「殿、直訴に参りました」
「何じゃ、近う寄れ」
「私はもう我慢なりません。やはりロードスターにもエアコンフィルターは必要です」
「何を言うか! 要らぬものは斬る。その潔さこそが軽量スポーツカーの真髄ぞ」
「いいえ、時はすでに21世紀。土ぼこりや虫だけならまだしも、花粉や黄砂やPM2.5の攻撃に苦しむお客様が……」
「ええい、その程度のものもやり過ごせぬようではオープンカー乗りとは言えん。ワシが叩っ斬ってやる!」
「殿、お客様を斬ってはなりませぬ!」
「では貴様から成敗してくれるわ!」
「ぎやーっ」


 そして後日。


「あの主任殿も短かかったな」
「フィルター1枚着ける着けないで、この30年で5人も斬られた。いい加減どうにかならんのか」
「そうだ! フィルターは着けないが、着けられるようにはしておく。これで解決だ」
「なんだそれ?」
「ホルダーだけ挟んでおけばいいのさ。だったらフィルターを付けたことにならないし、お客様のご要望があればエレメントを作るメーカーも現れる。我々は斬られず、社外品は売れ、カスタマーサティスファクションもバッチリ。だれもが、しあわせになる。コピー通りでいいじゃないか」
「人馬一体、Be a driverってか。よく分からんけど、ま、そうしとくか」


(※テキストは妄想です)


 新車を買った情報2021、私は四本淑三です。今回の話題の中心と致しますのはエアコンフィルター。エンジンの吸気ではなく、人間が吸う空気をきれいにするフィルターであります。


 これまでに再三申し上げてきたように、代々ロードスターにはエアコンフィルターがございません。現在のND型ロードスターもクルマの内外を隔てるのは、この虫取り網一枚のみ。


ロードスターに必要なのはフィルターかマスクか

 これも百歩譲ってオープンが前提の幌ならまだ納得もできましょうが、聞くところによるとRFは車体剛性の設定もクローズドが前提。ならば空調もそれに準じたものでなければ筋が通りません。


ロードスターに必要なのはフィルターかマスクか

 また不思議なことに、カウルカバー下の外気導入口には、いかにも何かが取っ付きそうなフレームがございます。多くの方と同様、私もそこに換気扇のフィルターを挟んでごまかしてきました。実は先ほどの外気導入口の奥にある虫取り網も、着脱可能なカートリッジ式なのであります。


 こうした「着ける気があるなら着けられるもんねー。純正部品は出ませんけどー」というイケズ構造の裏には、先のようなストーリーが隠されているのではないかと、私は常々妄想してきたのであります。もちろん、素人の妄想など1ミリたりとも真実にカスるはずもないのですが、妄想カムトゥルー。


もちろん発売されてすぐ買いましたよ

 皆さん先刻ご承知のとおり、今年3月、ついにND型ロードスター専用エアコンフィルターが発売されたのであります。


ロードスターに必要なのはフィルターかマスクか

 まずもって、このフィルターを開発、商品化していただいたエムリット株式会社様には厚く御礼申し上げなければなりません。特に誰か知り合いがいる訳でもありませんが、ホントにありがとうございます。


 エムリットは自動車のエアコンフィルターを製造するメーカーで、その素材は日本製、加工も日本国内で行なっているとのことです。この「ND型ロードスター専用 エアコンフィルター S-ND5/S-NDP」も、ダイワボウ製「ミラクルファイバー」で花粉やPM2.5のような微粒子を吸着。よくあるエアコンのカビくさい匂いは、細菌の増殖を抑制するテイジン製「マイティトップⅡ」で防ごうというものです。


 現行型ロードスターはもとより、アバルト124スパイダーにも適合し、現在のお値段3180円。散々自作でどうにかしようと考えていた経験からすると驚きの安さであります。


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  • ロードスターに必要なのはフィルターかマスクか


    ND型ロードスター専用 エアコンフィルター S-ND5/S-NDPMLIT INDUSTRIES



ロードスターに必要なのはフィルターかマスクか

 フィルターは2枚1セットで、1枚はカウルトップ下の外気導入口に装着。どこかで見た感じの網ですが、これは植物の葉や種子、生物の侵入を防ぐ第一次防衛網。


ロードスターに必要なのはフィルターかマスクか

 ホントのフィルター本体は蛇腹状。柔軟性のあるフレームで覆われ、気密性と静音性を確保するためか一部にフォーム素材なんかも貼られております。下に見える白い短冊状のものは引き抜き用のとっかかりで、次回の交換を楽にしようというもの。ちなみにフィルター交換推奨時期は1年、もしくは1万キロということです。


