TVアニメ『名探偵コナン』エンディングテーマ「クウフク (starring VALSHE)」が好評を得たユニット”今夜、あの街から”のノラが、ソロアーティスト”ノラ from 今夜、あの街から”として、TVアニメ『レベル1だけどユニークスキルで最強です』オープニングテーマ「Chase Me」を担当。高校生の頃からネットシーンを中心に音楽活動を開始し、2021年からボカロPとして”今夜、あの街から”を立ち上げたノラ。
「Chase Me」の制作にはボーカロイドも使われていると言う。ボカロPならではの楽曲制作の裏側と、「歌い手」時代のボーカルの原点など話を聴いた。(後編/全2回)

【前編】アニメ『レベル1』のOP曲「Chase Me」はノラとレイラの前日譚!

■ボカロの仮歌が最も良く聴こえるフレーズが正義

――「Chase Me」は、ラスサビで転調して高くなっていて、そこはレコーディングが大変だったのでは?

ノラ 実は、歌うのがとても大変でした。とにかく前進力を意識したサビにしたので、サビ前半では一カ所も息継ぎをするところがなくなってしまって。ボカロで言う「高速詠唱」気味の、人間ができる範囲での高速詠唱で、ただでさえ高い上に息も吸えないというものになってしまって。それにも関わらずラスサビが物足りなくなって、転調させてさらに高くなって、余計大変になって……。
ラスサビの転調は自分の出せる声の高さの限界ギリギリでしたから、レコーディングはとにかく大変でした。

――ボカロで曲を作る癖で、自分の音域を無視してメロディを作ってしまったと。

ノラ 根っこがボカロPだからか分かりませんけど、自分が歌えるかどうかを意識して曲を書いたことがなくて(笑)。高かろうができたものは、頑張って歌うみたいな。絶対人が歌えない曲を書いてやろうと思っているわけではないのですが、ボカロの仮歌が最も良く聴こえるフレーズが正義だと思って作っているところがあるので、あくまでも無意識ですけどやっぱりボカロ映えするメロディになる傾向があります。ニコ動では「Chase Me」のボカロ歌唱バージョンも公開しているので、それを聴いてもらうとすごくしっくり来るんじゃないかと思うので、こちらもぜひ聴いてほしいです。


■ノラのユニークスキルは「疑似転調」

――ちなみにノラさん歌唱バージョンとボカロバージョンでは、どちらが先にできたのですか?

ノラ いつも仮歌の代わりにボカロを使っているので、どちらが先かと言うとボカロバージョンが先ですね。ただ作曲の取っかかりは鼻歌で、お風呂とかに入りながら何となく口ずさんだメロディをスマホに録音しておいて、それを元に作曲して、オケとボカロの歌を一緒に打ち込んでいきます。その上で自分の声で仮歌を録りながら、メロディを仕上げていく形です。ただ、先ほど音程が高くて苦戦したと話しましたけど、ボカロが歌っているものを聴くとあまり高く感じないという難点があって、高くないと思って実際に歌ったらめちゃくちゃ高くて苦労したというのが先ほどの話です。あと、転調という部分では、自分の曲でしっかり転調したのはこれが初めてなんです。

――転調する曲を作ったのが初めてということですか?

ノラ いえ、今までも転調させている曲はあって。
僕は作曲が独学なので、自分の中で「疑似転調」と呼んでいる手法なのですが、ラスサビで転調はしているんだけどキーは1番と同じになるという、ユニークスキルみたいな作り方があって。曲の途中で何度か下に転調させておくことで、ラスサビで上に転調してもキーはプラマイゼロになるという。「クウフク」でも、その「疑似転調」を使っています。

――前後の関係でキーが高くなったように聴こえるけど、全体で見ると高くはなっていないと。

ノラ はい。そういうことをよくやるのですが、今回の「Chase Me」は疑似転調ではなく、リアルに転調させているので、歌うのがすごく苦しかったという。
でも苦労した分、いい曲になったと思います。アニメでは1番までしか流れていないので、ぜひフルバージョンでリアル転調して苦労したラスサビを聴いてほしいですね。それに2番の歌詞にも〈Lv.1〉とかアニメとリンクしたワードをたくさん詰め込んでいますので、アニメ『レベル1』のファンの方にこそ、フルを聴いていただきたいです。

