ファン待望の「ガンダムSEEDシリーズ」最新作『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』が2024年1月26日に全国の劇場で公開される。それに先駆け、『機動戦士ガンダムSEED』(HDリマスター)を3部作に、『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』(HDリマスター)を4部作に再編集したスペシャルエディションが劇場上映中だ。


スペシャルエディション全7作と共に「ガンダムSEEDシリーズ」の魅力を振り返るアニメージュプラスコラム連載第4回目となる今回は、現在公開中の『機動戦士ガンダムSEED DESTINY スペシャルエディション 砕かれた世界 HDリマスター』と共に、『SEED』の正当な続編となる『SEED DESTINY』の始まりとその魅力に触れていきたい。

>>>キラ・アスラン、そしてシンの新たな戦いが始まる『砕かれた世界』名場面を見る(写真38点)

地球連合軍とザフトの停戦から2年後――コズミック・イラ73 10月。オーブの代表となったカガリ・ユラ・アスハは、アレックス・ディノという偽名を用いたアスランを伴い、新たなプラント最高評議会議長であるギルバート・デュランダルとの極秘会談を行うため新造コロニー・アーモリーワンを訪問する。
その会談の最中、地球連合軍の特殊部隊「ファントム・ペイン」がアーモリーワンに潜入、ザフトが開発したガイアガンダム、アビスガンダム、カオスガンダムの3機を強奪。アスランはザクウォーリアに乗り込んで応戦するも、機体の性能差と数で圧倒されてしまう。そこにもう1機の新鋭機・インパルスガンダムが現れた――!

『SEED DESTINY』のテレビ放送が始まったのは、2004年10月。
前作『SEED』の放送終了からわずか1年のブランクを開けて、続編がスタートしたことになる。
主にザフト側の目線から描かれていくストーリー、ザフトが開発した3体のガンダムを地球連合軍が奪取する展開、かつてガンダムを奪取したアスランがそれを阻止する側に回るなど、様々な点において『SEED』に対するカウンター的な視線を感じることができる1作となっている。

また『SEED』で意識的に取り入れられたシリーズの原点『機動戦士ガンダム』へのリスペクトは、『SEED DESTINY』に登場するモビルスーツの名称にも受け継がれている。ザフト側の主力の量産型モビルスーツであるザクウォーリアをはじめ、グフイグナイテッド、ドムトルーパーなど『ガンダム』に登場したジオン公国軍のモビルスーツの名を冠した機体が登場し、その活躍ぶりも旧来のガンダムファンをニヤリとさせる要素が加えられている。

すべての始まりとなる第1部『砕かれた世界』では、アスランと本作の主人公であるインパルスガンダムのパイロット=シン・アスカとの関係にまず目を惹かれるだろう。
先の戦争で地球連合軍が行ったオーブ侵攻作戦――フリーダムガンダムとカラミティガンダムの激戦に巻き込まれて両親と妹を失ったことをきっかけにして、ザフトに入隊したシン。
ザフトのエリートパイロット(赤服)入りを果たし、盟友のルナマリア・ホークやレイ・ザ・バレルと共に軍務に就く彼は、「力を持たなければ、大事なものを守れない」という強い思いを抱いている。

力を振るう怖さを知ってしまったアスランは、そんなシンの姿勢に危うさを感じているが、若くまっすぐな思いを抱えるシンにその思いは伝わらず、しばしば対立することになる。お互いに「戦争をなくしたい」という思いは重なっているというのに……。

(C)創通・サンライズ

前作では、敵同士になってしまったキラとアスランが憎しみを抱えた戦いを乗り越え、共に世界のために戦う道を選ぶというドラマが描かれたが、二人の間にはあらかじめ、ある種の「相互理解」があったからこそ歩み寄ることができたはずだ。では、その「理解」が及ばない中での歩み寄りは可能なのか? 達観することを拒否して純粋な怒りを抱えた少年――ある意味シンの存在そのものが『SEED DESTINY』のテーマのひとつと言えるのかもしれない。

戦争は何としても避けたい――そんなアスランやカガリたちの思いとは裏腹に、事態は急速に悪化の一途を辿っていく。

コーディネイター殲滅を企むブルーコスモスは、新たな盟主ロード・ジブリールを得て再び勢力を盛り返していき、地球連合軍内に開戦に向けての圧力をかけていく。
さらに、停戦条約締結の地であり、血のバレンタインの悲劇の舞台プラント〈ユニウスセブン〉の残骸が突如軌道を外れ地球へと落下し始めるという事態が勃発。これを引き起こしたのは、血のバレンタインで家族を失い、アスランの父パトリック・ザラの思想に心酔したコーディネイター急進派だった。平和を取り戻した世界の底には、いまだに戦争の火種が静かに燃え続けていたのだ。

ユニウスセブンの事件をきっかけにして地球連合はプラントに宣戦布告。あくまで対話での解決を目指そうとするデュランダルだが、状況はそれを許そうとはしない。

心の傷が癒えないキラは、オーブでマルキオ導師の元へと身を寄せ、ラクスや孤児たちと静かな毎日を過ごしていきたい――そんな彼の小さな願いですら世界の状況は許さない。
そして、カガリが打ち出す理想主義は目の前の状況に成す術もなく、逆に首長の立場として彼女は厳しい決断を迫られていくことになる。

ひとつ、またひとつと潰されていく小さな希望。『砕かれた世界』はそのタイトルどおり、かりそめの平和が少しずつ砕け散っていく様を、甘えを許さない残酷な視点で描いていく。そんな状況の中でキラとアスランが再び戦いの道を選ぶこの『SEED DESTINY』の出発点は、どこか不穏な空気に満たされた現在の世界と共鳴しているような気がしてならない。

(C)創通・サンライズ