気体の次は液体水素!
クルマの未来を見据えてあらゆる可能性を模索する
2021年に気体水素燃料でスーパー耐久シリーズに参戦を始めた「ORC ROOKIE Racing」が、2023年の富士24時間レースでは液体水素を燃料とした」ORC ROOKIE GR Corolla H2 concept」でチャレンジした。同じ水素燃料を使用しているのだから、言葉からはそれほどの差を感じないが、実はまったくの別物。世界中の車メーカーがチャレンジしても、市販車でさえ一例の成功も見ていない技術なのだ。
それをレースカーで実現させたORC ROOKIE Racing、は唯一無二のレーシングチームと言えるだろう。そんな富士24時間レースの裏側を紹介する。

ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptが走る舞台となったのは富士スピードウェイ。「ENEOS スーパー耐久シリーズ第2戦 NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レース」だ。ただし、そこに行き着くまでにも大きな代償を払っている。と言うのも今年3月5日のテスト走行で車両が燃えてしまい、イチから作り直す必要があったのだ。そのためシリーズ第1戦と富士テストは、ガソリン車のGR yarisでの出場となってしまった。
その後に関して、チーム監督の石浦宏明選手は「3月に車両火災となってしまい、新たに作ったこの2号車が完成したのがゴールデンウィーク明けでした。大勢の技術者が2号車を何とか作ってくれたので、少しでもちゃんとした形で24時間レースへ臨むべく2度のテストを行なっています」。


普通のレーシングカーと違うマシンだけに、テストと言ってもその内容は大きく違うようだ。「このレースの1週間前に、ここ富士でレースを模したテストをしています。耐久テストなどの全開走行は問題ないんです。

この時点ではそういったチェックが必要だったのですが、レースウィークに入ってからは通常のレースチームと同じオペレーションで進んでいます。このプロジェクトに関わっている技術者達の情熱や、技術力には本当に感動し感謝ています。あとは、世界初の液体水素燃料を使用したレースマシンを無事完走させるだけです!」と石浦選手。


液体燃料を運ぶポンプの交換に約4時間!
レースカーを2ヵ月弱で作り上げ、24時間レースに間に合わせたことだけでも、並々ならぬ苦労がうかがえた。しかし、レース中にも大変なオペレーションが待っている。ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptを走らせる上で、最大のポイントは燃料ポンプだと言う。マイナス250度を超える液体の中で、燃料を汲み上げ、さらに気化させなければならないのだ。本来なら工場丸々一個分の設備を、直径20cm弱、長さ約1mの中に押し込めたのが使用されている燃料ポンプだ。

このポンプはレース中に2度交換しなければならないとのこと。開発から携わる佐々木雅弘選手は「通常の6時間耐久であれば、ポンプの交換は必要ないレベルです。



しかし、6時間ごとに2度だと18時間しか走れない計算だが。「ポンプの交換に約4時間かかってしまいますので、2度の交換で大丈夫なのです」との事。実際に交換作業を見てみると、10人を超える技術者が4時間休みなく作業していた。そして無事交換が終わると、大きな歓声と拍手が沸き起こったほどだ。
佐々木選手は「まずポンプを交換するには、残った液体水素をタンクから抜かなければなりません。その上でポンプを取り出して交換するのですが、マイナス253度の液体水素を抜くだけでも一苦労なんです。そのうえ、このポンプは信じられないほど複雑な構造なんです。チョットでも設定がずれてしまうと、液体を気化させられなくなってしまうんです。そう言った調整があるので時間もかかってしまうんですよ」と説明する。言われてみてその大変さが初めて伝わる。

いかにレース中のポンプ交換とは言え、あれほど歓喜するものなのかと考えていると佐々木選手は、「実は昨日もポンプ交換したんですが、一度失敗しているんです。ですから、彼らは昨日8時間以上かけてほぼ徹夜で作業しているんです。それもあってあの喜びようなんです」と教えてくれた。


技術者やドライバーたちの情熱と執念が
過酷な富士24時間レースを完走させた
それにしてもポンプ交換の失敗とはどのようなことかと言えば「マイナス253度の液体を内燃機関に送り込むまでに、気化させて霧状にしないと燃えませんよね。その作業もあのポンプの中で行なわれているんです。でも、どの時点で気化させられるのか、コントロールが難しいんです。そのためにエンジンが掛からなかったり、安定したパワーが出せなかったりしているんです。そう言った調整も含め、1回で交換できたことがあの歓声に繋がったのです」。そう、歓声に納得するようなドラマがそこには存在したというわけだ。


そんな技術者やスタッフ、ドライバーの努力でROOKIE RACINGは見事に24時間レースを完走した。その裏には、多くのスタッフ、技術者達の努力が完走を支えていた。とにかく24時間レースを完走させたことで、ORC ROOKIE Racingの目標の1つが達成できた。

■関連サイト
■筆者紹介───折原弘之
1963年1月1日生まれ。埼玉県出身。東京写真学校入学後、オートバイ雑誌「プレイライダー」にアルバイトとして勤務。全日本モトクロス、ロードレースを中心に活動。1983年に「グランプリイラストレイテッド」誌にスタッフフォトグラファーとして参加。同誌の創設者である坪内氏に師事。89年に独立。フリーランスとして、MotoGP、F1GPを撮影。2012年より日本でレース撮影を開始する。

■写真集
3444 片山右京写真集
快速のクロニクル
7人のF1フォトグラファー
■写真展
The Eddge (F1、MotoGP写真展)Canonサロン
Winter Heat (W杯スキー写真展)エスパスタグホイヤー
Emotions(F1写真展)Canonサロン