吉野裕行さんが5thミニアルバム『2022/07/28~2023/02/26』を4月19日にリリース! 季節感たっぷりの桜ソング『旅立つ君と余花とチェリー』をはじめ、個性豊かな新曲6曲を収録した今作について、楽曲制作やレコーディング秘話などを吉野さんにたっぷり語っていただきました。

>>>吉野裕行さん5thミニアルバムのジャケットなどを見る(写真4点)

――2021年の1stフルアルバム『カタシグレ』以来、約2年ぶりのリリースとなりますね。
5thミニアルバムの制作が決まった時の感想からお聞かせください。

吉野 2021年の3月にリリースした『カタシグレ』以降、配信ライブなどはありましたが、この2年は意図的に音楽活動から遠ざかって完全に休んでいました。それは、コロナ禍で県をまたいでの移動が難しい時期にライブやイベントを開催すれば、無理をして来る人や来たいけど諦める人たちがいる……僕が動くことで皆さんに無理をさせてしまうのであれば、僕は一切やらないという選択をしたんです。
なのでミニアルバム制作のお話をもらった時は「まだそういう気分じゃないんだけど、そろそろやらないとだよね……」と思ったというのが、本当のところでした(笑)。

――そこから再び制作しようと決めたきっかけは何だったのでしょうか?

吉野 僕の中では4年くらいお休みかなと思っていたんですけど、さすがに4年休んだら多分辞めていたと思います。ただ、音楽活動をストップしていた間も、2020年はUncle Bomb、2021年も『冬来たりなば春遠からじ』といった配信ライブがあったり、『Kiramuneカンパニー』を毎月撮っていたり……Kiramuneの他のメンバーがいてくれて、その活動にも触れていたので少しずつ前向きな気持ちになれたのかなと。

イベントにはリーディングライブから復活させてもらったりして、自分の中で気持ちの整理をしながら向き合っていく中で、そろそろ何か届けたいなという気持ちがわいてきたので始めることにしました。

――今作のコンセプトやテーマについてお聞かせください。

吉野 コンセプトはないんです。コンセプトやテーマを設けると、やりたい音楽に制限ができてしまうように感じて。スタッフさんからの提案で、今回は宮崎誠さんにすべてお任せすることにしたのが、一つのコンセプトかもしれないです。
リード曲もないです。
以前から「収録曲は全部いい」と思って作っているのに、代表曲のようなものを決めることはずっと疑問だったので、今回ついに言ったら受け入れてもらえました(笑)。

――それでは収録曲について順番にお伺いできたらと思います。まずは1曲目の『カリスマ』はどのようにして生まれた楽曲ですか?

吉野 『カリスマ』は確かスタッフさんサイドからの提案だったと思うんだけど……楽曲を聴いた時は「こんなに壮大なものが来るとは聞いてなかったよ!」と思いました(笑)。最初は『さみしがりやのバラード』みたいなイメージで、という話だったと思うんだけど、なにか音楽的な共通項があるのかもしれないです。

レコーディングはめちゃ大変でした。レコーディング順では2番目だったので、正直リハビリのレベル2にはちょっと早すぎるんじゃないかと。
全体にキーが高い歌で、どうしても出ない音があったので、誠さんにその場でメロディを変えてもらったり……いつかファルセットができるようになったり、その音が出るようになったら、ライブで急に元のメロディを歌ったりするかもしれません(笑)。

――2曲目は夜を想起させる歌詞が印象的な『桃源郷』です。

吉野 『桃源郷』は、ちょっとスカっぽい曲をやりたいと話して作ってもらった曲です。誠さんとしては、Uncle Bombの楽曲『港区ラブロマンス』(ミニアルバム『INFINITE』収録)のアンサーソングというか、別視点で書いたものらしくて……今までの僕なら「Uncle BombのものはUncle Bombでしかやらないぞ」というふうにお断りすると思うんですけど、今回はそこにこだわる必要があるのかなと感じて。
なにより曲がよかったし、いったん寝かせてUncle Bombでまたやる時に改めていいと思えるかどうかが分からないから承諾しました。

