けると、欧米と比べて売上や時価総額が小規模であり、グローバルな発言力を高めるためには、業界再編なども必要です。一方、市場規模などを見ると、食関連産業は大きな可能性を秘めています。日本のメガバンクとして、社会課題に対して真剣に取り組む価値があると考え、私たちは国内初のフードエコシステムの構築に挑んでいます」

三菱UFJ銀行が目指す領域は、二つに大別される。一つは「社会課題と食」で、38%にとどまる日本の食料自給率、肥料の輸入依存、就農人口の高齢化など、レジリエンスに関わる課題の解決だ。もう一つは、「多様な価値と食」。食べることで個人のウェルビーイングを実現する方向性である。


小杉氏「2050年には、これらを両立する世界を実現したいと考えています。そうした中で当社ができるのは、スタートアップを取り巻くステークホルダーをつなげることです。スタートアップ、中堅・中小企業、大企業、IPO(新規公開株式)、トレードセール(M&A)、富裕層向けのウェルスマネジメント領域など、金融機関である当社はさまざまな取引を行なっています。これらを有機的につなげることで、有望なスタートアップを発掘できると考えています」

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株式会社三菱UFJ銀行 小杉裕司氏具体的な取り組みも進んでいる。農業法人のイオンアグリ創造とは、金融と農業を掛け合わせた事業共創を目指すためMOUを締結し、持続可能な農業パッケージの開発を推進。三井不動産とは、街の新しい実証基盤・共創拠点を通じ、食の産業創造を推進する協業がスタートした。

小杉氏「UnlocXの田中さん、Beyond Next Venturesの有馬暁澄さんなど、さまざまなプレイヤーとコンソーシアム『Next Prime Food』を立ち上げ、ユニコーン企業の創出にも取り組んでいきます。また国際的ルールメイクに向けては、アカデミアや政府、行政機関、大企業と連携し、日本版栄養プロファイリングモデルの発信などを進める予定です」

では三菱UFJ銀行は、どのような形で食の課題解決をビジネス化するのだろうか。

小杉氏「現在、金融機関は金利上昇により好決算となっています。今後5年は口座数を増やすなど、今ある基盤を活かした戦略が求められるでしょう。一方、10年単位で考えると、非連続的な仕組みを今から育てていく必要があります。ここで重要なのが、社会課題解決を起点にしたビジネスであり、食という領域です。
目先の利益を重視すると解決できる課題も小さくなってしまうので、長期的な視野で向き合っていきます」

共創により実現する、2050年の食システム

領域の垣根を越え、さまざまなステークホルダーがビジョンを共有したSKS JAPAN 2024。個々の取り組みは動き出したばかりだが、共創は大きなパワーとなり、未来の食のカタチをつくりだしていくのだろう。小杉氏がセッション内で示した一枚の絵「Food Ark 8(食の未来丸8号)」は、今回のイベントを象徴している。

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株式会社三菱UFJ銀行が発表したFood Ark 8(食の未来丸8号)小杉氏「300m級の巨大なコンテナ船でバーティカルファーミングを行い、食品を生産します。また食の大学や寮も設け、研究技術も結集します。地震が起これば被災地の沿岸に船が出動し、食料を供給したり、人を住ませたりすることも可能です。この構想を2050年に実現すべく、要素技術に私たちが投資をしていく。大きなビジョンを示すことで、スタートアップにも集まってもらう。そんな思いを込め、この絵を作成しました」

人間にとって不可欠な存在であり、幸せをもたらす食。多くの課題を乗り越えることで、2050年にはサステナブルな食のシステムが完成するのかもしれない。イノベーターたちが挑む社会変革に、今後も注目したい。

取材・文:相澤優太
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