納期は長い。注文する仕様も決まらない。
と、かれこれ2ヵ月近くも悩んでいるうち「この世にジムニーさえなければ、こんなに悩むこともなかったのに」。などと軟弱なJ-POPにありがちな歌詞のようなものが頭の中を巡るようになってしまいました。もはや病気です。
ならば嫌いになってみるのはどうか。
新車を買わずに済ませる情報2022、私は四本淑三です。今回の話題の中心と致しますのは、ジムニーのダメなところ。買う前から分かっているダメなところをあげつらい、それでジムニーを嫌いになろう。そうすれば欲しくもならず、納期や仕様で悩むこともなくなるはず。わかりやすく言えば、小学生の男の子が好きな女の子にわざわざブスと言いに行くようなお話であります。
売れるクルマに仕立てたのがダメ
そもそも何故、こんなに納期が長いのか。それはメーカーの思惑を超えて欲しい人が沢山いるからに相違ありません。発売当初の月販目標はジムニー1250台、シエラは100台。
ところがフタを開けてみたらバックオーダーの山。発売からおよそ3年半経った2022年1月の販売台数ランキングは、ジムニーシエラが1012台で41位(日本自動車販売協会連合会発表)。そしてジムニーは3656台で11位(全国軽自動車協会連合会発表)。登録車のシエラはさておき、ジムニーは一般的な軽自動車の選択肢として、ごく当たり前の存在になっていたのでした。

なぜこんな特殊車両が普通に売れてしまうのか。それはおそらく単純に「安くてカッコいい」から。
その昔、かっこいいクルマの代名詞といえばスポーツカーでした。馬力、最高速度、ゼロヨン加速。そうした数字に男の子たちが心を踊らせた時代には、「財布の軽い若者向け」に国産スポーティーカーも多数用意されておりました。ところがいまやロードスターやGR 86 / BRZですら300万円コース。多くの若者が自動車など無駄と考えているご時世に、車中泊もできないクーペなんてものはお話にもなりません。
そこに諸費用込みで200万円で買えるのがジムニーです。これは長年、軽自動車を造ってきたメーカーの創意工夫の賜物。速度を形として表現したのがスポーツカーだとすれば、ミニタリービークルに端を発するタフな機能美を集約したのがジムニーシリーズであり、向いている方向は違えどカッコいい。いかにも強そうで、実際逞しいこのクルマの形には性別関係なくイチコロです。
もちろんジムニーを購入したすべての人がオフロードを走るわけではありません。しかしスポーツカーにおける速度がロマンだったのと同様、未だ見ぬ冒険旅行へのロマンがこのクルマの形に詰まっているのであります。これさえあればどこへでも行ける。走れない道などない。今時の財布の軽い若者のスポーツカーとは、実はジムニーシリーズなのかも知れません。
こうして本来の販売目標を大幅に外れるロマンあふれるクルマに仕上げてしまったのがまるでダメです。
新型アルトの半分しかない燃費がダメ

ジムニーシリーズは燃費がよろしくないと言われております。車重の割にエンジンの出力が低く、駆動系のロスもそれなりに大きいので、これは致し方がありません。だからユーザーはさほど気にしていませんし、私にもそのハンデとパフォーマンスを考えれば悪くない燃費だと思えます。
ところがメーカーには「CAFE規制」というものがかかってきます。日本語で「企業別平均燃費基準」というこのルール、車種別のモード燃費や販売台数などからメーカーが売ったクルマ全体の二酸化炭素排出量を制限し、基準を超えたメーカーには罰金を課すというもの。
これは燃費の悪いクルマを売っていても、より燃費の良いクルマを多く売れば補えるものであり、二酸化炭素排出量はメーカー間で融通できるものとも聞いております。トヨタのようにハイブリッドを中心に燃費の良いクルマを沢山売っていれば、GRヤリスやスープラやランクルを多少造っても問題ありませんし、またそうしたメーカーと仲良くしておけばガソリンエンジンが主力のメーカーでも乗り切るれるというもののようです。
スズキも燃費の良い軽自動車をたくさん売っているので平気だろうと思えますが、この基準値が厳しくなりました。2016年の実績値19.2kmLに対し、2030年度の目標値は25.4kmLと、3割以上の改善が求められています。
この新しいCAFE規制はEVやPHEVも対象としており、二酸化炭素排出量はエネルギーの生成から排出までをトータルで計算するものだそうですが、単純に燃費で比較すると、今年発売になった新型アルトのHYBRID X 2WDは、WLTC燃費で27.7km/L。ジムニーシリーズの燃費はその半分。大して売れないクルマなら問題もありませんが、先のようにアルトに混じって普通に売れているから大変です。
おかげでジムニーを買ったらスズキの負担になるのではないか。ジムニーを買ったら新型アルトの一番燃費の良いやつを4台くらい買わないと帳尻が合わないのではないか。などと余計な心配をしてしまうのが本当にダメです。
アイドリングストップ機構がダメ
エンジンの停止と再始動を繰り返すためセルモーターに負荷がかかり、高価で重いバッテリーも必要で、維持費は増すのに燃料代がそれほど安くなるわけでもない。私はそんなアイドリングストップ機構が嫌いです。
しかし、ジムニーとなれば話は別。

