以前、VEZELで車中泊をしてみた不肖。寝れなくはないのですが「もうちょっと広い方が」と思ったのも事実。
7人乗り仕様で車内が広いCX-8

現在13車種をラインアップするマツダ。そのうちSUVは、なんと半分近い6車種! その中でCX-8は最も大型のモデルになります。そんなCX-8には6人乗りと7人乗りの2モデルが用意されているのですが、車中泊できるのは7人乗り仕様になります。というのも6人乗り仕様は2列目シートが豪華なのですが、それゆえ背もたれがフラットになるほど倒れない模様。ですが7人乗りはフラットになるほか、中央に隙間ができません。



さらにマツダからはベッド・クッション(2枚8万1400円、1枚4万700円)が用意されているのもポイント。これを使えば車中泊できる、というわけです。
CX-8にはクリーンディーゼルとガソリンという2種類のエンジン仕様と、FFとAWDというこれまた2種類の駆動方式から選択できます。その中で今回お借りした「CX-8 25S Smart Edition」は、ガソリン仕様のベースグレードに少し豪華な装備を追加した特別仕様車。ベースグレードとはいえ、マツダのフラグシップSUVですから高いのでは? とドキドキしながら価格表を見ると……。

車両本体価格に塗装代やメーカーオプション込みで332万9700円(税込)というから驚き! ちなみに今回お借りしたのはFF仕様車になりまして、AWDを選択すると約25万円アップとなります。それでも安いわけで、このクルマを売って儲けがあるのか? と心配になります。



サイズは全長4900×全幅1840×全高1730mm。ざっくり言えば、トヨタのランドクルーザーやレクサスRX、三菱のアウトランダーPHEVあたりと同じ大きさで、実に立派な車格。ちょっと車庫入れとかに苦労するかなと思ったのですが、最小回転半径は5.8mと意外と小回りが利く印象。何よりアイポイントが高いので見晴らしがよく運転しやすかったりします。

さて、クルマに機材を詰め込むわけですが、ここで問題になるのが「3列目を倒さないとモノが載らない」ということ。

今回は東京から東北道で北上すること約300km、福島県二本松市で昨年11月下旬に行われたD1グランプリの取材用に2泊3日で利用しました。道中のほとんどは高速走行になるのですが、車内は想像以上に静粛で驚きます。乗り心地はというと、思ったより硬いというか跳ねる印象。おそらく設定している乗車人数に対して、乗っているのが1人であったり、のんびり走っているというのもあるのでしょうが、道路のつなぎ目でショックがちょっと残る印象。具体的にはバネレートが高くて減衰力が弱いといえば伝わりますでしょうか。
高速道路での巡航といえばクルーズコントロール。CX-8には車間監視付きのアダプティブクルーズコントロールが搭載されているのでラクラク。

サーキットという場所は往々にして山の中にあり、エビスサーキットも例外ではありません。というわけで登坂するのですが、非力とは言わないまでも、2.5リットル直列4気筒エンジンは結構うなりをあげます。ですからワインディングでもSUVの「S」であるスポーツの気分にはなれず、ゆったりのんびり。約1.8トンの巨体に対して、最高出力190馬力/最大トルク25.7kgf・mは足りないのは致し方ないのかもしれません。逆に高速道路で感じた跳ねる印象は、ここでは感じることはなく、むしろコーナーでのロール量が少なくてイイと思った次第。足って難しいなぁと思いながら登坂しました。

会場に到着すると、紅葉も終わりかけて山々は物悲しい雰囲気。つまり日中でも寒いのです。さらに夜になると一気に気温が氷点下近くまで下がるという現地の方の話を聞いて、2泊3日の車中泊生活に不安がよぎります。
車中泊のメリットだけでなく
デメリットも考えよう
実際に車中泊レポートをする前に、車中泊のメリットを考えたいと思います。おそらく多くの方は、「泊まりたいところで泊まれる」「コストが安い」「時間の制約を受けない」の3点を挙げられるのではないでしょうか。
時間的制約を受けないという点においては、旅館のような料理の都合でチェックインの制限があるならともかく、素泊りのビジネスホテルなら制約はありません。
そこで食事に1時間、風呂に1時間かかると仮定すると、18時に飲食店、19時にスーパー銭湯に到着というタイムスケジュールを組まざるを得ないのです。ビジネスホテルなら、この入浴の時間は遅らせることができますので、時間的制約から逃れられるのです。もちろん食事も、飲み屋でOK。「お風呂に入って、その後クルマの中で酒とメシを楽しめばいい」という考えもありますが、万が一でも運転する可能性があるのなら、飲酒は控えるべきです。

「泊まりたいところで泊まれる」は、確かにそのとおり。サーキット近くにオートキャンプ場や道の駅などがあればいいのです。
コストに関しては、車中泊グッズを揃えるイニシャルコストとホテル宿泊費というランニングコストを天秤にかけて、どちらが得か、ということになるでしょう。今回のCX-8の場合、ベッド・クッションが2枚で8万1400円もします。なくても寝られますが、翌日、体がバキバキになるのは目に見えているので、用意した方がいいでしょう。一方、ビジネスホテルは1泊5000~6000円前後(時期や場所にもよりますが)。これに車中泊時に利用するスーパー銭湯の入浴料が1000円と仮定し、ホテル代から引くと1泊あたりの宿泊コスト4000円になります。8万円を4000円で割った20泊が損益分岐点。つまり21泊すれば元が取れるという計算になるのです。あくまでザックリですが。
何が言いたいのかというと、車中泊を考えていらっしゃる方は、そのメリットは何かを今一度考えて欲しいのです。というのも、やってみると結構「こんなハズでは……」というのが起きるのです。

