1か月以上におよぶ長い夏休み。楽しく過ごしていた子も、休み明けが近づくにつれて少し様子が変わってくることがあります。
夏休みなどの長期休暇が明ける直前直後は、子どもの心が大きく揺れ動きやすい時期です。

文部科学省の調査でも報告されていますが、実際に、新学期が始まるタイミングで不登校の兆候やメンタルヘルスの不調が急増することが分かっています。

「たくさん休んでリフレッシュできたはず」という大人の思いと、子どもの気持ちの間に、大きなギャップが存在することがあるのです。

休みが明けるころに、子どもの元気がなくなり、「学校に行きたくない」と言われると、大人は「毎日元気に遊んでいたのに」「なまけぐせがついてしまったのかも」と困惑しがちです。しかし、これらは子どもが出す「SOSのシグナル」にほかなりません。

新学期を迎えるにあたり、子どもの「行きたくない」に大人はどう気付き、どう支えていけばよいのでしょうか。児童精神科医の視点から、その心理的背景と、家庭ですぐに実践できる具体策を解説します。

■長期休み明けに見られる「学校回避行動」とは? 「行きたくない」発言の背景にあるもの
長期休み明けに子どもが登校をいやがるのは、単なる「なまけ」や「甘え」ではありません。学術的に「学校回避行動」と呼ばれる現象で、さまざまな心理的・環境的要因が複雑に絡み合って起こります。

2024年に発表されたイタリアの研究では、学校回避行動を示す子どもたちには、以下のような背景やリスク要因が存在することが指摘されています。

■不安・抑うつ症状や自己評価の低下
登校しようとすると、頭痛・腹痛や吐き気などの身体症状が出ることがあります。学業や対人関係に対する苦手意識から「自分はダメだ」と思い詰めてしまい、学校という空間自体が強いストレス源となっているケースが多く見られます。


■集団生活や環境変化への強い緊張
長期休みは、自由で穏やかなペースで過ごせます。集団生活に戻るだけでも、子どもの心身には大きな負担がかかるものです。特に日本においては、夏休み明けに運動会や文化祭などの行事がある学校も多いです。

周囲に気を遣う真面目な子ほど、休み明けにエネルギー切れを起こしやすくなります。休み明けの学校生活を考えただけでも、緊張を感じる子は少なくありません。

■いじめや人間関係の悩み
学校内でのさまざまなトラブル、いじめ、SNSやネット上での嫌がらせなどを経験している場合、恐怖や苦痛から身を守るための避難行動として、学校に行けなくなるケースも数多く存在します。

■うまく言葉にできない子どもの「SOSサイン」を見逃さないために
子どもは、自分のつらさや不安を言葉で整理して大人に伝えることが、まだ上手ではありません。はっきりと「行きたくない」という言葉を口にしない子どもでも、心の限界や苦痛が「身体や行動・表情の変化」となってあらわれることがよくあります。

新学期が始まる時期は、お子さんに以下のような変化が見られないか、ぜひ注意深く観察してみてください。

■身体にあらわれる変化・サイン
・朝になると「おなかが痛い」「頭が痛い」「気持ち悪い」と訴える
・夜なかなか眠れない、朝起きられない
・食欲が極端に落ちている、または食べ過ぎる

■行動・表情にあらわれる変化・サイン
・自室に閉じこもる時間が増える
・突然イライラして怒りっぽくなる、怒りやすくなる
・普段好きな趣味やゲーム、遊びに興味を示さなくなる「アンヘドニア(anhedonia)」が起こる
・現実のストレスから逃避するように、スマホやゲームの利用時間が急増する

■子どもがつらそうだと感じたら……家庭でできる関わり方と声かけ
子どもから「学校に行きたくない」と打ち明けられたり、SOSのサインを感じ取ったりしたとき、保護者としてまず意識したい対応と具体的な声かけをご紹介します。

1.否定せずに「つらさ」をそのまま受け止める
まずは「そんなこと言わないの」「みんな頑張っているよ」と突き放したり、説教したりしないことが最優先です。子どもの気持ちを否定せず、そのまま受け止めましょう。


おすすめの声かけ:「行きたくないと思うほど、つらかったんだね」「話してくれてありがとう」

2.原因を無理に追及することや詰問をしない
「なんで行きたくないの?」「学校で何があったの?」と問い詰めると、子どもはさらに追い詰められてしまいます。子ども自身も理由をうまく言語化できていないことが多いためです。

おすすめの声かけ:「話せるようになったら、いつでも教えてね」「今は言わなくても大丈夫だよ」

3.休息を認め、心と体を休ませることに専念する
エネルギーが枯渇している状態での無理な登校刺激は、かえって状態を深刻化させます。まずは家庭を「安心して過ごせる安全基地」とし、心身を休ませることを第一に考えましょう。

おすすめの声かけ:「今はゆっくり休もうね」「家では安心して過ごしていいんだよ」

■子どもの登校しぶりは、家庭内で抱え込まず専門機関や学校へ相談を
子どもの悩みを、家族だけで解決しようとする必要はまったくありません。保護者の方自身が限界を迎えてしまう前に、早めに外部のサポートを頼りましょう。

主な相談先は、以下の通りです。
・学校の専門職:スクールカウンセラー(SC)、スクールソーシャルワーカー(SSW)
・地域の専門機関:教育相談センター、児童相談所、児童精神科・小児科

そのほかに、公的な電話相談窓口もあります。
・24時間子供SOSダイヤル(文部科学省):0120-0-78310(なやみいおう/全国共通・通話料無料)

新学期を迎える時期、身近な大人が子ども小さなシグナルに気付き、そっと寄り添うことは、悩みを抱える子どもにとって何よりの支えになります。

もし子どもの変化やサインの対応に迷ったときは、抱え込まず、専門家の力も借りながら温かく見守っていきましょう。

■参考文献
1.Cristina Di Vincenzo,Maria Pontillo,Domenica Bellantoni,et al.School refusal behavior in children and adolescents: a five-year narrative review of clinical significance and psychopathological profiles.Ital J Pediatr. 2024 May 30;50:107.
2.Tetsuya Matsubayashi,Michiko Ueda,Kanako Yoshikawa,et al.School and seasonality in youth suicide: evidence from Japan.J Epidemiol Community Health.2016 Nov;70(11):1122-1127.
3.文部科学省.令和8年7月3日児童生徒の自殺予防に係る取組について.
4.藤田光江.不登校の実情と対応.心身医学 2024;64:113-118.
5.春日井敏之.不登校の捉え方と支援.生活指導研究 2023;40:1-10.
6.髙橋聡美.子どもの自殺の動向と自殺予防.小児の精神と神経 2023;62:231-234.
7.Armando A Pina,Argero A Zerr,Nancy A Gonzales,et al.Psychosocial Interventions for School Refusal Behavior in Children and Adolescents.Child Dev Perspect.2009 Apr 1;3(1):11–20.

▼秋谷 進プロフィール小児神経学・児童精神科を専門とする小児科医・救急救命士。プライベートでは4児の父。
子どもの心と脳に寄り添う豊富な臨床経験を活かし、幅広い医療情報を発信中。
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