スポーツカー好きおじさんである筆者、スピーディー末岡がさまざまなハイパフォーマンスカーに乗り、街乗りレビューをしていく当連載。今回紹介するのはポルシェ「911 GT3」である。そう、またもやポルシェである。そろそろ違うクルマもいきたいところだが、「GT3の広報車、スケジュール空いたよ」という甘い囁きに弱いんだから仕方ない。
ポルシェ 911 GT3(Type992)
こんなクルマあり!?
911 GT3ってどんなクルマ?
この911 GT3は現行モデルの992型になって初めてのGT3となる。911はポルシェの象徴として知られているが、その派生モデルにはこのGT3やGT2、GTSやGT3 RSなどがある。その中でもGT3の立ち位置を解説したい。


海外のツーリングカーレースや、国内のSUPER GTなどには「FIA GT3規定」のマシンが参戦している。GT3というからにはGT1もGT2もあったのだが、この2つのカテゴリーは開発費の高騰など諸事情により現在はGT3に吸収されている。GT3はモータースポーツの間口を広げる意味も込めて、アマチュア向けのカテゴリーとして発足し、参戦車両は市販車をベースにしたものばかり。改造範囲も狭く、要するに「買ったままの状態でレースに出られる」という手軽さがウリのひとつだった。




とはいえ、現在は各メーカーが本気でマシンを作っているのと、世界中で盛り上がりすぎてもはやアマチュアのレースではなくなってきてしまったので、ジェントルマンドライバー向けのGT4という下位カテゴリーが発足するに至っている。
911 GT3はその名のとおり、レーシングカーで得たノウハウをふんだんに取り入れた、「公道を走れるレーシングカー」なのである。さらに上位モデルの「911 GT3 RS」やターボモデルの「911 GT2 RS」などがあるが、ここでは割愛させていただく。
なお、GT3グレードが設定されたのは1999年の996型が初めて。その後、モデルチェンジごとにGT3グレードが設定され、その最新モデル(7世代目)が今回レビューする911 GT3なのだ。お値段も2296万円(税込)とレーシングカークラスの(一般道での)実力はいかに!?




ハイパフォーマンスカーを
AT限定免許でも乗れるうれしさ
まずは911 GT3のスペックを紹介しよう。MTモデルとPDK(AT)モデルがあるのだが、今回はPDKモデルのスペックとなる(試乗車がPDKだったので)。本体のスリーサイズは全長4573×全幅1852×全高1279mm、ホイールベースが2457mm、車重は1490kg。駆動方式は911伝統のRRで、トランスミションは8速PDK。エンジンは4リッター水平対向6気筒自然吸気、最高出力は510PS(375kW)/8400rpm、最大470N・m(47.9kgf・m)/6100rpmとなっているが、わかりにくいのでノーマルの911と比べてみよう。




ノーマルの911 Carreraは、エンジンが3リッター水平対向6気筒ターボ、最高出力が385PS(283kW)/6500rpm、最大トルクが450Nm/1950~5000rpm。明らかにGT3が大幅にパワーアップしていることがわかる。
また、6MTモデルと8PDKモデルでは細かい差があり、たとえば最高速度はMTだと320km/hだが、PDKだ318km/hと2km/hの差がある。逆に0-100km/hの加速はMTが3.9秒、PDKが3.4秒とPDKに分がある。シフトチェンジは賢くなったPDKにお任せで十分なのだ。




さて、さっそく街に繰り出してみる。アクセルをゆっくり開けていくと、あまり加速しない。信号が青になったあと、筆者の愛車(プジョー208)と同じ感覚で踏んでもゆるゆるとしか進まず……。ちょっとジラされたような気分になったので、少し踏み込んでみるととんでもない勢いで加速するではないか。高回転型エンジンだけにある程度回さないといけないらしい。街中を走るためのアクセル開度を探すのが、最初は非常に手間取った。


