コロナ禍からの旅行需要回復が本格化した2023年5月、ジャパネットは他社に先駆けてクルーズ事業を再開。

定員5686名の大型客船「MSCベリッシマ」を7カ月間にわたり13回もチャーターした取り組みは、新たなクルーズ顧客の獲得に大きく貢献し、「クルーズ・オブ・ザ・イヤー2023」グランプリ(国土交通大臣賞)を受賞した。


2024年にはラグジュアリー客船を用いた日本発着クルーズを開始。さらに2025年には地中海へのフライ&クルーズも展開するなど、急速に存在感を高めている。

今回は、クルーズ事業を率いるジャパネットツーリズム代表取締役社長・茨木智設氏に、サービスへの思いやこだわり、今後の展望を聞いた。(※「」内コメントは茨木氏による)

■「必ずニーズはあると確信」クルーズに参入した理由
ジャパネットは家電の通販で知られるが、なぜクルーズに参入したのか。茨木氏は「『世の中にまだ知られていない“いいもの”を見つけて、磨いて、広く伝える』というのが当社の事業方針。クルーズにその可能性を見いだした」と語る。

茨木氏は初めてクルーズに乗った際、「こんなに自由で快適な旅があるのか」と驚いたという。他方、クルーズ特有の習慣や、言葉や食事などがハードルとなり、多くの人が躊躇(ちゅうちょ)する現状も感じた。

「だからこそ、われわれが間に入り、サービスを磨いて、強みであるテレビショッピングで伝えれば、多くの人がクルーズに興味を持ち、クルーズ旅に出掛ける“最初の一歩”になる。必ずニーズはあると確信しました」

その言葉通り、お客様が事前の不安を解消し、安心して旅に出られるよう、充実したハンドブックの提供や、分かりやすい船内サービスを徹底。さらに、テレビショッピングという独自の販売戦略が功を奏し、これまでクルーズ旅行になじみがなかった層の心をも捉えています。

これにより、ジャパネットを通じてクルーズ旅行を初体験するお客様が大幅に増加し、新たなクルーズブームを巻き起こしています。


■初めてのクルーズを「成功体験」に! ジャパネットのこだわり
参加者の中心は60代~70代のシニア層だが、ターゲットとして「年代はあまり意識していない」という。

「本業の家電も含め、われわれのメインターゲットは、自分で1円でも安いものを探すより、信頼している人に1番いいものを紹介してほしいと思う人。そうした意向を持つ人がシニア層に多いと感じます。

また、あえてGWや夏休みの繁忙期を避けた日程でツアーを企画しているので、結果として乗船者の年代が60代~70代を中心にした層になっています」

ただ回を重ねるごとに、20代、30代のゲストも増加。親子で参加、あるいは若い夫婦の姿も目立つようになってきたという。「参加理由を聞くと、親から勧められたという声が多く、世代を超えて興味・関心が広がってきていると感じる」と茨木氏。

初心者向けなら手軽なショートクルーズもニーズがありそうだが、今のところジャパネットクルーズでは、ショートクルーズの実施は考えていないという。

「初心者が多いからこそ、次につながる成功体験を得られることが大切です。クルーズの醍醐味である1週間以上の船旅、終日航海でゆったりと過ごす時間を存分に味わっていただくため、われわれが本当にいいと思うクルーズスタイルを提供することにこだわっています。

昨今は働き方改革が進み、クルーズ船もWi-Fiの整備が進んでいます。現役世代も乗れる環境も整いつつあると感じます」

コロナ禍を経て世の中の働き方が大きく変わったが、ジャパネットホールディングスでは、週末をあわせて最大16連休のスーパーリフレッシュ休暇を推進しているという。「弊社の社員は乗ろうと思えばみんなクルーズに乗船可能なんですよ」と、なんとも羨ましい話も飛び出した。


