三菱自動車のフラグシップSUV「アウトランダーPHEV」が昨年末フルモデルチェンジしました。ガソリンやディーゼルエンジン車はなくなり、PHEVのみとなった三菱艦隊旗艦を、クルマ大好きのファッションモデル、新 唯(あらた・ゆい)さんとチェックしてきました。
久しぶりに7人乗りモデルが復活!
三菱自動車というと、WRC(世界ラリー選手権)で活躍したランサーエボリューション(通称ランエボ)や、パジェロに代表される本格RVではないかと思います。いずれもアウトドアのイメージであり、それが三菱自動車のイメージにつながっています。当然アウトランダーもそんなアウトドア趣向の強い1台になります。初代が登場したのは2005年のこと。5人乗りのほか、国産車としては数少ない7人乗りモデルがラインアップされていたこともあり注目を集めました。

モデルチェンジは2012年のこと。この時も7人乗りモデルをラインアップされており、大人数でキャンプに行くといった用途に対応できる数少ない本格オフローダーでした。世界初の4WDプラグインハイブリッドSUVであるアウトランダーPHEVが登場したのはその翌年春のこと。ですが、バッテリーなどの機構を搭載したことから7人乗りの設定はなく5人乗仕様のみになりました。
今回のアウトランダーPHEVでは、その7人乗り仕様が復活! 電気自動車でも大人数の移動に対応できるようになったというわけです。
PHEVを得意とする三菱自動車



さて、続いてプラグインハイブリッドEVシステムについて。プラグインハイブリッドとは、コンセントなどから直接充電できるハイブリッドシステムのこと。「なんだそれだけか」と思われそうですが、既存のハイブリッド車とは制御方式や搭載するバッテリーの容量が、かなり異なるから。簡単にいえば、既存のハイブリッド車はエンジンが主でモーターはアシストするのに対し、PHEVはモーターが主でエンジンはアシストという動きになります。
そんな三菱自動車のPHEVは、日本ではトヨタ・プリウスPHVに次いで量産型2車種目。クルマから家の電気をまかなうことができるV2Hに対応した初めてのプラグインハイブリッド車でもあります。2013年の登場以来、三菱自動車はバッテリーの進化や制御プログラムの適正化などPHEVの技術を磨き続けてきました。

三菱自動車というと「エクリプスクロス PHEV」を昨年デビューさせています。そのPHEVシステムと今回では何が違うのでしょう。搭載するエンジンは2.4リットルと基本的に同じもの。ですがモーターの出力がエクリプスクロス PHEVがフロント60kW、リア70kWであるのに対して、アウトランダーPHEVはフロント85kW、リア100kWとパワーアップ! 搭載するバッテリー容量も13.8kWhから20kWhと増加しています。つまり「よりパワフルで長い距離EV走行ができるようになった」というわけです。その距離はなんと87km。
「最近のEV車って400kmとか走れるじゃないか」と思われることでしょう。ですが、バッテリーが切れたら充電しなければならず、30分の急速充電をしたところで、また400km走れるわけではありません。車種によりますが、その半分以下がほとんどです。
ちなみにバッテリー容量の増加は、クルマの走行面以外にもメリットがあります。一般家庭などへの給電が、(エンジンでの発電を組み合わせた場合)従来の最大約7日分から、最大約12日分へと拡大されたのです。これで万が一の時も安心感が増しました。
16年使い続けるプラットフォームでも
古さを感じさせないデザイン
先代アウトランダーが2012年の発売なので、9年ぶりの全面改良になる今回のモデル。その先代も、プラットフォームは2005年に発売された初代アウトランダーから踏襲したものなので、プラットフォーム自体は16年ほど使い続けてきたことに。新型では、ルノー・日産・三菱グループの共通プラットフォーム「CMF(コモン・モジュール・ファミリー)」と呼ばれる彼らのプラットフォームのなかでも、Dセグメント車向けの「CMF-D」と呼ばれるタイプを採用。「え? エクリプスクロスPHEVは?」というと、実は先代アウトランダーとシャーシは共通だったりします。

