大人になると、入学式もなければクラス替えもなく、ドキドキするような出会いの場なんて、合コンくらいになってしまう。そんな誂(あつら)えものめいた出会いなんて、何かこうロマンに欠けるような気がしないでもないけれど、現実とは悲しいくらいせこいサイズで出来上がっているものなのである。
『メイの天使』の主人公はイギリス人の少年タム。離婚した母を「父さんと暮らしたい」と泣いて困らせて、手伝いをしようともしない、少しひねくれた男の子だ。ある日、人なつこい野良犬ウィニーに導かれるように廃屋の暖炉を抜けたタムは、第二次大戦中の世界にワープしてしまう。散々な目に遭っているタムを窮地から救ってくれたのが戦災孤児の少女メイ。豚を馬のように乗りこなす野生児だ。
タムが自分の世界に戻ってきてから知ることになる、農場とメイに起こった出来事は、読んでいて「ええっ!」と小さな叫び声を上げ、涙ぐんでしまうほど哀しい。でも、タムは諦めない。
ボーイ・ミーツ・ガール。タムとメイの出会いと別れ、そして劇的な再会を描いたこの物語の読後感の素晴らしさは格別だ。今回、読み返してみて、初読時と同じ箇所で胸詰まらせ、嗚咽をもらしてしまったほどなんである。
【この書評が収録されている書籍】
【書き手】
豊崎 由美
1961年生まれ。ライター、ブックレビュアー。「週刊新潮」「中日新聞」「DIME」などで書評を連載。
【初出メディア】
流行通信 2002年5月号
【書誌情報】
メイの天使著者:メルヴィン・バージェス
翻訳:石田 善彦
出版社:東京創元社
装丁:単行本(166ページ)
発売日:1997-04-01
ISBN-10:4488013724
ISBN-13:978-4488013721