「報道はマラソン」CNN特派員モンゴメリー花子の“折れないキャリア”のつくり方
あらゆる仕事で“伝える力”が問われるなか、人々の声を世界に届け続けている日本人ジャーナリストがいる。国際ニュースネットワークCNNの東京支局にて国際特派員を務める、モンゴメリー花子氏だ。


多様な価値観や文化が交錯するニュース現場で彼女が大切にしてきたのは、視聴者の興味関心を惹きつける“ストーリーテリング”。単に情報を伝えるのではなく、「どの視点から伝えるか」「誰が何を感じ、何を語っているか」にこだわり、日々の報道と向き合っている。

本記事では、モンゴメリー氏のこれまでのキャリアと、グローバルメディアでの経験を通して培われた、活躍し続けるための働き方のヒントを探った。これから社会に羽ばたく若い世代にとっての道標となる言葉を拾い上げる。

ストーリーテリングを強みに、国際舞台で活躍

ニューヨーク育ちのモンゴメリー氏は、大学を卒業後デジタルメディアVICEのリポーターとして活動。2023年からCNNの特派員を務めており、ジャーナリストとしてのキャリアは5年目に突入した。日本のみならずアジア各国のニュースを世界へ発信する役割を担っている。

報道の守備範囲は、政治・経済・社会問題から、災害や事件などのブレイキングニュースまで多岐にわたる。テレビ用のスクリプト作成や中継リポートに加え、動画やSNS向けの原稿作成も日々の業務だという。

「今年の3月にミャンマーで大きな地震が起きた時、万博の取材で大阪を訪れていました。普段は東京からお伝えすることが多いのですが、その時は急きょ大阪から地震のニュースをお届けしたんです」と振り返るモンゴメリー氏。広い領域での取材に加え、臨機応変な対応を求められるのが報道の現場である。

「CNNに入るまで経済に触れる機会があまりなかったのですが、入社する際にはたくさん勉強しました。
ジャンルを問わず最新情報を頭に入れておく必要があります」

「報道はマラソン」CNN特派員モンゴメリー花子の“折れないキ...の画像はこちら >>
多様な情報を扱う現場で、彼女がとりわけ大切にしているのが“ストーリーテリング”の力だ。

「ジャーナリストとして真実を伝える使命がありますが、同時に、視聴者が関心を持つには『どう伝えるか』も重要です。例えば、地震の被害を伝えるとき、被災者の人数など数字だけを報じても心には届きません。プライバシーには配慮しつつ、被災者一人ひとりの体験や声に焦点を当てることで、視聴者とのつながりが生まれると信じています」

メディアが乱立するなか、ニュースバリューを高めるためにも、独自性と物語性を持ったアプローチが不可欠だと語るモンゴメリー氏。実は、ジャーナリストを志す前は脚本家に憧れていたというエピソードからも“物語性”に対する彼女のこだわりがうかがえる。

「キャリアをスタートした頃の映像を見るのは恥ずかしいですね。でも、声のトーンやジェスチャー、言葉の選び方などのテクニックも含め、成長できたと感じます。そして、これからも“伝える力”は最も磨いていきたいスキルです」

ブレイキングニュースでは中継リポーターを務めることも多い。カメラの前に立つプレッシャーの大きさは想像に難くないが、緊張とはどのように向き合っているのだろうか。

「もちろん緊張します。でもそれは挑戦の場に立てている証拠です。油断してキャスターからの質問に答えられないことがないよう、事前準備は十分に行います。
緊張するからこそ気が引き締まるので、報道に携わる者として必要な感情だと捉えています」

ジャーナリストとして守る「中立」の価値観

グローバルメディアで働くうえで欠かせないのが、多様性への理解だろう。ニューヨークでもとくに移民が多いクイーンズ区で育ったモンゴメリー氏は、自然と多様な価値観に囲まれて成長したようだ。そうしたなか、CNNへ入社するにあたって意識したのは、同社の本拠地であるアメリカを二分する政治的背景への理解だという。

アメリカでは、都市部はリベラルな民主党、地方は保守的な共和党の支持者が多く、地域によって政治的な傾向が異なる。モンゴメリー氏が育ったニューヨークは民主党の地盤だ。しかし、彼女はジャーナリストとしては偏りがなく中立性を大切にしたいと語る。

「ジャーナリストは多様な意見を吸い上げる必要がありますので、前提として中立であることが大切です。政治においてもダイバーシティは常に意識しなければなりません」

世の中に健全な議論を投げかけるためには中立性が必要だ。そして、前述したストーリーテリングが、モンゴメリー氏のジャーナリストとしての行動指針となっている。

報道はマラソン。体力とメンタルの持久力がカギ

CNNでは24時間放送の体制を実装している。ゆえに非常にハードな職場環境を想像してしまうが、実際は個人の時間やメンタルヘルスを大切にする文化が根付いているという。

