再生可能エネルギーは長らく「環境に優しいから」という理由で推進されてきた。だが今や、その選択は倫理的なものにとどまらない。
国連の最新レポートや海外の研究によれば、太陽光発電は世界の多くの地域で石炭や天然ガスといった化石燃料よりも安価になっている。つまり「環境のため」ではなく「経済的に合理的だから」導入する時代が訪れているのだ。

こうした潮流は、エネルギー転換が加速する現実を物語る。特に2025年7月に国連事務総長 アントニオ・グテーレス氏が発表した声明や、国連関連機関が共同で作成した「Tracking SDG7: The Energy Progress Report 2025」などのレポートは、2050年までに再生可能エネルギーが世界の主力電源になるとの見通しを示し、各国の政策決定に大きな影響を与えている。

本記事では、太陽光が化石燃料を下回るケースの増加、国連が描く2050年の見通し、日本が抱える輸入依存の課題、そして「経済合理性」によって広がる新しい再エネの潮流について紹介する。

太陽光のコスト逆転

近年、太陽光発電のコストは劇的に低下している。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)のデータによれば、太陽光の平均発電コスト(LCOE)は2010年から2020年までに80%以上下落した。特に日射量の豊富な地域では、太陽光が石炭やガスを完全に下回るケースが一般化しつつある。

従来、化石燃料には莫大な補助金が投入されてきた。だが補助金を考慮してなお、再生可能エネルギーの方が安いという現象が世界の複数の地域で確認されている。たとえば、中東、アジア、そして欧州の一部では、太陽光の新規設備の発電単価が既存の石炭火力よりも低い。

さらに投資の流れも明確だ。2024年だけで、グリーンエネルギー投資は化石燃料投資を8,000億ドル上回ったと報告されている。
これは市場がすでに再エネを「合理的な選択」として評価していることの象徴だ。

つまり「太陽光は高い」という従来のイメージはすでに時代遅れとなり、経済的合理性そのものが再エネを後押ししている。

国連レポート2025の見通し

2025年7月、国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏は「再生可能エネルギーへの転換は止められない(unstoppable)」と表明し、世界的なクリーンエネルギー移行を加速する必要性を訴えた。これに加えて、国連関連機関(UN‑Energy、IEA、WMOなど)が共同で発表した「Tracking SDG7: The Energy Progress Report 2025」 では、再エネ導入の進展が詳細に分析されている。

IEAの最新シナリオによれば、承認済みの気候政策が着実に実行された場合、2050年には再生可能エネルギーが世界のエネルギー供給の約75%を占める可能性があるとされる。また、RFF(Resources for the Future)の「Global Energy Outlook 2025」では、風力・太陽光を中心とする再エネが2050年時点で50%以上を占めると予測されている。

さらに国連の複数機関がまとめた報告書「Seizing the Moment of Opportunity」によれば、昨年の世界の電力供給の増加分の74%が風力・太陽光などの再エネによるもので、同期間に新たに追加された電力容量の92.5%が再生可能エネルギーだった。

また、電気自動車の販売台数も2015年の50万台から2024年には1,700万台超へと急増しており、エネルギー転換が単なる未来の予測にとどまらず、すでに現実として進行していることを示している。

これらの予測や現状から、再生可能エネルギーが近い未来に世界の電力供給において主力の地位を確立することを示唆している。

一方で、移行が遅れる国や地域には深刻なリスクが待ち受けている。化石燃料に依存し続ければ、価格変動に伴う経済的打撃や、地政学的リスクによる供給不安が高まる。特にエネルギー輸入国にとっては、国家安全保障の観点からも再エネへのシフトが不可欠だ。この声明と報告は、エネルギー政策を「環境配慮」の枠を超えて「国益のための必須課題」と位置づける必要性を強調している。


日本における課題とチャンス

日本はエネルギー資源のほとんどを輸入に頼っている。IEAや資源エネルギー庁のデータによれば、2022年度における化石燃料依存率は83.5%に達し、エネルギー自給率はわずか1割台にとどまっている。石油や天然ガス、石炭といった化石燃料は価格変動の影響を受けやすく、円安や国際紛争が直撃すれば電気料金の高騰は避けられない。実際、近年の電気料金の上昇は多くの家庭や企業を直撃している。

こうした状況に対し、国内に豊富に存在する太陽光資源を活用することは、電気料金の安定化やエネルギー自給率の向上につながるだけでなく、災害時のレジリエンスを高める効果もある。日本のように自然災害が多い国にとって、この分散型エネルギーの利点は大きい。もっとも、導入コストや送電網の整備、規制の見直しなど課題も少なくない。

だが政策と投資次第で、日本は「取り残される国」にも「先頭に立つ国」にもなり得る。再生可能エネルギーへの投資は、新しい雇用を生み出し、地方経済の活性化にも寄与する可能性が高く、経済的合理性と安全保障を兼ね備えた未来への重要な選択肢となる。

社会への影響

かつては「環境に配慮するために再エネを導入する」という価値観が主流だった。だが今や、その理由は「経済的に得だから」へと変わりつつある。家庭でも企業でも、経済的な合理性に基づく選択として太陽光を取り入れる動きが広がっており、この変化は社会全体の価値観に影響を与えている。

特にZ世代や若年層はこの流れに敏感で、環境配慮を当然視するだけでなく、投資やライフスタイルにおいても「経済合理性」と「持続可能性」を両立させる行動を積極的に取っている。太陽光発電や再エネ関連企業への投資、シェアリングエコノミー型のエネルギー利用などはその典型例だ。


こうした動きは「環境のため」から「経済のため」へと理由が転換していることを示すものであり、単にエネルギー分野にとどまらず、社会全体に新しい価値観を広げている。結果として、再生可能エネルギーは「未来の常識」として、次世代の社会構造や経済システムに深く根付いていくことになるだろう。

日本にとっての転換点

太陽光発電の経済的優位性はもはや疑いようがない。IEAや国連関連機関の見通しが示すように、世界は2050年に向けて再生可能エネルギーを主力に据える方向へと突き進んでいる。

日本にとっても、いまが転換点だ。輸入依存のリスクを軽減し、経済と安全保障を強化するためには、太陽光をはじめとする再生可能エネルギーの普及が不可欠である。

「再エネは未来の常識」という認識を持つことが、これからの社会を形づくる鍵となるだろう。

文:中井 千尋(Livit
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