ロードスターに必要なのはフィルターかマスクか

 そのインターバルの短さからも推察される通り、フィルターはかなり目の細かいものでして、ゆえに吸気抵抗も増えます。メーカーでは最大8%の風量低下があると言っておりますが、後付けフィルターがその程度で済むなら特に問題とも思えません。


面倒だけではない何かがそこに

 望んでいた以上の高性能フィルターですが、実は春先に買って以降、私はまだ取り付け作業を致しておりません。作業手順については製品付属の説明書のほか、YouTubeにも動画が上がっていますが、その作業が面倒そうに見えるというのも、その理由のひとつではありましょう。


ロードスターに必要なのはフィルターかマスクか

 まず、助手席側のスカッフプレートを外します。


ロードスターに必要なのはフィルターかマスクか

 左のヒューズボックス辺りのカバーとモールも外します。ちなみにアクセスしたい目的地は画面中央の上辺り。


ロードスターに必要なのはフィルターかマスクか

 ついでにAピラーのカバーも外します。


ロードスターに必要なのはフィルターかマスクか

 最後にこのクルマの場合、タン色の内装パネルの左側を外しますと、目的地が現れます。そうしたらカプラーを抜いて、例の虫取り網を引き抜き、エムリットフィルターと交換し、全部元に戻して完了。


 と、手順をソラで覚えているくらいで、私程度の者でもやってやれないことはないでしょう。専用工具も何種類か用意して待ち構えていたくらいで、むしろ作業を楽しみにしていたはず。それでもやる気が出ないのは何故なのか。


 もしや長期に渡る自粛生活のおかげで、気付かぬうちに鬱になっていたのではないか。これはまずい。ならば規則正しい生活を心がけよう。ロードバイクをローラー台にくくり付けてZWIFTで走り回ろう。天気が良ければロードスターで野山に出かけてコーヒーを一杯ひっかけてこよう。


 そうしたある日、私はふと気付いたのであります。


人類がフィルターを装着する時代

 コロナ時代になって、雨さえ降らなければ毎日天井を開けて走っているな、と。もしかして納車後3年経った今になって、オープンカー生活を満喫していませんか、と。


 そうなった理由は、常にマスクが顎にかかっている状態だからであります。


 前方でほこりを巻き上げながら走る車がいてもマスク。雪虫の大群が漂っていてもマスク。ダンプが黒煙を発していてもマスク。家に帰ってきたら車内の虫やほこりをブロアーでぶっ飛ばす。以前だったらあらかじめ天井を閉めて回避してきた状況も、これで大体、済んでしまうのであります。


 以前はキャップにサングラスのマスク男なんてのは危ない人間のステレオタイプでしたが、今はマスクもしない人間はパンツも履かずに出歩く変態のような扱いですから、その変わりっぷりはまあ見事なものであります。


ロードスターに必要なのはフィルターかマスクか

 おかげさまで寒くなりはじめた今頃の季節も快適です。寒い朝に乗り込むと途端にフロントスクリーンが曇りましょう。それで顔が冷たくなるのを我慢してエアコンオンでデフロスター、あるいは乾燥した道路の埃っぽさに目をつむって外気導入で走り続けるの二択でした。


 これも天井を開けていれば問題ありません。摂氏5℃くらいなら、膝掛けとネックウォーマーがあればシートヒーターだけで何とかなり、マスクのおかげで顔も寒くなければ鼻水も出ない。空調のモードも関係なし。


 あ、これもしかしてフィルターなくても良かったんじゃないの。そもそも屋根って何のためにあったのかしら。なんてな具合で、春先から今に至るまで、ずっと取り付け作業をする気にならなかったのであります。


 そういえばエムリット社もN95規格の「エムリットマスク」を販売されております。フィルター開発技術を活かした高性能なマスクで、いま私に必要なのは人間装着型のこちらだったかも知れません。


 それでも私がひどい花粉症だったり、渋滞した首都高のトンネルや環八を使わなければならない立場だったなら、問答無用でフィルターを装着していたはずです。それにマスクだけでは防ぎ切れないものも地球上には存在します。



 先日、ロシアから飛来したと思われるバイオ兵器の一群が走行中のロードスター上空に突如現れ、ボンネットに直径15cmほどのものを2発落として飛び去りました。強酸性ゆえ塗装を侵し、他所から運んできた種子や得体の知れない細菌をも含む、恐ろしい爆弾です。幸いなことに車室内および乗員の汚染はありませんでしたが、細菌については私、分かりません。


 フィルターを取り付けるべきか、オープンエアを満喫すべきか。逡巡しているうちに本格的な冬に凍え、そしてまた春を迎えるのでしょう。


 それでは、また。


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