この曲は確かちょっとキーを下げてもらっていて……いつもだったらもう一個高いところなんだけど、歌うにあたって苦しそうにならないほうがいい曲なんじゃないかと感じたのでお願いしました。
でも、レコーディングのスケジュール的になのか、聴く時間がより長かったからなのか分からないけど、アプローチ的にはやりやすかったように感じたかな。

(C)Kiramune Project

――その次は『まぼろし』。ギターのイントロが素敵な楽曲で、吉野さんも優しい歌い方をされているように感じました。

吉野 僕は年に1回、松野太紀さんが主宰している『タチヨミ』という朗読劇に参加していて、そこで使われている音楽が自分でプレイリストを作って聴いたりするくらい気に入ったりするんです。その中で銀杏BOYZさんの曲がいいなと思って、こういう感じのギターの楽曲をやれたらいいなとお伝えして作ってもらいました。

優しい歌い方に聴こえたのは……リハビリ(レコーディング)開始1曲目だったからじゃないですか?(笑) でももちろん、優しくしたいっていう意図はあったはず。
こういうエモい曲というか、自分自身の感情的な部分がしっかり出る曲が好きなんでしょうね。

――4曲目は、kenko-pさん作詞、円山天使さん作曲・編曲の『BANANA』。今作の収録曲では、この曲だけ宮崎さん以外の方が制作された楽曲ですね。

吉野 「『BANANA』の歌詞はどうしましょう?」ということを話し合ったのが、このミニアルバムの作業のスタートでした。
というのも、『BANANA』は『カタシグレ』を作っている時に楽曲ができていたんです。でもこの曲にどんな歌詞が合うのかがなかなか決まらなくて。
コンペもしたのですがその時点では結局決まらず、『カタシグレ』に入れられなかったんです。今回、やっとkenko-pさんの歌詞で決まって、入れることができました。

――『サイケデリックアンノウン』は強いメッセージから始まる個性的な楽曲です。

吉野 この曲は「『シャララ』みたいなのをまたやりたいね」という話になって、作ってもらった曲です。セリフの部分の歌詞は自分で書いたほうがいいんじゃないか、と言われたんですけれど、2年も休んでいたから歌いたいことは何もなくて困りました(笑)。

文句すら出てこないから、無理だよ~って言いつつ、試しに頑張って書いてはみたものの、内容がすごく狭い世界すぎて「ちょっと無理だ」みたいな感じになって。結局、誠さんに書いてもらって、プリプロの時に自分の言葉にするためにいくつかフレーズを足した感じです。例えば「人類皆兄弟」は、もともと誠さんが書いたものなんだけど、それに「ってことで痛み分けしようぜ!?」というのは自分で足しました。僕自身がそういうちょっとふざけているというか、面倒くさい言い回しが、たぶん好きなんでしょうね。

今回、いくつかテイクを録ったんですけれど、結局最初に録ったものが採用されました。実は『シャララ』の採用テイクも、プリプロの時のものを使っているんです。
加減が分からないながらもとりあえずやってみたバージョンのほうがしっくりくるんですよね……その時の集中力というか、必死に何かものを言っている感じがよかったりしてね。

――そして最後は『旅立つ君と余花とチェリー』。青春時代の甘酸っぱいような思いが詰まった楽曲です。

吉野 これは「CDの発売時期に合わせて桜ソングを作りたいね」と言って作った曲です。コンセプトというほど大げさなものではないけれど、やっぱりこういうリリース時期に合ったものを1曲くらいはやりたいなって。
別にいつ何を作ってもいいと思うんですが……春に「ウィンターなんとか」みたいな曲だとみんなひくでしょ(笑)。以前『Bye-Bye☆セレモニー』とか卒業ソングは作ったことがあるのですが、今回はもうちょっと桜にフィーチャーしたものを、とお話して作ってもらいました。

実はレコーディング3曲目の『桃源郷』くらいから、息多めで歌うやり方をちょっと勉強し始めたんですよ。いつもだったらもうちょっと濃い成分でぶつけに行くというか頑張っちゃうところを、いかに力を入れず、しかも力強く聴こえるように歌うか、という試行錯誤をしているんです。『チェリー』は後半にレコーティングしたこともあって、ちょっとこなれて楽になってきた感じでした。

(C)Kiramune Project

――5thミニアルバムのタイトルは『2022/07/28~2023/02/26』。日付がタイトルになっていますが、どのような意味が込められていますか?

