新車を買った情報2023、私は四本淑三です。本日の話題の中心と致しますのは、もうじき春だというのにスパイクタイヤ。

というのもスパイクタイヤで困ったのは、毎年この季節だったからです。


 皆様ご存知の通り、現在はスタッドレスタイヤに取って替わられ、自動車ではほとんど使われておりません。金属の鋲が舗装を削るおかげで道路の補修費がかさみ、空を舞う粉塵が健康被害をもたらす。そうした問題から国の「スパイクタイヤ粉じんの発生の防止に関する法律」により、1991年4月1日をもって国内メーカーの販売は終了しております。


 日本でスパイクタイヤの普及が始まったのはモータリゼーションが本格化した1960年代以降のこと。当初問題にならなかったのは舗装率の低さもあったでしょう。国交省のWebサイトによりますと、簡易舗装を含めた一般道の舗装率は2020年の全国平均が約82.5%。それに対して1970年は約15%でした。


 この粉塵問題が知れ渡ったのは、仙台市民による新聞への投稿だったのは有名な話でありまして、舗装化が進むにつれ、交通量の多い寒冷地都市部から問題が顕在化していったのであります。


 とはいえ当時はスパイクタイヤに替わるものがなく、簡単に廃止するわけにもいきません。「住民の健康」「交通の安全」どちらを守るのか喧々諤々の議論がございました。タイヤメーカーはスパイクの本数を減らす、突出量を抑えるといった努力をしつつ、ついには1982年にミシュランが最初のスタッドレスタイヤ「XM+S100」を発売。

以降スタッドレスは年々高性能化してゆき、安価なビスカスカップリング式四駆の普及と相まって現在に至るわけであります。


 市民の声を真摯に聞いた行政担当者、スタッドレスの研究開発に注力した技術者、法や条例にまとめた国や地方の議会、みんなが真面目に知恵を出し合った結果として、現在のスタッドレスタイヤがあるのです。先人の努力に感謝しなければなりません。


原付二輪と自転車はスパイクタイヤOK

 ただ、規制の始まったタイミングと私の免許取得時期が重なっておりまして、私はスパイクタイヤで公道を運転した経験がありません。伝え聞くところによれば氷雪路でのグリップは、いまだスタッドレスとは比べ物にならないのだとか。そのトラクションやハンドリングとはいかなるものなのか。ここはぜひ伝説のタイヤで公道を走ってみたい。


 そこで昨年買ったNESTOのマウンテンバイクに装着してみたのであります。


禁断のスパイクタイヤ21世紀の雪道を走る

 おいおい、スパイクタイヤは禁止されているんじゃないのか?


 そう思われる方もいらっしゃるでしょうが、大丈夫。原動機付二輪や軽車両は規制の対象に入っておりませんし、自動車のスパイクタイヤですら全面的には禁止されていません。消防や救急のような緊急車両、自衛隊車両や災害時の輸送車両、除雪車、身体障害者が運転する車両は不問です。


 規制を受けるのも指定地域のみで、北海道、東北六県、上信越、北陸地方など降雪地だけ。規制は自治体によって異なりますが、北海道の道央・道南地域では4月1日~11月20日を「使用規制期間」として禁止。

冬季の11月21日~3月31日は「使用抑制期間」として、いわば努力義務のようなことになっております。


 それでいいのかという話ですが、これも無問題。雪や氷が舗装を覆っていればスパイクタイヤで走っても粉塵は出ません。だから規制されるのは積雪や凍結の状態にない舗装路のみ。実際のところ粉塵被害がひどかったのは、雪が消えた春先になってもスパイク履きっぱなしのクルマが多かったからであります。


 とはいえ路面状況が変わるたびにタイヤを交換するのは非現実的ですから、履きっぱなしで行けるスタッドレス一択となったわけです。そもそも自動車のスパイクタイヤを買おうと思っても、もう普通には入手できません。


 でも自転車のスパイクタイヤなら普通に買えてしまうんですな。


シュワルベのアイススパイカープロを試す

禁断のスパイクタイヤ21世紀の雪道を走る

 私が買ったのはシュワルベの「ICE SPIKER PRO」。北国自転車野郎の定番とも言える銘柄で、サイズは27.5×2.6インチ。幅65mmほどで、通常のマウンテンバイク用としては一番太いスパイクタイヤです。


 仕様としては最近流行りのチューブレスレディで、チューブレスレディホイールに装着しシーラントを注入することでチューブレス運用できるものです。私はシマノのチューブレスホイール「WH-8120」に履かせて使っていますが、そのセットアップは意外なくらい簡単でした。


