ソニーとホンダが折半で出資する「ソニー・ホンダモビリティ株式会社」が10月13日、設立発表会見を開催した。
第一弾となる高付加価値EV(電気自動車)は2025年前半から先行受注を開始し、同年中に発売。
まず、北米市場を意識しているということは、当然、航続可能距離はかなりの長距離を想定しているのだろう。結果として巨大なバッテリーが搭載できる大型のクルマ、テスラに匹敵するような高価格帯になるのではないか。
北米製造の高付加価値EV
自動車業界全体でガソリンやハイブリッドから電気自動車にシフトしていく中、自動運転やコネクテッドなど、IT企業が自動車業界に参入できるチャンスが増えてきた。
ソニーは自動車の分野において、センサーやエンターテインメント分野、コネクテッド、ロボティクスなど様々な技術やコンテンツで勝負することができる。
そのため、自社で電気自動車の開発を進め、「VISION-S」というコンセプトカーを開発していたものの、さすがにソニーで自動車を量産するのは難しい。
そこで、パートナーとして浮上したのがホンダだった。
2025年に発売する高付加価値EVは、アメリカにあるホンダの工場で製造する予定だ。
自動車業界でも“水平分業”
ソニーが自動車業界に参入してきたということは、自動車業界における企業の関係性が再構築されていくことになる。
ソニー・ホンダモビリティの川西泉社長は、「従来の自動車メーカーは自動車OEMを頂点に数々のパートナーに支えられた産業構造であった。
一方、IT業界では水平分業が進んでいる。自動車のEV化が進み、IT技術の比率が高まっていくことで、自動車業界を支えるステークホルダーとの関係を見直す時期が来るのではないか。我々はパートナーやサプライヤーやビジョンを共有し、対等で新しい関係を構築していきたい」とも語る。

これまでの自動車メーカーは、例えばホンダを頂点にして、様々な下請け企業によって支えられてきた。
IT業界であれば、ソニー・Xperiaの場合、製品を企画するのはソニーだが、半導体はクアルコム、OSはグーグル・Androidであり、実際に製造するのは海外の企業だったりする。
クルマもIT化が進むことで、様々なジャンルで水平分業体制に生まれ変わっていくだろう。
業界大変革に備えてきたホンダ
実は、その業界構造の変化にいち早く準備を進めてきているのが他ならぬホンダなのであった。
自動車業界には100年に一度の大変革が起きるとされているが、その変化に乗り遅れないための危機感からか、ホンダは実に多くのパートナーと提携し、大変革に備えてきた。実際のところ、ソニーとの協業は、その一端に過ぎないという見方もできる。
実はホンダは本格的なコネクテッドカー時代を見据え、すでにグーグルと2021年に組んでいる。「Googleアシスタント」や「Googleマップ」、さらに車載用アプリケーションなどを2022年度後半発売の新型車から搭載していくという。
また、2022年6月にアップルが開催した開発者向けイベント「WWDC」では、iOS16によってCarPlayの機能が大幅に拡張し、車内のモニターにiPhoneからの情報だけでなく、速度などの自動車が持つ情報なども表示できるようになるという発表があった。その対応メーカーのなかにはホンダのロゴがきっちりと並んでいたのだった。
ということは、ホンダから数年中に発売される電気自動車は、いままで以上にグーグルとアップルのサービスが使いやすい車内空間が提供されるということになるようだ。
最大のライバルは身内のホンダか
一方で、ソニーがホンダと組んで電気自動車を作る際、こだわりを見せているのが車内空間だ。クラウドで提供するサービスと連携することで、ソニーが持つエンターテインメントを楽しめ、パーソナライズされた車内空間で、運転以外の楽しみを提供するとしている。

数年後、ホンダが出す電気自動車はグーグルもしくはアップルが提供するサービスを余すところなく体験できる車内空間になるし、ソニー・ホンダが出す電気自動車はソニーが手がけるエンターテインメント空間、感動空間を楽しめることになる。
つまり、ソニー・ホンダモビリティにとって、今後、自動車業界における最大のライバルは、グーグルとアップルとタッグを組んでいる身内であるホンダが出す電気自動車ということにもなりかねない。
ソニーのようにITに強い企業が自動車業界に参入できるチャンスは広がっているものの、結局、アップルやグーグルとの戦いを強いられることになりそうだ。

筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)
スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)など、著書多数。