エクステリアは近年の三菱らしいダイナミックシールドを採用。「デリカ D:5」の時は「すげーデザインだなぁ」と思ったことが懐かしく、今では逆に普通に見える不肖。一方、唯さんは見慣れていないようで、どう表現すればいいのか苦慮されている様子。そして出た答えが「なんかほっぺを膨らませて怒っているみたい」。

ボディーサイズは全長4710×全幅1860×全高1740mm。前モデルが4695×1800×1710mmですから、ほとんど変わっていないといえそうです。金額を度外視し、ざっくり言えばメルセデスのGLCやBMWのX3、レクサスのNX、ボルボ XC60、アウディQ5、マツダ CX-8、トヨタのハリヤーといったミドルクラスSUVがライバルとなりそうな大きさといえます。「間近で見ると、かなり大きなクルマですね」という印象を抱いた唯さん。ダイナミックシールドと相まって、威風堂々という言葉がピッタリです。





まずは荷室をチェック。3列シートということもあり、標準状態では少し幅の広い軽スーパーハイトワゴン程度といったところ。これはほかの3列シートSUVでも同じようなものです。「でもこのクルマ、確かシートがたためるんですよ」というと、唯さんは手際よくシートを収納するではありませんか。「どうして知っているの?」と尋ねる取材スタッフ一同。
「だって、モーターファン別冊ニューモデル速報第614弾『新型アウトランダーのすべて』(三栄/580円)の取材で、モデルをやりましたから」だそうです。


続いて話題の3列目シートをチェック。「あの……、座れません」ということで、2列目シートを結構前方へ動かさないと着座は不可能。当然2列目の足元はとても狭くなります。イメージとしてはNISSAN GT-Rの後席と同じようなものと思って頂ければと。NISSAN GT-Rと異なる点は、収納の関係上シートは薄くクッション性が少ないこと。

さらに構造上、どうしても乗降性は悪く、ミニスカートの唯さんはヒヤヒヤドキドキ。「使うことは滅多にないのかな」というのが同行スタッフの意見。このことを近くにいた開発者に申し上げたところ「あくまで緊急用といいますか、どうしても必要になった時に」とのこと。3列目シートを乗用される方は、素直にデリカ D:5を求められることをオススメします。





その一方、2列目シートは広々。


続いて運転席へ。質実剛健、ザ・アウトドア、頼もしい、といった重厚さを感じさせるデザインで、実に三菱らしさを覚えます。
シフトレバーの近くに置かれた走行モード切替ダイアルに目が行きます。大型ダイアルを採用するあたり、三菱らしいと感じるところ。上質感に質実剛健な雰囲気。

ドライブモードは、三菱自慢の四輪制御技術「S-AWC」の動作を切り替えるもの。メーターパネル内の液晶画面によって、どういうモードになっているのかがわかりやすいです。ステアリングで目新しいのが運転支援の「MI-Pilot」。車線逸脱防止や前走車検知など、ロングツーリングでこの機能は今や安全性の面でも必須といえるでしょう。

上を見上げると大型のサンルーフ。オープンカー好きの唯さん的には好評で「天井が高くても、ルーフがあると圧迫感を覚えますからね。いいと思います」。ということで試乗してみましょう。
ボディーは大きいが運転しやすく静か

「運転席からの見晴らしがすごくイイですね」というわけで、大きなボディーのワリには運転しやすい雰囲気。「剛性感がありますね。シッカリしている」ということで、新シャーシの恩恵は乗り味に貢献。ライバルの何に似ているかというと、安定感、重厚感、そしてやや硬質な乗り味ということでBMWのX3やX5に近い印象。これに静粛性が加わるから凄い。BMWのX3やX5も静かなクルマですが、さらに上を行き、ロードノイズすら聞こえないと言ってもよいほど!


