人生に迷ったとき、元気がほしいとき、あるいはただ日常を忘れて泣きたくなるとき――そのような瞬間にそっと寄り添う存在がアニメである。アニメには人生のヒントや生きる力が詰まっている。
コラム『アニメ大先生』は、「人生で大切なことはすべてアニメが教えてくれる」をテーマに、アニメを通じて得られる学びや気づきを綴る連載である。

連載第26回は、八木美佐子アナ(出演21回目)が『年中行事』と語る劇場版『名探偵コナン』最新作をピックアップ。第29作『ハイウェイの堕天使』のヒロイン・萩原千速の凛とした姿に、過去の傷を抱えながらも前を向く『強さの本質』を読み解く。圧巻のバイクアクションや大人なラブコメの魅力、そして声優陣が繋ぐ魂のリレーまで。時代と共に更新され、受け継がれていく物語の尊さを、溢れる作品愛と共に語る。

☆風を切る背中に宿る凛とした強さ『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』

【関連画像】白バイにまたがる八木アナウンサーの写真をチェック!

新緑の匂い。映画館の指定席に深く身を沈めるたび、今年もまた、この季節が来たなとしみじみ思います。私にとって劇場版名探偵コナンを観ることは、単なる余暇ではありません。阿笠博士のなぞなぞに頭を抱え、コナンの超人的なアクションに心の中で拍手を送る。一年を自分らしく刻むための「年中行事」としてすっかり定着しています。楽しみな行事は正月、節分、お盆、コナン。見た目は大人、気持ちはいつまでも子供心を忘れずにいたいです。


歳を重ねるごとに同じシリーズから受け取るものも少しずつ変わっていきます。長く続くシリーズが、その時代ごとに更新されていく歩みを映画館で確かめたいのです。
ちなみに、一番好きな劇場版は『ベイカー街の亡霊』です。19世紀のロンドンで繰り広げられるVRミステリーは、今思えば驚くほど時代を先取りしていました。当時小学四年生だった私は、帰りの車の中でもずっと感想を話していました。母に「行ったことのないロンドンの話はもうやめて!」と怒られるほど夢中だったことを覚えています。

今年も、その年中行事を無事に終えてきました。観てきたのは、劇場版『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』。今回、大きな存在感を放つのは、神奈川県警交通機動隊の白バイ隊員・萩原千速です。劇場版第29作となる本作は、横浜・みなとみらいで開催されるバイクイベントを舞台に、最新技術を搭載した白バイ「エンジェル」と、それに酷似した黒いバイク「ルシファー」をめぐる事件が描かれます。
冒頭、箱根山中で、少年探偵団は”首無しライダー”の乗ったバイクを目撃します。彼らが「お化けなのでは」と怯える横で、私は「いや、これは殺人事件なのでは……?」と勝手に推理。
物騒な発想で申し訳ないですが、コナンを観ると、どうしても事件の匂いを探してしまいます。ところが、私の推理は序盤から外れていたようで、今年も名探偵への道は遠そうです。

コナン映画ではおなじみの派手なアクションや爆発は、もちろん今作でも健在です。バイクのシーンは、画面全体がずっと風を切っているような疾走感がありました。冒頭では画面がぐるりと回転するような絵作りもあり、車体が傾く角度、タイヤが路面をつかむ音、スピードの見せ方に驚かされます。

今回のキーパーソンである萩原千速は、爆弾処理中に殉職した弟・萩原研二への思いを抱えています。それでも、白バイ隊員としてアクセルを決して緩めず前へ進んでいく姿には凛とした頼もしさがありました。では、私はどうでしょうか。過去に悔しかったこと、もう取り戻せない出来事はたくさんあります。ふいに思い出して、いまだに心が沈む日もあります。私はついクヨクヨしてしまうし、気持ちに蓋をして、何もなかったような顔でやり過ごすことも得意ではありません。けれど千速の姿を見て、強い人とは、過去に傷つかない人ではなく、傷ついた記憶を抱えたままでも、今日の自分の役割を果たそうとする人なのかもしれないと思いました。


そして、どうしても触れずにはいられないのが、萩原千速と横溝重悟の関係性です。私はコナンシリーズが描く大人のラブコメの距離感が大好きです。
千速はもともと田中敦子さんが演じられていたキャラクターで、現在は沢城みゆきさんがそのバトンを受け継いでいます。そして、横溝重悟役は大塚明夫さん。その声の記憶が重なったとき、『攻殻機動隊』シリーズの草薙素子とバトーをふと思い浮かべていました。エンドロールに映し出された「In Memory of 田中敦子」の文字。そこには、記憶とキャラクターと共に生きた演者へのリスペクトが込められているように感じました。

誰かが残した意志を、別の誰かが受け継ぎ、また新しい物語を走らせていく。千速というキャラクターと、彼女に命を吹き込んだ声優さんたちの姿が重なり、エンドロールで胸が熱くなりました。

『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』は、疾走感あふれるアクションの奥に、女性の芯のある強さと、忘れられない記憶を抱えながら前へ進む人々の姿を描いた作品です。

結局、今年も私は犯人予想を外したまま映画館を出ましたが、大満足です。
来年の今頃、私はどんな感情を携えてコナンに会いにいくのでしょうか。
編集部おすすめ