「特派員という仕事柄もありますが、勤務時間は個人の裁量に任せられており、堅苦しくなくフレキシブルな働き方ができています。
また、災害や紛争など心に重くのしかかる重大なニュースも扱うため、メンタルヘルスのサポート体制も整っているんです。必要があればカウンセラーと話す機会を設けてくれます。そういった点はグローバルな企業らしい文化ではないでしょうか」

「報道はマラソン」CNN特派員モンゴメリー花子の“折れないキャリア”のつくり方
モンゴメリー氏は、報道の仕事を「マラソン」に例える。変化の激しい世の中のニュースを伝え続けていくには、持久力が必要だからだ。

「報道はマラソンと同じ長期戦。エネルギー切れになっては途中で気持ちが折れてしまいます。長くキャリアを重ねるためには、しっかりと休むことも必要です。私は睡眠の質を上げるため、就寝の2時間前にはブルーライトから離れるようにしています。そして、週末には水泳をしたり、外へ出かけて普段なかなかできないアクティビティに挑戦したりと、積極的にリフレッシュしています」

自分との対話を大切にしたキャリア形成

先ごろ発表された世界経済フォーラムの「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数」では、148カ国中118位となった日本。G7の中では最下位の結果だった。まだまだ女性の活躍が少ないと言わざるを得ない状況だが、モンゴメリー氏には目標とする女性ロールモデルはいるのだろうか。また、キャリアを形成するうえで大切にしている考えをうかがった。

「CNNには、クリスティアン・アマンプールやクラリッサ・ウォードといった、歴史に名を残すジャーナリストがいます。
二人とも家庭を持ち子育てもしている女性です。私自身、結婚や出産に関してはまだ現実的な話ではありませんが、彼女たちの活躍を見るとパワーをもらえますし、どんなライフステージでも活躍できるのだと勇気づけられます。私は働き方に制限をかけたくないので、チャレンジあるのみです!」

そして、モンゴメリー氏はこれからキャリアを築く若年層に向けて「自分との対話を大切にしてほしい」と呼びかける。

「どんな選択をするにしても、自分の心に素直にならないと望む環境は得られません。常に自分との対話を大切にしてキャリアの選択をしてほしいです。私はずっと報道の現場に立つことを夢見てきました。だからこそ、今CNNで働けていることに誇りを持ち、感謝の気持ちを忘れないようにしています」

評価されるのはユニークさ。失敗を恐れずに挑戦を

CNNではどのような人材が評価されているのだろうか。そして、グローバルに活躍したいと考えながらも、文化や言語の違いから一歩を踏み出せないでいる人たちへのアドバイスをうかがった。

「CNNに限らず、ユニークな人材であることは評価に値すると思います。自分にしか伝えられないニュースがあったり、ほかの人たちが持ち合わせていないアイデアがあったり。これはストーリーテリングにも通じるもので、どの分野でも独自性は強みになります。


グローバル人材になるためのアドバイスですが、とくに語学は机上の勉強だけではなく、まずは臆することなく会話にチャレンジしてみてください。たとえ失敗したとしても、相手への敬意を持って接することができれば大丈夫です。きっと失敗も糧になるはずです」

「報道はマラソン」CNN特派員モンゴメリー花子の“折れないキャリア”のつくり方
最後に将来の展望を尋ねると、「紛争地域の人権問題を取材したい」との答えが返ってきた。

モンゴメリー氏がジャーナリストを志したのは、中学1年生の時に受けた人権問題の授業がきっかけだ。ルワンダのジェノサイドやイラク戦争の事例に触れるうち、「戦地で暮らす人々の声を伝えたい」と思うようになったという。

「本来、戦争は起きてはならないものなのに、どうして人間は繰り返してしまうのでしょうか。気になると居ても立ってもいられない性格なので、いずれは紛争地域に赴き、現地の人権問題に焦点を当てたいなと思っています」

自分との対話を大切にし、休息を意識的に取り入れること。そして常にユニークであること——。これらはジャーナリストに限らず、すべての働く人が持続的なキャリアを築くためのヒントだ。

今後ますます注目されるモンゴメリー氏の活躍に期待したい。彼女がこれから描くストーリーは、きっと多くの人の背中を押し、世界をより良い方向へと導いてくれるだろう。

取材・文:安海まりこ
編集部おすすめ