同行スタッフは「このクルマ、どこのタイヤを履いているんだっけ?」「確かBSのエコピアですよ」「あれって縦剛性が強いしロードノイズも結構するよね」というわけで、本当にエコピアなのかとタイヤを疑いはじめる始末。静かさの理由は、車両の一部に貼り合わせガラスを使っているから。他車でも貼り合わせガラスを採用が増えてきましたし、その恩恵は感じていたのですが、EVだからこそ一層恩恵を感じるのでしょう。

EV車らしくトルクが太いのも美質で、音もなく加速していきます。足の遅さというのは皆無で、乗り心地の良さ、静粛性、パワフルさで、「これでスタンダードモデルが460万円ってバーゲンじゃないですか! 電気も使えるし、最強のロケ車ですな!」「あとは2列目シートが完全にフルフラットになって車中泊ができたら最高なんだけどね」とスタッフ大絶賛。そんな声を聞いた唯さんは「なんか、今日は珍しく絶賛しますね」とスタッフを茶化します。EV車ですから、街乗りに便利なワンペダル動作にも対応しています。そこで使ってみたところ、ちょっと回生動作が強いようで、慣れていないとガクガクしがち。「日産リーフの初代も、こんな感じだったなぁ」などと昔を思い出すスタッフたち。


高速道路に乗ってMI-Pilotを体験。この手の運転支援をあまり使ったことがない唯さんは「なんかハンドルが勝手に動いて怖い!」とのこと。最初は違和感ありますが、慣れてくるとホントに手放せない機能になるんですよ。特に遊びや仕事帰りの疲れた時に、この機能があるとないでは大違いです。乗り心地、静粛性、運転支援によって、ロングクルーズは快適そのもの。ニクイネ、三菱!

続いて走行モード切替でターマックをチョイス。「うーん、よくわからない」ということで、一般道や高速道路では違いは感じづらい様子。これは恐らくサーキットやワインディングで楽しむものでしょう。

このようにアウトランダーPHEVは、SUVとかクロカンというよりサルーンカーといった様相で、後席は快適そのもの。一方で3列目シートの必要性については、スタッフが単身者ばかりということもありますが、やや疑問。その事を三菱の担当者に伝えたところ、言われ慣れているのか認識はしている様子。その上で「ボディーサイズをあまり変えないままジェネレーターの小型化で3列目ができたんです」と技術面を強調していました。個人的には3列シートをつけるなら、機械を小さくするより、マツダ CX-8のようにロングホイールベース化した方が実用的でよいのでは? と思ったり。

というのも、ボディーサイズがエクリプスクロスPHEVの4545×1805×1685mmに対して、4710×1860×1740と一回りしか変わらないから。もっともクーペスタイルとクロカンスタイルという外観の違いはあるけれど、3列目の有無以外、一般の人には商品の差別化がしづらいので、全長5m越まで伸長し、より明確な差別化を図っても良かったかもしれません。
そう思わせるのは、アウトランダーPHEVがSUVというよりサルーンに近い静粛性と快適性を備えているから。例えば後席を豪華装備にした4人乗りのラグジーな仕様があったら、かなり魅力的な1台になるでしょう。それに車幅で1.9mを超えてくると「一般道だと、ちょっと運転しづらいなぁ」と思いますが、全長で5mあっても「車庫入れでの切り返しが面倒」という程度で、普通に走っている分にはストレスはそう多くないはず。途中でBMWに似ていると書きましたが、そう思えるほどのクルマだからこそ、もっとラグジュアリーSUV路線に振ってもよいのかなと感じた次第です。

ともあれ、クルマとしての完成度はさすがの一言。イクリプスクロス PHEVも「結構イイナ」と思っていましたが、アウトランダーPHEVは流石フラグシップ、三菱スゲーと感心し、また欲しいと思うSUVが出てしまったことを告白します。
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モデル紹介――新 唯(あらた ゆい)

栃木県出身10月5日生まれ。2020年に小林唯叶としてモデルデビュー。2020年シーズンのSUPER GT「マッハ車検GAL」をはじめ、SUPER FORMULA、スーパー耐久シリーズのレースクイーンとして活躍。2021年4月の芸能事務所プラチナム・プロダクションへの移籍に伴い新唯に改名。現在ファッションモデルとしての活動のほか、マルチタレントを目指し演技の勉強中。