911にあらずんばポルシェにあらず
そんなふうに考えていた時期が俺にもありました
不定期連載の高級車レビュー、久々となる今回はポルシェのコンパクトSUV「マカン」だ。またポルシェである。筆者が好きなのでそこは許してほしい。
ポルシェといえばRR駆動の「911」という911原理主義者が世の中には大勢いる。筆者もその中の1人だ(しかも空冷好き)。とはいえ、そこはビジネスなので911だけを作り続けるわけにもいかない。これまでもポルシェはFRの924、944、928、968、ミッドシップの914、ボクスター、ケイマン、4WDの959、918といったラインナップを展開しており、その時代その時代で賛否両論はありつつも、みんな違ってみんなイイと共存していた。


しかし、2002年に突如してSUVの「カイエン」が登場した。今でこそSUV全盛だが、その頃ちょうどSUVが盛り上がり始めた頃だった。筆者は当時「911にあらずんばポルシェにあらずだ!」と豪語しており、カイエン登場のニュースに「ポルシェもこういうクルマを出すのか」とガッカリしたことを覚えている。その後、実際にカイエンに乗って、その考えは改めたのだが。
そんなカイエンはあっという間にポルシェの売り上げナンバーワンのモデルになる。目を三角にしてRRのMT車を運転するよりも、ポルシェという安心のブランドをバックにゆったりのんびり走りたいという人が多かったのだ。その後発売された大型サルーンの「パナメーラ」が売れていることからも、それがわかる。
2010年、カイエンのフルモデルチェンジと同時期に、カイエンを一回りコンパクトにしたSUVを開発していることを発表。

このとき筆者はまたもやガッカリした。ポルシェはプレミアムなブランドなのに、そんな売れ線のジャンルを出さなくても……と。カイエンがあるんだから、そんなに売れないんじゃない? と思ったのだが、あれよあれよと兄貴分のカイエンを抜き、今ではポルシェで一番売れているクルマになった。
筆者の先見の明がないのがいけないのだが、なんとなく悔しかったのと、元々SUVが好きではなかったので(デカいから)、ポルシェの他のクルマは借りても、カイエンとマカンは借りなかった。前職の自動車メディアから今の今まで、ポルシェで乗ったことないモデルはレーシングカー以外ないんじゃないかというくらい乗ってきたが、実は唯一マカンは乗ったことがなかった。
アイドル系の記事でお世話になっているライターの荒井氏が購入したと聞いて気にはなっていたのだが……(ポルシェで一番売れてるSUV「マカン」を買ったらすっかりポルシェ沼に)。
ポルシェで唯一乗ったことがなかったマカン
食わず嫌いはいけないと痛感させられる
そして今年4月に富士スピードウェイで開催された「モーターファンフェスタ2023」を取材しに行くときに、現地までの移動をどうしようかと考えていたときにポルシェジャパンに相談。最初は「911 Carrera GTS(7MT)」を提案されたが、せっかくなのでラクに速く移動できるクルマにしようと思い、マカンをチョイスさせてもらったのだった。もちろん、911 Carrera GTSは今後レビューする予定だ。



マカンについて説明すると、アウディのQ5と共通部分が多い兄弟車のような存在で、ラインナップは無印のマカン、マカン T、マカン S、最上位のマカン GTSの4モデル。
カイエンの標準モデルが全長4930×全幅1983×全高1698mm、ホイールベースが2895mm、車重は2055kgなので、一回り小さいことがわかるだろう。

