現実を反映しているのはリーマンショックだけではなかったようだ。
放送中のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」は、12月28日の第63回をもって年内の放送を終了。
ヒロイン岩倉舞(福原遥)の実家である部品工場の株式会社IWAKURAは、2008年に発生したリーマンショックの直撃を食らい、受注が大幅に減少。従業員の給料には岩倉家の貯金を取り崩しており、さらにはパート従業員3人のリストラも余儀なくされていた。
だが社長の浩太(高橋克典)による尽力もあり、2009年3月には太陽光パネルに使うネジの新規受注に成功。本来なら3カ月かかるところを1カ月半という短期で納品する必要があるものの、背に腹は代えられぬ状況では天の恵みとさえ言えただろう。
「太陽光発電を巡っては2009年9月に、経済産業省が『太陽光発電の新たな買取制度』を11月1日に開始すると発表。電力会社への売電価格が従来の2倍となり、その価格で10年間買い取ってもらえるという施策でした。これにより日本国内での太陽光発電事業に新規参入する企業が激増し、太陽光バブルが発生したのです」(週刊誌記者)
IWAKURAが太陽光パネルの部品に参入すれば、業績の回復は確実。実際の世相を反映した脚本は、視聴者としても受け入れやすいところだろう。
だが、現実社会を反映しているのであれば、IWAKURAの繁栄はつかの間の夢に終わりかねないとの指摘もあるようだ。それは太陽光発電の歴史を見れば明らかだという。
「太陽光パネルの生産では1990年代にアメリカ企業が世界をリード。ついで2000年代には日本企業が世界シェアでトップとなりました。ところが2000年代中盤から中国企業のシェアが急上昇。2008年にはトップの座を奪われ、台湾にも抜かれた日本は世界シェア10%以下に激減していたのです」(前出・週刊誌記者)
それでも世界3位レベルのシェアは維持していたうえ、世界的に太陽光パネルの需要が大きく増えていたこともあり、日本国内での生産数も増加。それならIWAKURAの業績も安定しそうなものだ。
しかし中国が大量生産する製品は、価格の下げ圧力がキツくなるというもの。太陽光パネルの単価はどんどん下がり、日本企業も価格競争にさらされることとなった。そうなると下請け企業のIWAKURAにも値下げが要請されるのは必定。せっかく進出した太陽光パネル部品の製造が、足かせになってしまう恐れさえあるのだ。
「次週予告では浩太がさらなるリストラに迫られることに。太陽光パネルのメーカーから取引を打ち切られたのかもしれません。IWAKURAが所在する東大阪市では2009年に3111社だった事業所数が、翌2010年には2939社に減少。
次週予告では事務所に浩太を探しに行った妻のめぐみ(永作博美)が、床に倒れている浩太を発見する場面が。一瞬なので気づかなかった視聴者も多かったようだが、実は画面の下側に少しだけ浩太の頭が見えていたのだ。
倒れてしまった浩太は再起できるのか。そしてIWAKURAは経営を維持できるのか。本作が現実を反映すればするほど、その先行きが暗いというのはなんとも皮肉な話なのかもしれない。