吉野 タイトルはいろいろ考えて、最初に僕が提出したのは『ほぼ宮崎産』。今回、結構フルーツの楽曲が入っているし、6曲中5曲は宮崎さんに作ってもらっているからいいかなと思ったんですけど、一応ご本人に確認してもらったら「ちょっとそれは……」と言われてしまい……(笑)。

俺はあんなに真剣に考えたのになって残念に思いつつ、スケジュールを見ながら今回の音楽活動を振り返っていたら、素直に音楽に携わった時間をちゃんとここに書きたいなと感じたんです。
実はこの間って、事務所を移籍したりフリーになったりしていて……その中で音楽も作っていたんですよね。なので、最初の曲のプリプロから最後の曲のレコーディングまで、音楽と向き合っていた時間をここに書きました。

――そして『旅立つ君と余花とチェリー』のMVは、楽曲の世界観を表現した切なく甘酸っぱいような映像になっています。撮影秘話などがありましたら教えてください。

吉野 本当は全部の曲でMVを作りたいくらいですが、それは難しいので現実的に考えて今回の楽曲でMVを作るなら『チェリー』か『カリスマ』かなと。僕の中で『カリスマ』は劇場版レベルの壮大な映像のイメージだけど、『チェリー』ならドラマのような感じでできるのではと思って決めました。

『チェリー』は青春の思い出が詰まっている曲なので、それを映像で表現するとなった時にちょっとおじさんは入れないなと感じて……この曲で僕が出るMV作るのってめちゃくちゃ難しくないですか?(笑) なので、僕が映像の中で関わるのであれば、こういう形ではどうかと、いくつか提案をして今の形に落ち着きました。
今回の映像はMVを作っている過程で、僕は最終的に主人公の彼に読んでもらうために、仮にナレーションをあてながら映像のチェックをしている、という内容になっています。

――では、あれは吉野さんご自身として出ているということですね。吉野さんの撮影はいかがでしたか?

吉野 あのシーンしかないので、すぐ終わりました。2時間かかってないくらい。

――ロケ弁がいらないくらいの時間ですね(笑)。

吉野 お弁当は食べられなかったけど、ケーキをいただきました。スタイリストさんが急にパリピみたいな眼鏡かけて出てきたから驚きましたけど、誕生日が近かったからお祝いしてくれるんだってすぐ分かって、嬉しかったですね。
メイキング映像にはそんな誕生日の模様や、僕の出演シーンでふざけているバージョンが少し入っているはず。出演者のインタビューも入っているんですが、主役の男の子がめちゃくちゃイケメンでびっくりしました(笑)。

――2023年8月28日にアーティスト活動10周年をお迎えになります。これまでのアーティスト活動を振り返っての感想などお聞かせください。

吉野 10年のうち2年間は休んでいるので、自分の中では10周年という感じはまったくなく……5周年のライブを7年目にやっているので、10周年も後ろに倒してと思ったくらい。お休みを挟んでレベル1に戻った感じなので、また今から始めるしかないかな、という気分です。
とはいえ、過去にやった経験がどこかに残っているし、一緒にものを作ってきたスタッフさんたちがいてくれるから、それが助けになると感じています。

『アドレセンス』を作ったあたりから感じているのですが、音とか音楽ってみんなの人生の出来事と一緒に記憶に残りやすいものだと思うので、僕が作っている楽曲のどれかがみんなのそういう一瞬にちゃんと寄り添うものであったら嬉しく思います。本当にただそれだけですね。

(C)Kiramune Project