お値段はマカンが791万円、マカン Tが854万円、マカン Sが1013万円、マカン GTSが1235万円。今回の試乗車であるGTSはここにオプション328万2000円が乗っかり、1563万2000円というプライスだった。ちなみに、現在のポルシェのラインナップの中では、実はマカンが一番安い。これまでエントリーモデルといえばボクスター(現・718ボクスター)だったが、一番下のグレードで879万円、718ケイマンでも840万円となかなかにプレミアムなお値段になっている。しかも、どちらの最上位モデルも2000万円を超えるから驚きだ。
マカン GTSはポルシェの高性能グレードである「GTS」を冠しているだけあって、パワーもトルクもかなりアップしている。無印マカンと比べると最大出力が195kW(265PS)、最大トルク400Nmなので、数字だけでもその違いがわかる。
実際に走らせてみると、微妙に走り出しが重たい。もうちょっと鋭く加速してほしいところだが、SUVだしこんなものかなと思っていたのだが、回転数が上がるとあっという間に法定速度に達してしまった。さらにスポーツモードかスポーツ+モードにすると911かと思うくらいの走り出しを実現してくれる。今回は高速道路がメインの試乗コースだったが、調子に乗ってスポーツモードで走っていたらあっという間にガソリンが減ってしまった。標準モードはエコドライブ的なチューニングになっているので、のんびり燃費走行をするならモードを変更する必要はない。


ちなみに、スポーツ+にすると約10mm車高がさがり、サスペンションが硬くなり、エキゾーストは高くなる。運動性能があがり「これぞポルシェ」という走りを体験させてくれる。さらにこの試乗車には「20秒間全開スイッチ」こと「ポルシェ・スポーツレスポンスボタン」が装備されているので、フルブーストのとんでもない加速を楽しめる。スポーツ走行向けのクルマではないのに、こういうオプションを用意しているところが、いかにもポルシェだ。



標準モードだと足周りはしなやか。筆者の近所はトラックが多いので道路が轍だらけなのだが、上品にいなしてくれる(もちろん突き上げはある程度あるが)。




街中や山道では軽快に
高速道路では安定感バツグンに
ステアリングは街中だと回しやすいが、高速道路で速度が乗ってくるとズシっと重くなる。そう、高速での急ハンドル防止になっているのだ。車体の大きなクルマは、高速走行中に急ハンドルを切ると吹っ飛んでしまう危険性があるので、それをあらかじめステアリングの重さで教えてくれるのは心強い。途中で一部山の中を走ったが、2トン近い車重をものともせずに、右に左に軽やかにコーナリングできたのは、ポルシェスタビリティマネジメント(PSM)やポルシェアダプティブサスペンションマネジメント(PASM)といった足周りの設定と、このステアリングのおかげだろう。






ボディーサイズは、日頃コンパクトカーに乗っている筆者だと大きく感じたが、SUVやミニバンなどの大きなクルマに乗り慣れている人なら、問題ないだろう。全幅が1900mmを超えているのでそれなりに気を使うかもしれないが。車内はカイエンほどではないがそこそこ広く、足下にもゆとりはある。荷室も488リットルなので、モノが乗らないという心配はない。





【まとめ】SUVの皮を被った911
普段は穏やかに、踏み込めばまさにポルシェ
外見はまさにSUVなのだが、乗ってみるとポルシェのスポーツカー。それがコンパクトSUVの「マカン GTS」だった。他のグレードに乗ったことがないので比較できないのは残念だが、今後は取り上げていく予定だ。



マカンは2014年の市場投入以来、マイナーアップデートは2回あったが、フルモデルチェンジは一度もなく、さらに718とあわせて電動化される予定だ。ガソリン車のマカンはこれで終了かもしれないので、興味がある人は試乗してほしい。
ポルシェというと高級車というイメージで、実際高級車なのだが、マカンの値付けはとても絶妙だ。普通の会社員でも頑張れば手が届きそうな値段(791万円)は、「俺もポルシェオーナーになれるかも」と、クルマ好きの琴線を刺激してくれる。しかも、その運動性能と人もモノも乗る使い勝手はお値段以上と感じた。SUVにはほとんど興味なかった筆者だったが、もっと乗りたくて返すのをためらったクルマも珍しい。




「SUVなんてポルシェじゃない」なんて視野の狭いこと言っててすいませんでしたーッ! 「SUVもポルシェ」を実感させてくれたマカンに感謝したい。これからは心を入れ替えてSUVも試乗します!
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