発売して約1年が経過したガソリンエンジン仕様の11代目シビック。2022年春にe:HEV、そして9月にTYPE Rの発売が開始され、ラインアップが完成したことになります。



今回お借りしたのは、EXという上位グレードのAT車。価格は350万円前後といったところで、乗り出し価格は400万円を超えてくると思われます。なぜMTではなくATにしたのか。それはシビックのガソリン仕様車のうち、AT比率は7割を超えるという話を耳にしたから。MTの方が楽しくてイイ! という声も確かにありますが、MTを買い求める人は、おそらくTYPE Rを求めるでしょう。ですので、今回はATです。ボディーカラーは特に指定しなかったのですが、やってきたクルマは、プラチナホワイト・パールという3万8500円の特注色で、最も選ばれるであろう車体色でした。
Honda的にガソリン仕様車の推し色(イメージカラー)はプレミアムクリスタルレッド・メタリックのようで、約1年前はその個体ばかり見ていました。街で見かけるのも大抵この色のような……。ですから初めて見たプラチナホワイト・パールのシビックは実に新鮮。個人的にHondaはTYPE Rグレードの専用色「チャンピオンシップ・ホワイト」のイメージが強く「Hondaのクルマは白が似合う」と思っているだけに好印象を受けました。

試しにチャンピオンシップ・ホワイトのTYPE Rと並べると、プラチナホワイト・パールの方が白らしい白で実に上品。また他社の白いクルマと並べてみましたが、シビックの方が白く輝いている印象を受けました。ですから自分がシビックを買うなら、リセールバリューの事を考えなくても、プラチナホワイト・パールを選ぶと思います。
シビックが大きくなって価格も高くなったのは
車格が上がったから

クルマ好きの人と新型シビックの話をすると、「新しいシビックが出るたびに」必ずといってよいほど出てくる話が2つあります。まずは「デカイ」という話。全長4550×全幅1800×全高1415mm、ホイールベース2735mmは、SUVのヴェゼルより長くて幅も広い。ゆえに「シビックも大きくなったなぁ」と思わせるに十分です。
ですが「メルセデスのAクラス、BMW の2シリーズ(クーペ)、アウディA3と同じくらいの大きさ」というと、ちょっと見方が変わってきませんか。事実、アウディA3を「大きくなった」と文句を言う人はいないと思います。シビックに乗って大きくて困る場面はありませんでした。ただ、ワインディングや峠道を走ると「もう少し小さいと楽しいんだけど」と感じたのも事実。つまり「これ以上は大きくしてほしくない」というのが、偽らざる本音だったりします。

そしてもう1つが「シビックなのに値段が高い」という話。
給料が上がらない話は、経済学者が朝まで討論しても同じ答えにならない話なので私にはよくわかりませんが、シビックそのものの値段が上がった要因は、ベーシックカーからミドルクラスへとランクアップしたこと。また、運転支援などの機能が充実したという2点でしょう。
アウディA3の名を出したので、両者のエントリーグレードを比較してみましょう。シビックのLXが319万円であるのに対して、アウディ「A3 30 TFSI」は347万円。実はシビックとアウディの値段はそれほど変わらないのです。上位グレードでもシビック EXが353万9800円に対して、「A3 30 TFSI advanced」が379万円。ちなみにアウディA3の最上位グレードである「A3 30 TFSI S line」が423万円。
とはいえ、アウディにシビックと同じような機能を求めようとすると、運転支援系のオプションである「コンビニエンス&アシスタンスパッケージ」(50万円)と、ナビゲーションパッケージ(26万円)が追加で必要になりますから、エントリーグレードで100万円くらいの差が生まれるのですが、「シビックを買うお金プラス100万円でアウディA3が手に入る」というのは、なかなかにインパクトのある話。シビックとアウディA3を比較することは別の機会に委ねるとして、頭の片隅に留めながら本稿を進めていきたいと思います。
機能面で物足りなさを感じるが満足度は高い

シビックで気になったこと。まずひとつは「マルチビューカメラシステムがない」ことでしょう。もちろんバックカメラはありますし、ソナーもついているので問題はありません。さらにいえば、アウディA3にこの機能はないのですが、上から見るグラウンドビューはイマドキ当たり前の機能ですので意外でした。ちなみにヴェゼルの場合、メーカーオプションでホンダコネクトディスプレイを選び、さらにマルチビューモニターを選べば装着可能なので、用意されてもいいのでは?


