アニメ!アニメ!では、東芝製TV・REGZA(レグザ)の視聴データ約21万件を元に2019年春にスタートしたTVアニメの視聴動向を調査し、どの作品が多くの人に見られたのかを調べてきました。

今回は春アニメの視聴データを分析することで見えてくるランキング結果以外の面、特にアニメの人気に影響を与える外的要因に注目して考察します。

特に作品が「どのように見られていたか?」「なにが影響して人気が出たのか?」の一端がわかる分析結果になっていますので、アニメをより多面的に把握してみたい方はぜひお楽しみください。

■調査方法
対象地域:東京都・神奈川県・埼玉県内に設置の受像機 21万1,755台
対象チャンネル:地デジ8チャンネル(NHK、NHK Eテレ、日テレ、TBS、フジTV、TV朝日、TV東京、MX)
対象作品:38作品
対象期間:2019年4月1日~7月14日 (全作品最終回終了後)
カウント方法:番組放送時間の1/3以上をリアルタイムまたは録画にて視聴した時点でカウント

■調査対象作品一覧(順不同)
〈物語〉シリーズセレクション』『BAKUMATSUクライシス』『Fairy gone フェアリーゴーン』『KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-』『MIX』『RobiHachi』『アイドルマスター シンデレラガールズ劇場 CLIMAX SEASON~』『からくりサーカス』『キャロル&チューズデイ』『この音とまれ!』『この世の果てで恋を唄う少女YU―NO』『さらざんまい』『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』『ストライクウィッチーズ 501部隊発進しますっ!』『どろろ』『なむあみだ仏っ!―蓮台 UTENA―』『なんでここに先生が!?』『ひとりぼっちの○○生活』『ふたばにめ!』『フルーツバスケット』『ぼくたちは勉強ができない』『ワンパンマン』『異世界かるてっと』『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』『鬼滅の刃』『群青のマグメル』『賢者の孫』『盾の勇者の成り上がり』『消滅都市』『真夜中のオカルト公務員』『進撃の巨人 Season3』『世話やきキツネの仙狐さん』『川柳少女みだらな青ちゃんは勉強ができない』『洗い屋さん!~俺とアイツが女湯で!?~』『八月のシンデレラナイン』『八十亀ちゃんかんさつにっき~』『叛逆性ミリオンアーサー』『文豪ストレイドッグス』以上全38作品

※『サザエさん』『ちびまる子ちゃん』などの長期作品、『プリキュアシリーズ』などの連続シリーズ作品、キッズ向け作品、再放送作品、番組内作品、14分以下の作品は除外。
※『超可動ガール1/6』『女子かう生』『ノブナガ先生の幼な妻』(ふたばにめ!)および『川柳少女』『みだらな青ちゃんは勉強ができない』はそれぞれ1枠30分をまとめて1作品としてカウント。

■突出して見られる機会が多いアニメは……?
まずは前回TOP10を発表したランキングの、全38作品版をグラフで見てみましょう。

作品名は伏せていますが上位10作品は前回記事にて発表したとおりです。
オレンジ色の棒と緑色の棒がありますが、意味はそれぞれ「番組の7割以上を見た人の全体に対する割合(オレンジ)」「番組を1回でも見た人の全体の対する割合(緑)」です。

グラフはオレンジの棒、つまり番組を比較的しっかり見た人の多い順のランキングになっています。

このグラフを見て最初に気になる点はどこでしょう。多くの人が上から7番目の、大きく右に伸びた緑色の一番長い棒に目を向けたのではないでしょうか。
この作品はあだち充先生原作で現在放送中のアニメ『MIX』なのですが、これは何を意味するのでしょう。

『MIX』(C)あだち充・小学館/読売テレビ・ShoPro

「ちょっとだけ見た人が多く、それに比べるとしっかり見ている人が少ないから、離脱した人が多かった作品だ」と思えるかもしれませんが、本当にそうでしょうか?

このような結果になる理由は実は他にあります。今回の調査対象38作品の中で、他のアニメが全て夜または深夜放送番組なのに対し、『MIX』だけが夕方17時半放送の夕方帯アニメなのです。


夕方帯はご家族がTVの前に揃っていてチャンネル権争いをする場合もありますし、一人暮らしのケースでもどの番組を見ようか決めずになんとなくTVを付けている場合や、気になる番組を探して次々にチャンネルを切り替えることもあります。
それらの要因から「1回でも見た」というデータが出やすくなり緑色の棒が伸びやすくなるのです。

また、そもそも深夜よりは夕方のほうがTVの電源を入れている事が多いことも要因として挙げられるでしょう。
こういったことから、夕方帯番組は多くの場合、深夜帯番組より視聴者の目に触れやすい傾向があるのです。今回の調査対象作品の中で『MIX』だけが突出して一見さんが多いのも、それが一番の原因だと考えられます。