■本業から受け継ぐお客様想像力で、満足度は98%!
ジャパネットのチャータークルーズでは、「やらないこと」を決めているのも特徴だ。例えば5686名定員のMSCベリッシマだが、ジャパネットのチャータークルーズでは約8割までしか受け付けない。

「さまざまな検証を重ねたうえで、船内の混雑を回避しサービスの質を保つには定員の約8割が妥当だと判断しました。また運航コースも、初心者が多いMSCベリッシマではラインアップを増やさず、同じコースを複数回運航しています。

そうすることで受け入れる港側も対応に慣れて、乗下船などがスムーズになる。また、定期的に訪れるからこそ、寄港地の自治体や企業の協力なども得やすい。結果として、お客様が快適に過ごし、旅の楽しみが広がることへとつながっています」

また、クルーズ業界では一般的な花火大会やお祭りを目的にしたテーマクルーズも、ジャパネットでは実施はしないという。

「人が集まるイベント時に寄港すること自体が、オーバーツーリズムにつながります。大きな経済効果があるからこそ、閑散期に訪れた方が寄港地としてもうれしいはず。余裕があるときだからできる地域との取り組みも多いのです」

本業の家電事業でも商品を厳選し磨き上げることが強みであり、その分クオリティーにはとことんこだわるのがジャパネット流。クルーズ事業もその精神を受け継ぎ、参加者の満足度は98%にも上る。

■ユニークなサービスは、期待値とのバランスを大切に
ジャパネットのチャータークルーズでは、オリジナルのユニークなサービスを充実させています。
安心して快適に過ごせるよう日本語サービスを強化し、さらに飲み物代が旅行代金に含まれているため、追加料金を気にせず楽しむことができます。

旅のハイライトとして、紅白出場歌手などを招いたスペシャルコンサートも開催されます。

「言葉や食事は、各船の状況にあわせてカスタマイズをしています。特に日本食については、徹底的にクオリティーを追求。MSCベリッシマではみそ汁の味を弊社のスタッフが毎朝チェックし、朝食にはジャパネットクルーズオリジナルの『おにぎり』を提供しています。

2024年春にチャーターしたシルバー・ムーンでは、自前でミシュラン一つ星の和食店の職人を監修に迎え、本格的な和食を船内で提供したこともありました」

スペシャルコンサートは、名前は知っているけれどお金を出してまではコンサートに出かけない方が参加することで、新たな楽しみを見つけるきっかけにもなっているという。

実はスペシャルコンサートには、クルーズの募集時に告知されるものに加え、乗船してから発表されるサプライズなものもある。

「思いがけない+αの体験はより感動しますよね。だから募集時に期待値を上げ過ぎないことも意識しています。花火を寄港地であげた時もサプライズで事前に伝えてはいませんでした。天候で中止になるリスクもあり、そうなるとガッカリされてしまうので」

期待値とバランスをとるという観点では、パンフレットなどの写真も自社で撮り下ろして掲載することが多いそうだ。

「船会社の写真はきれいすぎて実際に乗船した際にイメージ違いが起こりやすい。
できるだけリアルな体験を伝えるように工夫しています」

■寄港地観光も「ジャパネットならでは」にこだわる
各寄港地のオプショナルツアーも自前で行うのがジャパネット流。寄港地でのサービスは、オリジナリティーとともに船の規模感を見ながら決めているという。

例えばバイキング・エデンの長崎寄港では、「ミニくんち」と題して、本来10月開催の「長崎くんち」の演目を諏訪神社で特別に実施した。筆者も参加したが龍踊など素晴らしく、感動的でプライスレスな体験となった。

「ゲストの人数との兼ね合いで、できるイベントが変わります。例えば『ミニくんち』もゲストが100名なら予算の関係で難しいし、反対にMSCベリッシマのように何千人規模になると、神社での受け入れが難しい。バイキング・エデンのサイズ感だからできたのです」