ナビ画面ついでに言えば、最初から付いてくるにもかかわらず、後付けっぽいデザインなのもどうなのかなと。この手のデザインはクルマの高級感を損なうようように感じますし、ダッシュボードが1枚板のようになっている方が、見た目もスッキリして掃除もラクです。ナビを上にすれば視認性が上がるという話もありますが、ナビを見つづけながら運転するわけではありません。


次に不満を覚えたのは、後部座席にUSB端子がないこと。「イマドキのミドルクラスにはあって当たり前」だと思っていただけに、これも意外。オプション設定がないのも不満で、形状から見るに「後付け」はできそう。これはオプション設定して欲しいところです。


あるべきところに、必要なスイッチがある、という中において、ココ? というのがスタートボタン。Hondaは伝統的に右側に配置しており(ちなみにトヨタは左側)、これはクルマの鍵を右に刺していたという名残だと思うのですが、このボタンがステアリングに隠れて見えないのです。


不満点より満足点のほうがはるかに多い
つらつらと不満点を書きましたが、これらは重箱の隅をつついてほじくり出したようなもの。それ以外、基本的には絶賛のデキ栄えです。インテリアはカジュアルモダンで、居心地の良さに文句ナシ! プラスチッキーなチープさは皆無です。Hondaの伝統ともいえる快適なドライビングポジションと相まって「これでいいじゃないか」と思わせるに十分なクオリティーです。座る度に「これいいなぁ」とシミジミ思います。
また、視界の広さと透明度の高さも特筆すべきところです。上下左右に広いだけでなく、ダッシュボードの映り込みが少ないのも助かります。さらに言えば、ナビとルームミラーの間が広いので、左折時のストレスが少ないのです。近年、ルームミラー付近には運転支援のカメラやソナーが付くなど、ルームミラーの位置は下がりつつあります。その一方で、ナビ画面の大型化などにより、上へと伸びる方向に。シビックもその傾向はあるのですが、いい塩梅のところでとどまっているという印象を受けました。

そして、エアコン送風口の可動範囲の広さと調整方法がプレイスティック式なのは便利。

取り付け位置で文句を言ってしまいましたが、ナビゲーションシステムのUIも最高です。アイコンが小さいので、押し間違える時があるのですが、スマホライクで多機能なのは◎。ナビ動作中、メインメニューを開かなくてもルート案内中止が用意されているのも地味にうれしかったりします。

近年のHonda車で関心するのはオプションのスマホトレイ。ワイアレス充電に対応しているのはもちろんなのですが縦位置なのが◎。スマホは縦で持ちますので、横位置だと手首をひねらなければならないのです。ほかにスマホホルダーで良いと感じているのはアームレストに置く方法。なかでも縦位置で差し込むアルファロメオのホルダーは理想的なものでした。

後席は十分な広さが確保されています。コンパクトカーと違い、足元も十分に広く、コンパクトカーとは違うところを感じさせます。セダンの後席というと視界の狭さからくる閉塞感があったりしますが、シビックは比較的広い印象。





荷室は並のSUVよりも入り口が広く使いやすい印象。なにより床面積の広さは魅力的。ゴルフバックも3個は入りそうです。小さな室内灯があり、夜の荷物の出し入れもラクラク。そしてシビックのよいところは、プライバシーシェードが巻取り式であるところ。これがトレイですと、外した後のトレイをどこに置くのか? という問題が起きるのです。

