ニッポン放送「八木亜希子 LOVE&MELODY」(毎週土曜日8時30分~10時50分)の番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【東京新聞 プレゼンツ 10時のグッとストーリー】
中央線沿線を代表する街、東京・阿佐ヶ谷に開店して35年。独特の内装と雰囲気で、年配の方から若い世代まで、幅広い層のお客さんに親しまれている喫茶店があります。
JR阿佐ヶ谷駅の北口を出てすぐ、うっそうと茂ったブナの木が目印の「喫茶 gion(ギオン)」。現在は夜8時までの短縮営業ですが、コロナ禍の前は朝8時半から深夜2時まで営業。年中無休です。「お店に来たお客さんが、ここでどれだけ素敵な時間を過ごしてくれるかが大切なんです」と語るのは、オーナーの 関口宗良(せきぐち・もとよし)さん。少年時代を阿佐ヶ谷で過ごし、80年代半ば、生まれ育った阿佐ヶ谷に「喫茶gion」をオープンしました。
「私は本が大好きなので、ゆっくり本が読める喫茶店が作りたかったんです」
関口さんは家庭の事情で、10代から親と離れて、自分で働いて生計を立てていました。ある日、その働きぶりを見ていた建設会社の社長に見込まれ「吉祥寺で喫茶店をやってみないか?」と経営を任されます。「全部1人でやっていたので、1日16時間ぐらい働いてました。

それから10年以上が経ったある日、阿佐ヶ谷駅そばの喫茶店が店をたたむことになり、関口さんはその場所を借りて独立、自分の喫茶店を始めようと決意します。実は、偶然にもその店は、前の経営者が関口さんのお父さんでした。「父も喫茶店をやっていましたけど、居抜きではなく、店の内装も外観も一から作り直しました。私には私のやり方がありますから」。……それが現在の「喫茶gion」です。
コツコツ貯めたお金を元手に、資金が足りない部分は後から付け足していきました。表のブナの木は苗木を買ってきて育てたもので、天井からぶら下がっているランプも、開店当時はごくわずかでした。
「いつか、もっとたくさんランプを飾ろうと、先にコンセントだけは作っておいたんです」

どうしたらお客さんが居心地のいい空間ができるのか、開店にあたっては、様々な喫茶店を回って研究。店内を彩るインテリアや絵画は、関口さんが気に入ったものを購入し、徐々に増やしていきました。名物の「イスがブランコの席」は吉祥寺のジャズ喫茶にあったものをヒントに設置。
また飲食のメニューにもこだわり、アイスコーヒーは高級なエヴァミルクをなみなみと注ぎストローで混ぜず、グラスに口を付けて飲むのがgion流。エヴァミルクとコーヒーが口の中で混じり合い、濃厚な味わいが楽しめます。これでお値段は460円。名物のナポリタンも、20種類以上の具材をじっくりと煮込んだソースは関口さんが研究を重ねて作り上げたもので、これを目当てに来るお客さんも多いとか。
「シメジやマイタケなど、隠し味でキノコを入れたら、さらにおいしくなりました」

関口さんが愛情をもって一から作り上げていった「喫茶gion」は、阿佐ヶ谷の人たちの集いの場となり、コロナ禍の前は開店と同時に満席になる人気店に。今は8時閉店ですが、深夜2時まで営業していたのも、終電で夜遅く阿佐ヶ谷に帰ってきた人たちにも、やすらぎの時間を提供したいという配慮からです。
阿佐ヶ谷は昔から作家たちが住み、文化の香りが漂う街。本を読みに来るお客さんたちもいます。お客さんにくつろいでもらうため、女性店員さんは性格面を重視して採用。いい人材を集めるために、時給も上げ、制服のデザインも研究し、今では欠員が出るとすぐ応募が来るようになりました。
「うちで働いている子は、みんなお客さん思いのいい子たちばかりですよ。

外観、内装、インテリア、メニュー、店員さん……あらゆるところにこだわり、創意工夫を重ねて「喫茶gion」を創り上げてきた関口さんは言います。
「理想は、自分が楽しめる店ですね。今は経営者というより、1人のお客として、毎日店に来ています(笑)」
喫茶ギオン東京都杉並区阿佐谷北1丁目3-3 川染ビル 1F
03-3338-4381 年中無休
radikoのタイムフリーを聴く:https://radiko.jp/share/?sid=LFR&t=20210717100000