■”ヨルマチ”とは異なる絵師と動画師にMV制作を依頼

――ミュージックビデオも拝見しましたが、夜の街を舞台にしたおしゃれで格好いい映像になりましたね。

ノラ ノラくんがビルの屋上から「Chase Me」に込めた「私を追いかけて」というメッセージを発信して、誰かが自分の音楽に気づいてこの屋上に上って来てくれることを待っているみたいなストーリーです。それをイラストレーターさんに伝えて、こんなにも格好いいMVを作っていただきました。
1枚の絵から物語を広げて行くという手法から、ボカロPらしさを感じてもらえるのではないでしょうか。

――イラストレーターさんは、ノラさんのお気に入りの方なのですか?

ノラ はい。今回の曲をリリースするにあたって、”ヨルマチ”とは違う方にお願いしたいと思いました。それで”ヨルマチ”の雰囲気を踏襲しつつ新しい風を吹かせてくれる方がいないかと、ネットでひたすらいろんなイラストレーターの方の絵を観たり、動画クリエイターさんの映像もたくさん観て回って、「この人ならいいものを作ってくれるのではないか!」と思い、イラストは”ひのつかさ”さん、動画は”Ritz”さんにコンタクトを取って作っていただきました。

――『レベル1』のオープニング映像とは全く違った世界観ですけど、どちらにも合っていて。観る視点によって、いろんな魅力が感じられる楽曲になりましたね。


ノラ 作詞の面でも、どちらの映像で聴いても矛盾が生じないように、アニメにも”ヨルマチ”にもマッチするような言葉選をしたので、アニメでもMVでもどちらでも楽しんでほしいです。

■UVERworldのTAKUYA∞と伊藤歌詞太郎から影響

――今回はソロボーカリストとして歌っていますが、ボーカルという部分で影響を受けた方はいらっしゃいますか?

ノラ UVERworldさんが大好きで、ライブも観に行っています。TAKUYA∞さんのストイックな歌い方に憧れがあって、よく聴いているのでたぶん影響を受けていると思います。UVERworldさんの歌詞はすごく熱いんですけど、TAKUYA∞さんが歌うと押しつけがましくならず心にストレートに刺さるんですよね。あと、歌い手さんでは伊藤歌詞太郎さんが昔から好きで、ファンクラブにも入っているほどです。歌詞太郎さんは和で爽やかで、母音に癖がある感じが好です。このお二人の歌い回しや表現の仕方などは、自分の歌のインスピレーションの元になっていると思います。実は”ヨルマチ”をやる前に歌い手をやっていた時期があって、「歌ってみた」の動画投稿を始めたきっかけが歌詞太郎さんだったんです。彼のライブを観て憧れて、こういうインターネット音楽の世界に足を踏み入れたという部分で、僕の中での原点だと言えますね。

――伊藤歌詞太郎さんは同じ界隈なので、結構会う機会もあるのでは?

ノラ 実は一度同じ楽屋になったことがあって。推しが同じ部屋にいる状況に、心臓が止まるかと思ったんですけど、一緒に写真を撮ってもらいました(笑)。

■ライブは「ショウニントウソウ」の答え合わせ

――そんなノラさんは、8月27日に「今夜、あの街から 1st LIVE "承認闘想”」を開催します。

ノラ はい。ゲストにVALSHEさん、宮川愛李さんをお迎えして、お二人とコラボした楽曲も生で披露させていただきますし、自分のソロの歌もあれば、ボカロとデュエットする形もあるといった形で進めて行く予定です。ボカロならではの良さを楽しんでもらいつつ、VALSHEさんや宮川さんとは生の良さを楽しんでいただき、いろいろな形で楽しんでいただけるライブになると思います。

――「承認闘想」という言葉には、どんな気持ちを込めているのですか?

ノラ ”今夜、あの街から”の1作目の曲名が「ショウニントウソウ」で、それを漢字に当てはめたのがライブのタイトルです。答え合わせじゃないけど、「ショウニントウソウ」という曲に込められていたメッセージが、この漢字四文字に表現されています。ノラくんにフォーカスした内容のライブになるのですが、ノラくんとレイラさんは”承認”というものを求めて戦っているのですが、戦いはするけど力ではなくあくまでも思想で戦うんです。それでこういう漢字になっていて。とてもストーリー性のあるライブになるので、ぜひ遊びに来てください!