一方で、バックドアが大きいため、高さ制限のある立体駐車場など、天井の低い場所では当たってしまう可能性もありそう。特にシビック TYPE Rの場合、羽根があるので、さらに厳しいものになりがちです。ハッチバックのように後ろには開かないため、ショッピングセンターなどでは後ろをあまり気にせずによいかもと。そのバックドアは、パワーゲートではなく、手動で開閉するのはちょっと不便といえば不便。
あればいいな、というのは12Vアクセサリーソケット。これはクルマにポータブル電源を積載し、走行中に充電したいという時に便利なのです。Hondaは蓄電機の「リベイド E500」(販売終了)がありましたからね。
エンジンはさすがのHonda!
気持ちよく上まで回る

エンジン仕様のシビックが搭載する1.5リットル直4ターボは、実になめらかで気持ちよさはクラストップ。最高出力182PS、最大トルク22.4kgf・mは必要にして十分であり、何よりエンジンサウンドの良さと相まって、踏む楽しさにあふれています。e:HEV仕様の方が静粛性が高く、また鋭いゼロ加速が楽しめますが、エンジン仕様は生理的な心地よさが魅力的。瞬間的に乗り換えると、e:HEV仕様に心が奪われるのですが、長い時間乗り続けるとこちらもまたイイと思うから不思議なものです。
長年、直4エンジンを作り続けてきたHondaならではの味付けなのでしょう。ただ、できればレギュラーガソリン対応にしてほしかったですね。経済的な意味で。ちなみに、アウディA3もハイオク専用車です。

Hondaの良さは、ハンドリングを楽しいと感じさせる足回り。ちょっと硬めなのだけれど、不快ではありません。e:HEVより少し細かな振動を拾う傾向があるのと、走行中の車内に漏れ入る音が大きめなのは、おそらくタイヤの違いかと。というのも、タイヤがガソリン仕様がグッドイヤーであるのに対して、e:HEV仕様はミシュランだから。このことをエンジニアに聞いたところ、クルマの性格にあわせて変えているのだとか。エンジニアが試してグッドイヤーが適切と考えているのですから、無闇に変えない方がいいのかもしれませんね。

安全運転支援システム(Honda SENSING)のデキのよさも特筆すべきところ。たとえばバックしている時、至近距離に障害物があればクルマがブレーキをかけてくれます。そして、高速道路でのアダプティブクルーズコントロール+ハンドル支援。世界初の自動運転レベル3を実現したレジェンドと同じカメラシステムを使っているというだけあって、安定度の高さはさすがといったところ。どの辺に完成度の高さを感じるのかというと、前走行車がいなくなった時、現れた時の自然な加減速と、コーナーでのふるまいです。
この手の運転支援は、クルマの車種・グレードに関係なく、最近出たクルマほど進化しています。もちろん今後も進化し続けていくことは間違いないありません。現状のシビックで「ハンズオフ一歩手前」まで来たという印象です。ここから先は、クルマに座っているだけ、という感じになるので、個人的にコレ以上は求めません。



燃費の面ではe:HEVに敵わないのは仕方ないとしても、それでも「こんなにイイのか?」と思うレベルだったりします。今回は都内から「モビリティリゾートもてぎ」までの往復で満タン法で計測してみました。ルートは、首都高C1から常磐道、水戸ICで降りて一般道で約20kmというルートです。


ストップ&ゴーを繰り返す都内と比べて、高速道路と信号の少ない一般道は燃費がよい結果になる傾向はありますが、それでも308.5km走って18.59リットル。つまり、リッター18.69kmは立派な数字です。

ガソリンエンジンのシビックというと、最近登場したTYPE Rに目がいくのは自然なことです。ですが金銭的負担が大きいですし「もっとカジュアルにクルマを楽しみたい」という人には、AT設定がないクルマはちょっと……。それを考えると、ガソリン仕様のシビックはとてもいい選択肢だと感じました。使い勝手もよく、走っていて楽しくて経済的。長く愛せるクルマって、こういうクルマなのでしょう。

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