日本で最も偉大な草レース「スーパー耐久シリーズ」。ST-5クラスに昨年からマシングレーのロードスターが参戦していることをご存じだろうか。
その目的などを伺いに、2022年のスーパー耐久シリーズ最終戦が行なわれた鈴鹿サーキットへ向かうことにした。
ル・マンを制したマツダが
再びレースに参戦した理由



マツダのモータースポーツ活動というと、誰もが頭に浮かぶのは1991年のル・マン24時間レースで総合優勝を果たしたマツダ787B(55号車)だろう。ロータリーエンジン最後の年に、ロータリーエンジンとしては初、そして日本車初の総合優勝は、今でも伝説として語り継がれている。その後、マツダは翌年を最後にル・マン24時間レースから撤退。いつしか国内外のメジャーレースも気づけばマツダ車の姿は消え、マツダのロゴを見るレースは、マツダUSAによるIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権か、ロータリーの神様として知られる雨宮氏のショップRE雨宮のD1(ドリフト)参戦、ロードスターのワンメイクレースくらい……。
日本国内に関しては、モータースポーツとは無縁と思われていた同社が、どうして再びモータースポーツ活動に力を入れ始めたのだろう。まず、その点から、中核メンバーのひとり、カスタマーサービス本部カスタマーサービスビジネス企画部エンゲーメント推進グループの松崎庸輔マネージャーに質問をぶつけてみた。

「マツダは1968年のマラソン・デ・ラ・ルートという84時間レースを皮切りに、相当昔からレースにエントリーしていまして、“耐久のマツダ”と言われていました。その後も様々なレースに挑戦しつづけ、91年のル・マン24時間レースの日本車初の総合優勝に結び付きました。それから30年。

“耐久のマツダ”が参戦の舞台に選んだのが、スーパー耐久シリーズである。「マツダ・スピリット・レーシングの前身となる活動は2019年のシリーズ最終戦・岡山に遡ります。この時、プライベーターの村上モータースさんに、立ち上げ人である前田シニアフェローが参戦しました。いわゆる武者修行です」。


その後、マツダに思わぬ追い風が吹く。スーパー耐久シリーズをクルマの実験場として、バイオフューエルや水素燃料などを用いて活用する「ST-Q」クラスの誕生だ。トヨタ自動車などからマツダも参加しませんか? と声をかけられ、2021年のシリーズ最終戦・岡山にディーゼル仕様のデミオ・バイオコンセプトを持ち込み、ワークス活動が始まった。2022年はバイオディーゼル燃料で走る「MAZDA 2 バイオコンセプト」で参戦。カーナンバーは栄光の55番。それは先人たちの意思を受け継ぐ、という十字架を自ら背負った形だ。
社内やディーラーの協力も得ての参戦


この活動は、社内的にも大きな意味があるという。「モータースポーツは人も育てます。現在、兼務という形でマツダのエンジニアが関わっていますし、メカニックも普段は広島マツダのディーラーでサービスをしている方です」。これは言うまでもなく、人を育てる活動だ。話によると自ら志願・応募して来ている方がほとんどで、その人数は明かせないものの、かなり多いとか。割合としては、メーカーのエンジニアは7割、ディーラーのメカニック3割といったところ。メカニックは現在広島マツダの人だが、ほかの地域の関係者も視察に来ていた様子。今後は採用エリアを増やしていくことだろう。
とはいえ、プロモーションの効果を考えると、国内で最も人気の高いSUPER GTの方が望ましいのでは? 「スーパー耐久はプロドライバーのほかに、アマチュアドライバーや自動車メーカーの開発ドライバーも参戦しています」との返答。

「モータースポーツのカテゴリーはピラミッドがあって、スーパー耐久の下にも当然クラスがあり、ナンバーのついた車両で行なうレースもあります。たとえばロードスターのワンメイクですね。そこから、上位カテゴリーに挑戦したいという方は大勢いらっしゃいます。そういう方々に挑戦する門を開こうということで、昨年のもてぎ戦からST-5クラスにロードスターを投入しています。まだ試行錯誤の段階、体制を含めてトライアルという形ではありますけれども、そういったシステムを作っていきたいです」。

現在マツダは、ロードスターを使った様々なレースを実施している。手軽にサーキット走行できるパーティーレースものから、地方のシリーズ戦、そして全国大会とカテゴリーはさまざま。

さらに「最近はeスポーツが盛んですよね。今までモータースポーツの選手になるには、よほど親からの英才教育を受けてきた人じゃないと入れなかったと思うんです。ですが、ゲームで始めた人たちがリアルでも走りたいという希望が増えています。私たちとしては、今年からグランツーリスモで年間全5戦のマツダスピードレーシングカップというのを実施しています。そこで上位の方にリアルのサーキットを走る機会を作ろうと思っています」。
eスポーツからリアルへの道筋を作ろう、というところまで、マツダは考えているわけだ。ちなみに参加条件は、マツダスピードレーシングアプリに登録するだけ。もちろんグランツーリスモをプレイする環境は必要になるが、車両そのものを所有する必要はない。その人材が有望だったら、スーパー耐久シリーズで走ることができるかもしれない。アプリではイベント情報のほか、グッズの情報、そして会員同士の交流(SNS)も用意されている。

すでにキャップやブルゾンといった応援グッズなども用意(サーキットでは販売していない)しており、展開によってはスーパー耐久で培ったノウハウをつぎ込んだ部品や車両を販売する可能性を、否定はしていなかった。

「私達はクルマやモータースポーツのファンを増やしたいです」というマツダの取り組み。それは先代からの意思でもあるように思う。30年ぶりに復活したマツダの取り組みにこれからも注目していきたい。

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