少し余談になりますが、今回の調査の通り、新作アニメは深夜帯で放送されるケースが多いのが昨今のトレンドですが、2000年代中頃くらいまでは夕方にも新作アニメを放送する枠がいくつかあり、そこから『機動戦士ガンダムSEED』や『鋼の錬金術師』などのヒット作が生まれていました。

現在も夕方放送にアニメはありますが、多くが『名探偵コナン』や『ポケットモンスター』など人気の安定したシリーズ作品のための枠になっています。
新たな国民的アニメの登場のためにも、ぜひ夕方帯新作枠が復活してほしいと思う次第です。

■2019年春アニメで真のダークホースだった作品は……!?
閑話休題。先のグラフでもう1箇所気になる点があるとすればどこでしょう? 中央に位置している4本の長い緑の棒、下図の部分ではないでしょうか。

これらの作品は上から『さらざんまい』『川柳少女/みだらな青ちゃんは勉強ができない』(※「アニメイズム」枠でセット放送)『キャロル&チューズデイ』『ひとりぼっちの○○生活』なのですが、一体何故このような結果になったのでしょう?

『さらざんまい』(C)イクニラッパー/シリコマンダーズ

これら4作品は、アニメ!アニメ!が4月に実施したWebアンケートでいずれもTOP10入りを果たしていました。

1位 『KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-』
2位 『鬼滅の刃』
3位 『文豪ストレイドッグス(第3シーズン)』
4位 『RobiHachi』
5位 『フルーツバスケット』
6位 『キャロル&チューズデイ』
7位 『ひとりぼっちの○○生活』
8位 『進撃の巨人 Season 3 Part.2』
9位 『異世界かるてっと』
10位 『さらざんまい』
10位 『川柳少女』
10位 『ダイヤのA act II』

『さらざんまい』と『キャロル&チューズデイ』は共に有名監督によるアニメオリジナル作品で、アニメファンからの事前の期待は十分でした。
そのため「まずは見ておこう」と思った方が多かったのは頷けます。

『キャロル&チューズデイ』(C)ボンズ・渡辺信一郎/キャロル&チューズデイ製作委員会

『川柳少女/みだらな青ちゃんは勉強ができない』『ひとりぼっちの○○生活』は全てマンガ原作作品ですが、いずれも原作が比較的「知る人ぞ知る」作品であり、アニメ化も初でシリーズ作品でもないため、アニメファンとしてはオリジナル作品に近い新鮮な気持ちでとりあえず1回見てみよう、と思った方が多かったのではないでしょうか。

『ひとりぼっちの○○生活』(C)2018 カツヲ/KADOKAWA/ひとりぼっちの製作委員会

これらのことから、これら4作品は放送開始前後の期待が比較的高かった作品であると仮定できます(もちろん、宣伝やタイアップなど、他の要因のほうが大きかった可能性もあります)。

なお、期待が高かった作品という表現だとランキング上位に並んだ原作付き・長期シリーズの『進撃の巨人 Season 3 Part.2』『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』なども含まれてしまうため、それらと区別するなら、「番狂わせを期待されたダークホース枠」と呼ぶべきでしょう。

この4作品の他にも、最終的に上位10作品の中で2作品だけマンガ原作の長期シリーズではなかった『盾の勇者の成り上がり』(4位)と『賢者の孫』(8位)も、本来このダークホース枠の作品だったと言えます。

『盾の勇者の成り上がり』(C)2019 アネコユサギ/KADOKAWA/盾の勇者の製作委員会

【参考】[2019年春アニメ、見られた作品] 全体ベスト10
1位 『進撃の巨人 Season 3 Part.2』
2位 『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』
3位 『ワンパンマン』
4位 『盾の勇者の成り上がり』
5位 『鬼滅の刃』
6位 『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』
7位 『MIX』
8位 『賢者の孫』
9位 『どろろ』
10位 『フルーツバスケット』

ちなみに、『賢者の孫』は先のアニメ!アニメ!のWebアンケートではTOP10には入っていなかったものの、『この音とまれ!』『世話やきキツネの仙狐さん』『ワンパンマン(第2期)』と並んで13位でした。


一方、『盾の勇者の成り上がり』はそのランキングでもTOP20圏外でした。2019年春アニメで真のダークホースだったのは『盾の勇者の成り上がり』と言って差し支えないでしょう。
→次のページ:作品人気を左右する外的要素とは?