昨年のマイナーチェンジで2型となったジムニーシリーズのAT仕様にアイドリングストップ機構が付きました。もちろん先のような事情もあって、役所に届け出る燃費を良くするためでしょう。ジムニーで1.1kmL、シエラで0.7kmLの燃費改善を達成しております。
将来に渡って少しでも長く、より多くジムニーを造り続けてもらうには、その足をできるだけ引っ張らない方がいい。クルマ自体の燃費が少しでも良くなるなら、それに越したことはありませんから、ここは大嫌いなアイドリングストップも涙を飲んで受け入れましょう。
ただ、私はジムニーシリーズを買うなら、ATにしようと決めておりました。なぜなら雪道で使うにはMTよりトルク変動の少ないATの方が有利だから。変速を雑にやるとズルッと滑りますから気を遣うのですが、ATならクリープが効くので出だしでスリップすることもありません。
ところがアイドリングストップ機構まで付けて燃費改善を図ろうというメーカーの涙ぐましい努力を見てしまうと、だったらもっと燃費の良いMTにした方がスズキのためになるのではないか。運転はMTの方が楽しいし、夏なら全然問題ないし、大嫌いなアイドリングストップも付いていない。
せっかくATに決めていたのに余計な悩みが増えてしまった。実に腹立たしいことですがそこがダメです。
雪道に強そうで強くないのがダメ
ジムニーが欲しい1番の理由は、除雪車が入っていなくても多少の積雪であれば進めてしまうこと。これは200mmもある最低地上高のおかげ。そして普通のクルマならスタックしそうな状況でもへいちゃらで、仮にスタックしたとしても脱出はたやすいこと。なにより強力な四駆のトラクションとブレーキLSDは武器になります。
ただし、これは厳しい路面状況における低速域での話。一般的に言って重心の高いクルマは横転のリスクが高い。それに氷雪路が続いたと思えば、乾燥したアスファルトが顔を出すこともある。舗装路を四駆で走ると曲がらない上に駆動系に負担をかけますから、FRに切り替えなければならない。そうした日常的な場面では、ジムニー のパートタイム式よりセンターデフがあって適当にトルク配分をしてくれる方式、いわゆる「生活四駆」のビスカスカップリング式の方が便利だったりします。
ジムニーのありがたみは、余程ハードな状況でなければ感じられないかもしれません。そして、そのハードな状況において、極めてシリアスに、まったくもってダメだと言いたいのは、リアフォグランプの設定がないこと。私は三本和彦御大の三角窓並みの執拗さでもって、これを訴えていきたい。
ロードスターもそうでしたが、ジムニーも海外仕様ならリアフォグが設定されています。なぜそれが国内仕様にはないのか。ロードスターでケチっているマツダですら、CXシリーズのAWD仕様には国内向けにもリアフォグを設定しています。
SUVより過酷な条件で使われるだろうジムニーシリーズには、必須の装備であるはず。雪が降ったらアテにならない自動ブレーキより、リアフォグの方がよほど安上がりで安全に寄与するはず。スズキの偉い皆さん、よろしくご検討ください。
そしてここまでダメなところをあげつらってもなお、まあ面倒だけどリアフォグくらい自分で付けようかな、などと考えてしまうタイプのクルマだから本当にダメ。なんでこんなダメなクルマを好きになってしまったのでしょうか。
それではまた。