2014年にBEV(Battery Electric Vehicle)の「i3」、EVを全面に出したスポーツモデル「i8」の販売を開始したBMWは、かなり早い段階からBEVに力を入れてきたメーカーといえるでしょう。
一見普通のモデルと変わらない電動SUV「iX3」
今回試乗したモデルの正式名称は「BMW iX3 Mスポーツ」。Mスポーツの名のとおり、X3としても上位のグレードにあたります。まずは気になるプライスから。「BMWのEVだから、X3の倍以上の値段、1000万円は超えてくるだろう」と考えるのが自然でしょう。ですが実際のプライスは862万円。ちなみにライバルといえそうなレクサスの「UX300e」が580万円程度。レクサスよりは高いけれど、世界的インフレ傾向+円安基調である状況で、BMWブランドでこのプライスにとどめてきたことに驚きました。



X3をベースにしたEVであるiX3は、各所にブルーの差し色で電動化をアピールしている以外は、デザインも操作系もX3と同じ。テールを見て、本来マフラーがあったところにブルーのパーツでフタをしているあたりに、ドイツの合理主義をみたような気がしました。
EVというと、専用シャーシに近未来的デザインのクルマが多く、BMWも以前はiシリーズとして市場投入してきました。また昨年iXというモデルも登場させています。
X3の良いところをそのままに電動化


BMW iX3 Mスポーツは、最高出力256PS、最大トルク40.8kgf・mを発するパワーユニットをフロントに置き、2つの後輪で地面を蹴るFRマシン。ホイールベース間の床下に敷き詰められたバッテリー容量は74kWh。フル充電での走行距離は508km(WLTCモード)を謳います。ちなみに200Vの家庭充電の場合、8時間で満充電になるのだとか。






ラゲッジ容量はX3ゆずりの510リッター。バッテリーを積載しているためか、X3に比べると50リットルほど少ないのですが、いやいや十分すぎる容量です。後席の背もたれを倒すことで1560リッターに拡大できます。








インテリアはBMWの青の差し色があること以外、X3そのもの。ガソリンエンジンのX3ユーザーが乗り換えても、何ひとつ戸惑うことはないでしょう。
操作のしやすさや走り安さを
好みに設定可能


車両設定もX3と同じように、ステアリングの重さやスロットルレスポンスなどが変更できます。お好みのセッティングを作ることもできます。




せっかくなので後席もチェックしましょう。リクライニング機構付きで快適さはさすがといったところ。エアコン送風口の下にUSB Type-C端子を配置しているのですが、位置はかなり下なので、ケーブルの抜き差しは少し面倒です。
電動になってもBMWらしい乗り味は損なわない

「モーターとバッテリーがあればBEVができる」という話から、「どのメーカーに乗っても同じ」と思われがちです。しかし、世の中そう簡単にいかないことを、BMWは教えてくれます。というのも、iX3はしっかりとBMWらしい乗り味が得られており、誰が乗ってもBMWだと思うことに間違いないから。地にしっかりと足がついたような接地感と重量感。やや硬めに感じるもイヤではない乗り味、コーナーを旋回している時の塊感。「BMWってこうだよね!」というのが、全身にヒシヒシと伝わるのです。

エンジンと違うのは振動の少なさ、騒音の少なさ。張り合わせガラスを用いているので、もともとの遮音性はかなり優秀なのですが、それにモータードライブが加わるのですから、本当に静か。一方、重戦車が進むかの如くのフィールはまさにBMWそのもの。

この日モデルを努めた、クルマ大好きの新 唯(あらた・ゆい)さんも「確かにBMWらしいクルマですね。そしてBMWじゃないとできないクルマでもあります」と感心しきり。「X3って大きさがちょうどいいと思うんですよ。X5はちょっと大きいですし。その上で、EVらしい静粛性の高さがあります」と気に入られたご様子。
一方でワンペダル動作には慣れないようです。「このモードにすると、慣れないうちはギクシャクしがちですね。あと、アクセルペダルを離すと減速はしますけれど、完全には止まらないんですね」と、かなり戸惑っていました。「でも、渋滞や信号の多い都心部では、これは便利かも」というわけで、EV+ワンペダルの快適さを理解したようです。

自動車業界で「サスティナビリティ」という言葉を言い始めたのはBMWが先鞭をきったように思います。その後、各自動車メーカーが環境問題に対応することをサスティナビリティと捉えて活動するようになりました。ですがiX3に触れてBMWは自分たちそのものをサスティナブルしているのでは? と思った次第。たとえ脱炭素化を達成した先に、そのブランドのクルマがコモディティになっては、会社として持続しないのです。電動化してもコモディティ化しないBMWの未来は明るいと確信しました。

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モデル紹介――新 唯(あらた ゆい)

10月5日栃木県生まれ。ファッションモデルとしての活動のほか、マルチタレントを目指し演技を勉強中。また2022年はSUPER GTに参戦するModulo NAKAJIMA RACINGのレースクイーン「2022 Moduloスマイル」として、グリッドに華を添える。