■作品人気を左右する外的要素とは?
データを分析していくと他にも見えてくることがあります。以下の図をご覧ください。

これは『盾の勇者の成り上がり』を見ていた人が、他のどの作品を見ている傾向があるのかを図にしたファン集合相関図です。

グラフの横軸が「『盾の勇者の成り上がり』の視聴者の何%の人がその作品を見ていたか」、縦軸が「『盾の勇者の成り上がり』の視聴者が全体平均に比べて何倍多くその作品を視聴したか」、円の大きさがその作品の視聴者のおおよその数を意味しています。


縦軸の1.3という数字は「全体に比べて1.3倍も多いということは、一緒に見ている傾向が比較的強いと判断できる」という目安です。
つまり、縦軸1.3以上で、さらに右に行けば行くほど「『盾の勇者の成り上がり』の視聴者が見ている傾向が強い作品」ということになります。

面白いのは『盾の勇者の成り上がり』の視聴者の45パーセント以上が全体ランキング8位だった『賢者の孫』を一緒に見ているという点と、逆にランキング1位から3位の『進撃の巨人 Season 3 Part.2』『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』『ワンパンマン』とはそれほど強い相関が見られない点です。

『賢者の孫』(C)2019 吉岡 剛・菊池政治/KADOKAWA/賢者の孫製作委員会

いずれの作品も比較的右側に位置していますが、それらの作品は見ている人の総数自体も多いので、相関があるとは言いにくいのです。

つまり、みんなが見ている作品なら誰でも見ているわけではなく、作品ファンの属性に応じて好まれる作品は違うということです。
『盾の勇者の成り上がり』と『賢者の孫』は共に小説投稿サイト「小説家になろう」出自の異世界転生もの、いわゆるなろう系アニメであるという大きな共通点があるため、一緒に楽しんでいたファンが多かったと考えるのは妥当です。

また、グラフ中央やや上に位置している『異世界かるてっと』は『幼女戦記』『オーバーロード』『この素晴らしい世界に祝福を!』『Re:ゼロから始める異世界生活』という人気4作品のクロスオーバー作品ですが、これらの作品も出自は例外なく小説投稿サイト「小説家になろう」または「Arcadia」出自のなろう系作品です。
そのため『盾の勇者の成り上がり』の視聴者が「こっちも見ておこう」と思うのも頷けます。

『異世界かるてっと』(C)異世界かるてっと/KADOKAWA(C)Isekai Quartet/KADOKAWA

事実、この3作品はファン集合相関図でも非常によく似た結果が出ています。以下、見比べてみましょう。

『勇者の孫』は『盾の勇者の成り上がり』とほぼ同じ形を示していて、視聴者の他作品視聴傾向が非常に似ていることを意味しています。
『異世界かるてっと』も似た形ですが、他2作に比べると『世話やきキツネの仙狐さん』『ぼくたちは勉強ができない』『ストライクウィッチーズ 501部隊発進しますっ!』との相関がより強めに出ています。
これら3作品と『異世界かるてっと』はいずれも複数の個性的なヒロインたちの存在が作品のキモである点やコメディ色が強い点などが共通しています。そういった点で同じなろう系の他2作とはファン層が少しだけ異なるようです。

なお、今回調査対象となった38作品の中でなろう系アニメなのは実は上記3作品だけでした。その3作品がそれぞれランキング4位、8位、11位(『異世界かるてっと』)といずれも上位を獲得しているのですから、シンプルになろう系アニメは人気があると言えます。
昨今、クールごとに必ず1、2本は新作なろう系アニメが放送され、一部アニメファンからは「またなろう系か」という声も聞かれますが、ビジネス的には非常に真っ当な原作チョイスであり、実際ファンもそれらの作品を楽しんでいることが分かります。

ところで、『盾の勇者の成り上がり』と『賢者の孫』にはもう1点大きな共通点があります。それは同じ日に放送していたということです。

『盾の勇者の成り上がり』は2019年1月よりAT-Xにて毎週水曜夜22時から、『賢者の孫』は同年4月から同じくAT-Xにて同日23時半から放送していました。『盾の勇者の成り上がり』は2クール作品ですので、後半1クールは放送終了1時間後に『賢者の孫』が放送されていたわけです。
そのため『盾の勇者の成り上がり』視聴者は、その後に続けて『賢者の孫』を見ていた可能性が高いのです。

「なんだ、同じ日に放送していたなら相関が強いのは当たり前じゃないか」と思いきや、そうとも言いきれません。『盾の勇者の成り上がり』と同じチャンネルの次の枠で放送していたのは、先述の『世話やきキツネの仙狐さん』です。

『世話やきキツネの仙狐さん』(C)2019 リムコロ/KADOKAWA/世話やきキツネの仙狐さん製作委員会

もし、単に『盾の勇者の成り上がり』視聴者が『賢者の孫』放送開始までずっとTVを見ていたのだとしたら、『世話やきキツネの仙狐さん』も同じく相関が強く出るはずです。ですが、実際には下図に示した通りそれほど強い相関関係はありませんでした。

