本記事では住宅・不動産ジャーナリストの山下和之氏が、資産価値を重視するマンション選びのヒントをお届けします。
■リセールバリューとは、資産価値の変化を測る指標
不動産調査会社の東京カンテイでは、毎年「中古マンションのリセールバリュー」を調査しています。10年前に分譲されたマンションの分譲価格に対して、現在の中古マンション市場ではいくらで取引されているかを比較、資産価値の変化を見れるようになっています。
リセールバリューの計算は、中古流通時の価格÷新築分譲時の価格×100で求められます。
例えば、10年前に5000万円で分譲されたマンションが、現在の流通市場では6000万円で取引されていれば、6000万円÷5000万円×100で、リセールバリューは120%です。反対に4000万円に下がっていると、4000万円÷5000万円×100の80%になります。
リセールバリューの数字が100%を超えて大きいほど資産価値が高まっていて、100%以下の小さい数字だと資産価値が下がっていることになります。
■首都圏マンションは、10年で1.5倍に上昇
首都圏と近畿圏のマンションのリセールバリュー平均は図表1にある通りです。
首都圏の2018年は91.4%ですから、当時は平均すると10年間で1割ほど資産価値が低下していたわけです。年数が経過すれば、ある程度資産価値が低下するのが当たり前だったと言っていいでしょう。
それが2020年には100%を超えて、2024年は147.8%まで上昇しています。10年間でおよそ1.5倍に資産価値が高まっていることになります。いかにここ数年のマンション価格高騰が著しいものであるかが、よく分かります。

近畿圏は首都圏より若干低いとはいえ、2024年は136.6%ですからやはり大きく上昇しています。
調査にあたった東京カンテイによると、首都圏で調査対象となったのは372駅で、リセールバリューが150%以上になったのが127駅、100%以上150%未満が236駅で、合計363駅の価格が10年前より高くなっているわけです。反対に100%未満で資産価値が低下した駅はわずか9駅でした。
■山手線内側の地下鉄駅が上位に
リセールバリューが150%以上の駅は、都心の地下鉄の駅のほとんどと、その外側のJR山手線沿線に広がっています。それを取り囲むように、首都圏全域にリセールバリュー100%以上150%未満の駅が続いています。
首都圏でリセールバリューが最も高かったのは、図表2にあるように東京メトロ半蔵門線の半蔵門駅の337.9%でした。10年前の分譲時の坪(約3.3㎡)単価は483.1万円だったのが、2024年には1632.6万円になっています。10年間で3.5倍近くに上がったことになります。4位の東京メトロ有楽町線の東池袋駅までが300%台で、この表には全てありませんが、31位までが200%台です。

50位までを見ると、東京メトロと都営地下鉄の地下鉄各線の駅が31駅を占め、50位までの6割強を占めています。次いでJR山手線や総武線(中央線)のJRの駅が11駅で、ほかには東急線などが続いています。
■都心では希少性の高い、築10年前後のマンション
首都圏リセールバリュートップの半蔵門駅は、高級住宅地として人気の高い千代田区一番町から六番町までの「番町」アドレスに隣接しています。リセールバリュー調査対象の築10年前後のマンションは、ほとんど大手デベロッパーが手掛けた大規模なフラッグシップマンションで、大半が最寄り駅から徒歩5分と交通アクセスに恵まれています。
番町アドレスでは新築マンションはめったに出てこないですし、出てきても買い手が殺到して、抽選になるなど、簡単には買えません。その分、築10年前後の状態のいいマンションの希少性が高く、価格の上昇がやみません。当分リセールバリューも上がり続けるのではないでしょうか。
2位の東京メトロ南北線の六本木一丁目駅はリセールバリューが325.4%です。六本木のほか、赤坂、青山、麻布の3Aと呼ばれる人気の高いエリアの近くにあって、ここも新築マンションの開発がほとんど期待できないエリアだけに、中古マンションの希少性が高まっています。
なお、3位の東京メトロ千代田線・新御茶ノ水駅は322.5%ですが、ここでは物件数が少なく、大手が開発したタワーマンションの上層階の住戸が多数売りに出て相場を引き上げている、といった特殊事情があるようで、あまり参考にならないかもしれません。
■港区、渋谷区、千代田区の都心各区が狙い目だが……
首都圏のリセールバリュー上位を区別に見ると、国内外の投資家や富裕層からニーズの高い港区の駅が30位までの11駅を占めています。赤坂、青山、麻布の3Aエリアを中心にリセールバリューの高い駅が並んでいます。
港区に次いで多かったのが、100年に一度といわれる再開発が進んでいる渋谷駅がある渋谷区の6駅、先の半蔵門駅のある千代田区が5駅、そして中央区が4駅となっています。
そのほかで目立った動きとしては、湾岸エリアから東雲、豊洲などが上位にランクインするようになっている半面、東京オリンピックで人気が高まり、リセールバリューも上昇した国立競技場駅は、2024年にはブームが過ぎてリセールバリューの順位を下げています。
価格水準が高いので取得は容易ではないかもしれませんが、購入後の資産価値の上昇を期待するなら、都心の各区や駅で対象を絞りこんで物件選びするのがいいのではないでしょうか。
出典・引用「東京カンテイ プレスリリース / 2024 年 中古マンションのリセールバリュー(首都圏)」
文:山下 和之
住宅・不動産ジャーナリスト。新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトなどでの執筆・取材、セミナー講演、メディア出演など幅広く活動。著書に『よくわかる不動産業界』『「家を買う。」その前に知っておきたいこと』(いずれも日本実業出版社)、『マイホーム購入 トクする資金プランと税金対策』(学研プラス)、『2017-2018年度版 住宅ローン相談ハンドブック』(近代セールス社)など。