ゲスト数の多いMSCベリッシマでは、個人でも観光がしやすいように、港と観光の基点となる場所を巡る無料バスを各寄港地で運行している。下船・乗船時間も自ずと分散し混雑緩和にもつながっているという。

■日本発着のラグジュアリー船や「フライ&クルーズ」も好調
MSCベリッシマに乗船した後の選択肢として、ジャパネットではラグジュアリー船による日本発着クルーズを2024年に開始した。2025年、2026年は北欧スタイルの「バイキング・エデン」を運航する。

「バイキング・エデンは北欧のナチュラルな雰囲気が日本人にマッチしていますし、スタッフのホスピタリティーや食のレベルも高い。船のサイズが中型なので、寄港できる港も多く、運航コースも魅力造成のポイントになる。


2026年は『西日本コース』『日本一周コース』の2コース3航海を実施します」

もう1つの新しい試みとして2025年3月には、日本発着のMSCベリッシマに乗船したリピーターに向けて、地中海へのフライ&クルーズを開始した。

「ジャパネットクルーズのスタッフも添乗しますし、一度乗船したMSCクルーズの船ということで、『安心できる』と申し込みをされる人が多く好調です。中には海外旅行が初めての人もいらっしゃいました」

クルーズ発着地のバルセロナへは乗継便をあえて選び、途中で休憩できるよう空港ラウンジの利用を設定するなど、移動中の疲労にも細やかな配慮を行っている。

クルーズの予約電話を受けるスタッフが乗船し、ゲストのサポートをするため、ニーズを先回りした対応ができるのが強みだ。船会社との交渉も、日本発着クルーズを実施した際に培った信頼関係性からスムーズだったという。

他方、海外のフライ&クルーズの課題は「飛行機の座席確保」だという。

「船と違い、飛行機のチャーターは条件が厳しい。お客様のフライ&クルーズへのニーズが高いのは感じているので、座席を確保できる方法を模索しています」

■「いつかはお客様を南極へ!」高まる期待に応え続ける
リピーターが増えれば、サービスへの期待も高まる。茨木氏は「常に新しい提案が必要」と語る。

「家電だって、もう機能はこれで充分と思っても、毎年バージョンアップしていきますよね。常に新しいことに挑戦し続けることが大事で、スタッフとも日々アイデアを共有しています」

2025年のバイキング・エデンの日本発着クルーズには、米国からのゲストも乗船していた。実は米国でのクルーズ販売も強化しているという。


「米国でテレビショッピングをして大々的に……というわけではないんです。せっかくの外国船なのに乗客が日本人だけということに違和感がありました。船内の雰囲気もクルーズでは大事ですから、海外の乗客もいた方がいいだろうということで取り組みを始めています」

また好調な海外の「フライ&クルーズ」では、アドベンチャークルーズやリバークルーズも視野にいれていきたいという。「ゆくゆくはお客様を南極などにもお連れしたい」と茨木氏は展望を語った。

■顧客と共に歩むジャパネットの挑戦
茨木氏はクルーズ中、自ら船内を見て回り、お客様やスタッフの声に耳を傾ける。要望や課題があればいち早く決断し、スタッフもスピーディーに対応をする。必要なものがあれば船上から手配し、次の寄港地で積み込み、周知が必要な事項は船内で発行する「ジャパネット通信」に掲載する。

クルーズ中もみるみるサービスが向上していく機動力は、素晴らしいと筆者も毎回感じている。

「船内でゲストの方と接するのは弊社のコールセンターのスタッフです。乗船前から関係性ができることでお客様の安心へとつながり、スタッフ自身も乗船したからこそ、問い合わせや不安にも自信をもって真摯(しんし)に対応ができる。

信頼構築やサービス向上のいい循環になっている」と茨木氏。

こういったジャパネットの姿勢は、クルーズ参加後に家電を購入するという行動にもつながり、ジャパネットブランドへの信頼を育む機会にもなっているそうだ。

次はどんな驚きと感動を届けてくれるのか――これからの展開に期待し注目したい。
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