『盾の勇者の成り上がり』放送終了直後の『世話やきキツネの仙狐さん』を見ずに1時間後の『賢者の孫』を見ている人が多いわけですから、やはり『盾の勇者の成り上がり』と『賢者の孫』は視聴者層が特に濃く重なっていたと考えられます。

同じ日の近い時間に同じチャンネルで放送していたことで相乗効果が生まれ、結果的に両方ともランキング上位に食い込めた、という面もあったかもしれません。
もし『異世界かるてっと』も同じ日に放送していたら、さらに強い相乗効果が生まれ、なろう系アニメ3作品がランキングのもっと高い位置を占めていたことも考えられます。

『MIX』の例と同じく、作品がどれだけ見られるかには作品の質などの内的要因だけでなく、放送日や時間、他の番組の放送時間との関連などの外的要因も影響している可能性があります。

これは言い換えると、作品の中身だけが数値に表れるわけではない、つまり見た人が多いアニメや売れたアニメ=質が高いアニメ、とは言い切れないということでもあります。
アニメ!アニメ! でも作品の人気ランキングを発表することがよくありますが、ランキング順位が作品の質を意味するわけではないということにはご留意ください。作品の価値はひとりひとりの視聴者の中にあるものです。
→次のページ:「これなら安心して作品に期待できる!」という要素とは?

■「これなら安心して作品に期待できる!」という要素とは?
もう1つ、アニメの外的要因に関わる面白い結果をご紹介します。
以下の2つのグラフは、『なんでここに先生が!?』と『洗い屋さん!~俺とアイツが女湯で!?~』の視聴者の年代毎のランキング順を表したものです。この2作は共に一部に伏せ表現がある一般版と、それが取り除かれた完全版が存在するセクシー路線のアニメだという点が共通しています(余談ですが『淫らな青ちゃんは勉強ができない』にはこういった共通点はありません)。

ランキング23位の『なんでここに先生が!?』は「週刊ヤングマガジン」連載のマンガ原作、26位の『洗い屋さん!~俺とアイツが女湯で!?~』は電子コミック配信サイトComicFesta連載の電子コミック原作の作品です。

『なんでここに先生が!?』(C)蘇募ロウ・講談社/なんでここに先生が!?製作委員会

原作媒体の違いを考えれば『洗い屋さん!~俺とアイツが女湯で!?~』はかなり健闘しているといえるでしょう。中でもF2層(35歳~49歳の女性)、F3層(50歳以上の女性)の下げ止まりが目を引きます。
本作は特に女性向けに特化した作品ではありませんが、なぜ35歳以上の女性から支持を得られたのでしょう?

その要因の一つが本作の放送枠にあると考えられます。本作が放送されていたのはTOKYO MX の月曜深夜1時からの5分枠ですが、この時間帯は2017年4月放送の『僧侶と交わる色欲の夜に…』から代々セクシー路線のアニメを放送している、僧侶枠と呼ばれる固定枠なのです。

『洗い屋さん!?~俺とアイツが女湯で!?~』自体はどちらかというと男性向けのテイストの強い作品ですが、僧侶枠ではこれまで『甘い懲罰~私は看守専用ペット』や『指先から本気の熱情-幼なじみは消防士-』など、ティーンズラブや比較的女性向けジャンルの作品を中心に放送してきました。そのため「今回の作品も見ておこう」と思った女性アニメファンが多かったのだと考えられます。

『洗い屋さん!~俺とアイツが女湯で!?~』(C)トヨ/Suiseisha Inc.
ブランド化しているアニメ枠といえば、当初はF1層(20歳~34歳の女性)を中心に展開し「高品質なアニメ枠」というイメージが定着したフジテレビのノイタミナが有名ですが、僧侶枠もノイタミナと同じようにF2層以上の女性を中心として「ある種の作品なら安心して期待できる」ブランド枠になりつつあるように思われます。
このように、放送枠もまたアニメの視聴者数に影響を与える外的要因の一つと考えられるのです。

■データ分析でアニメはもっと面白くなる!
今回はアニメの視聴データを通じて、放送時間や放送枠、ファン層の重なる作品が近い時間で放送していたかなど、作品の外的要因が作品人気に与える影響について考察しました。
データを見ることで、作品そのものを見るだけでは分かりづらい、作品がどのように視聴されたのかが見えてきます。アニメをより楽しみたい方はぜひチャレンジしてみてください。

また、本企画では今クール作品もいくつかのステップで随時記事を公開予定です。ぜひ楽しみにお待ち下さい!