では車中泊の準備をしましょう。3列目はすでに倒しているので、あとは2列目の背もたれを前方方向へ倒すだけ。実にカンタンです。続いてベッド・クッションを取り出し、敷けば完成です。この時、ベッド・クッションの裏に硬い板があるものとないものがあり、硬い板の方を2列目側にした方がよいようです。完全なるフルフラットかというと、運転席側の方が少しだけ高い様子。これは停める際に路面の傾斜を利用すればよいでしょう。あとは布団を敷くだけ。「寝袋じゃないのか!」と思われますが、不肖は枕はもちろん、布団が変わると寝つきが悪いのです。敷いてみるとカプセルホテルみたいな空間に早変わりです。

問題は荷室に置いていた荷物をどこに置くか、ということ。ズバリ言えば運転席と助手席に置くしかありません。その場合、大きなスーツケースを置くのは難しいので、荷物は小さなカバンに小分けし、テトリスのように積み重ねていくのがベストです。うれしい誤算は、2列目を倒した足元部分にスペースがあったこと。ここにも荷物が置けるので、小さなカバンはもちろんのこと、長物も入ります。これは小さなSUVではできないことです。


では仕事をしようと思った矢先。次なる問題が発生します。それは天井が低いということ。身長185㎝の不肖では頭がつっかえてしまうのです。よって寝ながら作業することになります。これは食事でもいえ、この姿勢での飲食は辛かったりします。「じゃぁ運転席で食べればいい」と思われるでしょう。それが荷物で埋まって座ることができないのです。よって「メシはバックドアを開けて、ラゲッジスペースをテーブルとして立ち食い」をしました。朝、これをやったのですが、ホントに寒いんですよ……。今の時期ならまだいいかもしれませんが。

CX-8でイイと感じたのはバックドア側にアクセサリーソケットが用意されており、いわゆるポータブル電源の充電ができること。このポータブル電源をタイヤハウス近くに置けば、スマホやノートPCはもちろん電気毛布が使える! さらに大容量ポータブル電源は重たいので動かしたくありません。実に有用です。

さらに3列目シートのドリンクホルダーの他にUSBレセプタクルがあるのも美質。手元に水があるのは実にイイですし、寝ながらスマホがクルマの中で実現できるのはかなり便利! ただしUSB給電はアクセサリーモードまたはエンジンがかかっている状態でなければなりません。



今回は寒いのでポータブル電源を使って、電気毛布で温まりながら就寝。これが本当にカプセルホテルみたいで快適。足だって伸ばせます。やっぱり足を伸ばして寝れるって素晴らしいことで、翌日膝がガクガクしないのです。ただ、頭を運転席側にすると枕が下に落っこちるので、頭をバックドア側にするのがオススメ。ただ、フラットなのですが運転席側の方に傾斜がついているので、地面が平らな場所だと寝ているうちに頭に血が上ることに。つまり「寝た時に荷室全体が水平になるポジションを作り出す」必要があります。
極寒の車中泊で身に染みた「不便さ」
快適なCX-8の車中泊。ですが目が醒めたのは朝3時です。というのも晩秋の福島県、猛烈に寒いのです。よって震えながら起きた次第。ここから「車中泊なんてしなければよかった」な事が始まります。
まずトイレに行くために外に出るのですが、一発で目が醒めるというか、全身が縮み上がるかと思うほどの寒さ! 続いて食事となるわけですが、前出の通り車内で食べるのは困難で、外で立ち食い。続いて布団をかたずけて、運転席と助手席にある荷物をすべてラゲッジへ。これ、全部寒い外に出て作業しなければなりません。この時ほど「ビジネスホテルに泊まればよかった!」と思うことはないのです。夏は夏で暑いと思うので、車中泊をするなら季節を考えた一工夫が必要になるでしょう。

悲惨なことはさらに続きます。車内の窓ガラスが曇りまくっているので、運転できないのです。エンジンをかけてデフロスター・デフォッガースイッチをオンにするのですが、これがなかなかとれず、30分も暖機運転することに。ですが今度は近くの人から「何時だと思っているんだ」と怒られてしまい……。早朝のアイドリングはやめましょうなのですが、しないと前が見えなくて。

なんとか走れるようになり、現場に到着するとサーキットの前には長いクルマの列。これを繰り返すこと2回。極寒の朝での車外作業という点を除けば、CX-8での車中泊は快適。車中泊を考えるなら、CX-8という選択肢はアリといえそうです。ただ繰り返しになりますが、車中泊は想定外のことが起きますので、そこをどう考えるか、でしょう。
【まとめ】CX-8での車中泊には満足だが
もう少し快適度はあったほうがいい

それからしばらく経ち、CX-5の改良版を試乗する機会に恵まれました。その時、ふとCX-8のことがよぎったのです。つまり「もし自分がマツダを買うなら、ロードスターでもCX-5でもなくCX-8かな」と。そして長距離を走ることを考えるとディーゼルを選択するかなとも。つまり今回取材した「CX-8 25S Smart Edition」のディーゼル版である「XD Smart Edition」のFF仕様(352万円)が、仕事用としても家族用としても(独身ですが)、個人的マツダ車の選択肢となりそう。
ちなみにマツダは緊急防災 車中泊セットも販売しており、クルマに入れておけば万が一の時でも車内避難生活を送ることもできます。「プライバシーを確保しながら休める場所」としてCX-8は、かなり心強い味方になりそうです。
CX-8での車中泊に満足しつつも「もっと車内で快適に過ごすことはできないのか?」とも。次回はもう少し仕事用に振ったクルマでの車中泊レポートをお届けしたいと思います。
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