コンビニなどに入るときに気になる下回りだが、車内のスイッチを押すことでフロントをリフトさせる機構がちゃんとあるので、まったく問題ない。小回りが効くとは言えないが、全幅が1852mmなのでそれほど大きさを感じない。ただ、ドアがそこそこ大きいため、駐車場で横のクルマにドアパンチしないか気をつけないといけなかった。
次に高速道路での巡航チェック。ずばり「水を得た魚」とはこのことだ。街中を低回転でトロトロ走ってんじゃねーぞ! と911 GT3から言われているのかと思うほど伸び伸び走ってくれる。ノーマルモードでは、2000~3000rpmくらいでどんどんシフトアップしてくれるので、気がつくと8速で走っている。これでも十分速いのだが、スポーツモードにするとシフトアップが高回転になるので、燃費を犠牲に速さを得られる。今回は途中から渋滞になってしまったので、スポーツモードがあまり体験できなかったのが残念だ。昔はこのようなスポーツカーはMTでシフトチェンジしてナンボみたいなところがあったが、もはや人間が操作するよりも快適で速く、燃費もいいんだからおそれいる。PDKモデルならAT免許でも乗れてしまうし。こんなハイパフォーマンスカーをAT限定で乗れるなんて! それこそ、スポーツカーに乗りたいけどMTしかないからと断念していた人には、いい時代になっただろう。




排気音の大きさもその気にさせてくれる。あきらかにノーマル911より野太く、大きな排気音が後ろからするのだ。アクセルを踏めば踏むほどその音は大きく、もっと踏めとクルマから言われている気にすらなる。筆者はヘタレなので、ちょっと加速すると「抜いちまったヨ、アクセル──」と心のブレーキがかかってしまうのだが。また、エンジン始動時の音を録音したので、このシビれるサウンドを体験してほしい。
足周りはガチガチに締め上げられており、ちょっとの段差も拾ってしまうのと、そもそも車高が低いため、路面が荒れている筆者の生活圏内ではかなり気を遣ったドライブを強いられた。快適か否かと問われると否なのだが、そもそもメインステージはサーキットなので仕方がない。
車内は高級感もありつつ
かなりレーシーに仕上げられている
ポルシェは「高級車」というのが一般的なイメージだ(実際高級だが)。高級車は走りだけでなく、車内もラグジュアリーでないとならない。911は上質感を醸し出しつつ、かなり質実剛健だったが、911 GT3は後部座席がなくなっているかわりにロールケージが組んであり、余計なものを排除したシンプルでいて、さまざまなところにアルカンターラが奢られるなど、絶妙なバランスになっている。






ポルシェのインフォテインメントシステム「PCM(ポルシェコミュニケーションマネージメント)」も健在で、10.9型のタブレットのようなディスプレーで、ナビはもちろんのこと、エアコンからクルマの状態まで見たり設定したりできるスグレモノだ。もちろん、Apple CarPlayにもAndroid Autoにも対応するので、スマホのナビを使いたければ接続するといいだろう。実際、ちょっとナビが使いづらかったのでスマホのナビに頼ったのだが。












ただ、車内は全体的にタイトなので、収納が少ないのは一目瞭然。やや不便を感じるかもしれないが、クルマの性質上割り切れるだろう。そのかわり、運転席から手が届く範囲でいろいろとアクセスできるのは便利だった。一応、助手席にも収納式のドリンクホルダーがあるので、ペットボトル1本くらいなら置けるが紙パックは無理だったことをお伝えしたい。




【まとめ】911乗りも嫉妬するGT3
911 GT3は911を冠しているが、ほぼ別モノというのが乗った感想だ。911(Type992)はタルガトップのTarga 4Sに乗ったが、非常に快適に作られており、街中から高速道路、サーキットまでまんべんなく楽しめるような仕上げになっていた。対してGT3は活躍の場が限られる。街中をトロトロ走るのはとてもフラストレーションが溜まるし、車高が低くて足周りも硬いのでコンフォートという言葉は縁遠いだろう。やはりサーキットに持って行ってポテンシャルを発揮してあげるのがベストだろう。高速道路も新東名の120km/h区間がメインステージだ。




今回は街中と首都高の一部のみの試乗だったせいか、GT3から「もっとアクセル踏んでくれよ!」という声が耳が痛くなるほど聞こえてきた気がする。ポルシェに共通している「買い物からサーキットまでこれ1台で完結」という作りからは、ちょっとズレているのが911 GT3だ。もちろんサーキットで全開走行してそのまま家まで帰れるだろうが、あきらかにほかの911とはステージが違うと感じた。隣の芝生は青く見えるというレベルではなく、ノーマルの911と911 GT3には同じType992なのに隔世の感があるのだ。


スポーツカー乗りはもちろん、911乗りすらその走りに嫉妬してしまう。それがType992の911 GT3なのだ。

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