禁断のスパイクタイヤ21世紀の雪道を走る

 シュワルベ純正ビードワックス「イージーフィット」を塗って、シマノの電動空気入れMP180Dで簡単にビードも上がって作業終了。これまで散々聞かされてきた「コンプレッサーやブースターでエアを高圧で入れないとビードが上がらない」といった問題も経験せずに済んでいます。


 驚いたことにこの状態でエア抜けもしません。そこでシーラントを入れずにどれくらい保つか試してみました。もちろんパンクしたり、何かのはずみでビードが緩めば急激にエアが抜けて危険です。シーラントなしの運用はまったくお勧めできません。


 ただ今回はトレイルを猛スピードで駆け下りるわけでもなく、平坦な雪道を低速で走るだけ。いきなり抜けても平気だろうことで2気圧入れて様子を見たのですが、2ヵ月経っても1.8気圧をキープしていました。


 シュワルベは自社のチューブレスレディタイヤを「チューブレスイージー」と呼んでおり、多少なりとも気密性を保つ工夫はされているようです。それがたまたまシマノのチューブレスホイールに対して効いているのかも知れません。繰り返しますがこのタイヤを当たり前に使うならシーラントは必須です。


クロスカントリースキーのような楽しさ

禁断のスパイクタイヤ21世紀の雪道を走る

 さて、いざ走り始めると、その一漕ぎからもう感動であります。独特の「パリパリパリ」という薄い煎餅を割るような音を立てながら、スタッドレスならスリップするはずのアイスバーンも難なくこなしてゆく。

ダンシングしても滑らないし、ブレーキもフロントサスが沈むくらい良く効く。スノーシューズで歩くよりはるかに安心感があり、冬のコミューターとして完璧です。


 確かにスタッドレスとは大違いで、スパイクタイヤから切り替わる時期に事故が頻発したのも納得です。ずっとスパイクタイヤを履いていた昔の人は、よくスタッドレスで我慢できたものだと感心するしかありません。


 出せる速度は乗員の能力次第ですが、ロードレーサーで27km/h巡航がやっとの私の場合は、20km/h出るか出ないか程度。はっきり言って遅い。路面抵抗が大きいので乗員にはトルクフルな出力が求められますし、疲労も激しいので長い距離は走れません。でも雪上をえっちらほっちら往く感覚はクロスカントリースキーのようで楽しいものです。手軽にできる新しいウインタースポーツを見つけた気がしました。


あらためて実感するスタッドレスの偉大さ

禁断のスパイクタイヤ21世紀の雪道を走る

 ただ苦手な路面もあります。それは意外なことに積雪路。降ってから固まらず適当に撹拌された雪が特にダメ。

10cmも溜まっていたらグリップしません。これはスパイクタイヤの特性というより、このタイヤのデザインに原因があります。


 通常のスノータイヤであればトレッドが雪を踏み固めながら進んでいきます。しかし、このタイヤはスパイクとその土台となる六角形の出っ張りのみ。大地のふわふわした表層と点で接しているわけですから、雪の下の硬い層にスパイクが達しなければ簡単に滑ります。こういうときにはタイヤの幅が10cm以上あるファットバイクが断然有利なはず(次のシーズンはSurlyのIce Cream Truckあたり……)。


 そして何かと疲れるのが舗装路。転がり抵抗が大きく、速度も落ちる。クルマだったら燃費もガタ落ちのはず。それにジジリジリリジジーッという、70年代の北海道でよく聞いたスパイク特有のノイズがすごい。おかげで後ろからクルマが接近しても分かりません。ミラー必須です。


 舗装路でホイールをロックさせるとスパイクが飛ぶらしいので、そこも気をつけなければなりません。交換用のスパイクと着脱工具のセットが純正品として売られていて、タイヤ自体はゴムの経年劣化のみでほぼ消耗しません。スパイクさえ打ち替えてゆけばこの先何年も使えるはずです。


禁断のスパイクタイヤ21世紀の雪道を走る

 ただやっぱり舗装路の上をスパイクタイヤで走るのは、昔のことを知っていると罪悪感のようなものも感じますから、いろんな意味でできれば走りたくない。


 となるとスパイクタイヤで気持ちよく走れるのは厳冬期のみ。気温の上がる日中は雪も消えて舗装が露出しますから、道央地区であれば12月下旬から2月末まで。真夏のビーチと同様、たった2ヵ月の儚さ。そこがいい気がします。


 そして最近のスタッドレスタイヤの出来の良さにも改めて感心です。舗装路から氷雪路まで幅広い路面に対応しつつ、苦手なのがツルツルのアイスバーンだけ。年に何度か遭遇する「いまだけタイヤにスパイク生えろ!」と叫びたくなるシーンを除けば完璧です。交差点の手前やコーナーの入口、日の当たらない下り坂には気をつけましょう。


 それではまた。

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