ASCII.jpの自動車取材でおなじみのゆみちぃ部長こと、アイドルユニット「純情のアフィリア」の寺坂ユミさん。連載開始の頃はペーパードライバーでしたが、今ではクルマの運転はお手のものです。
そこで今回は、今一度運転技術の見直しと、万が一の時の対処方法などを習得すべく、モビリティリゾートもてぎにある「交通教育センターもてぎ」にお邪魔してきました。
◆なぜHondaが安全運転教育をするのか

交通教育センターもてぎは、Hondaが50年以上前から行なっている安全運転教育の一施設。なぜHondaがそういう事をやっているの? というと、我が国の交通事故死者数が年間1万人を超えていた1960年代にさかのぼります。「交通戦争」と呼ばれていた時代に、Hondaは「交通機関を扱っている企業としてどうあるべきか」「バイクを、クルマをつくり、売るだけでよいのか」と、パーソナルモビリティを世の中に提供するメーカーの果たすべき役割を真剣に考えたそうです。
そして安全運転教育というソフトウエアを通じて、交通事故死者の増加に歯止めをかける必要性があるとの結論に達し、1964年、鈴鹿サーキット内に安全運転講習所を開設しました。
ほぼ時を同じくして名神高速道路が開通し、日本のモータリゼーションは新しい時代を迎えようとしていました。そこで中部管区の白バイ隊長は、隊員たちの技術向上の必要性を感じて安全運転講習所に相談。それを受けて1964年10月から白バイ隊への教育もスタートしたのだそうです。翌年からは官公庁に向けた、運転免許保有者向けの安全教育も受け付けるようになりました。
その後、本田技研工業は1970年に安全運転普及本部を発足。全国に交通教育センターを設置して、企業だけでなく個人も含めた、乗り物を運転するすべての人を対象とする安全運転教育を行なうようになりました。

ちなみに、ゆみちぃ部長が以前ペーパードライバー教習を受けた「レインボーモータースクール和光」も、安全運転普及本部と関わりがあるのだとか。Hondaはハードとソフトの両面から、モビリティの安全性向上を目指しているというわけです。実際、この取材した日は、某企業の社員がこちらで安全運転研修を受けていらっしゃいました。
◆安全に危険回避を学べる交通教育センター
今回は「一般道で起こり得る危険を、安全に体験する」ことをテーマにした、クルマの限界を超えた挙動を体験するリスク&セーフティコースを受講することにしました。クルマの限界を超えたというと、ものすごいスピードを出して……と思いがちですが、そういうことはありませんのでご安心ください。
そのほか同施設では、ペーパードライバーに適した車庫入れや車幅感覚の練習に徹したものや、パイロンスラロームなどで運転の習熟度を上げたり運転のクセを見直す中級コースも用意されています。
さらに、シビック TYPE Rオーナー(FK8型、FL5型)に向けた、ヒール&トゥーを含めたコーナーリングの練習のほか、最後にはサーキット走行(先導車あり)もするスポーツドライビングのスペシャルプログラムも! もてぎのコースをマイカーで安全に走る、実に魅力的なプログラムです!

「クルマのスクール」を受講すると聞いたゆみちぃ部長は、以前取材した「ポルシェ・エクスペリエンスセンター」のレッスンを思い出したようです。濡れた路面でドリフトしたり、ニュルブルクリンク北コースの名物コーナー「カルーセル」を再現したアップダウンのあるロードコースを走行するそれは、とても楽しいものでした。
ですが、あちらは「ポルシェのパフォーマンスを安全に体験する」ことを目的としているため、エンターテインメント性が高い反面、マイカーで走ることはできません。一方、交通教育センターもてぎは、日常運転における技術の向上等を目指すもので、カーレンタルはありますが、基本的にはマイカーで受講します。もちろんHonda以外のクルマでもOKなのは言うまでもありません。
目的も違えば時間と料金も大きく異なります。ポルシェ・エクスペリエンスセンターは、マンツーマンの1レッスン90分で、値段は車種にもよりますが、5万円から。

施設にお邪魔すると、普通の自動車教習所ならHonda「グレース」とかが並ぶところ、ここでは先代の「FIT RS」がズラズラリ。そのほか先代の「シビック TYPE R」に名車「S2000」や新旧「NSX」の姿まで! 「これは乗れないんですか?」とゆみちぃ部長。今日はFIT RSでお願いします。



プログラムは朝10時のオリエンテーションから始まって、最初は車両の点検整備や運転姿勢から。まるで教習所の1限目を思い出すのですが、教習所と違うのは「かなり細かく実践的」でいて「丁寧でわかりやすい」というところ。というのも、教習所と違って「危険回避行動をする」から。それが結果的に「万が一の時に、自分の身を守る」こと、極言すれば「命を落とさないこと」につながるのです。この考えがスクール全体を通して徹底しているように感じました。
スクールのメニューは大きくわけて3つ。
内容は40km/hまで加速し一気にフルブレーキする、バイク教習の「急制動」に似たもの。「最初、ペダルからガッガッという振動や音が聞こえて驚きました。知らなかったら緩めちゃいますね」とゆみちぃ部長。「これを一般道で実験するのは危ないですからね。体験できてよかったです」。


続いてスリッパリーコーナリング体験。


最初は「20km/h程度ですか?」と不満げ部長でしたが、これがやってみると相当難しいではありませんか! コントロールできるギリギリの速度でクルマを進めるゆみちぃ部長。体でクルマの状態を感じながら、クルマを走らせていきます。
◆強制的に横滑りさせる装置で体勢の立て直し方を体験


最後は同じような滑りやすい路面でのブレーキと回避方法を学びます。まずはABSのドライ路面との違いを確認します。スーッと滑っていく感じを体験した後、今度は車両が通過した瞬間に左右に動く板によって、クルマが強制的に横滑りする状態から車両をコントロールする技術を学びます。



板を通過すると、水の壁が現れます。これを避けるべく、ブレーキを踏み続けながら、ハンドルを回すのですが、ゆみちぃ部長によると「想像以上にハンドルを素早く回さないと……」とのこと。車庫入れや交差点での左折でもしない限り、普段の運転でハンドルを一回転以上回すことはマレ。

こうして、何度も水に壁にぶつかり、水もしたたるイイクルマになったFIT RSから降りたゆみちぃ部長。その顔は充足感に満ちていました。
◆対処方法を知っているのと知らないのでは大きな差になる
「彼女は飲み込みがはやくて、反応もよいですね。あと思い切りもよいですね」とインストラクター。その声を聞くや、ゆみちぃ部長はドヤ顔に。「ですが、それが自信になるか過信になるかはわかりませんけれど」とピシャリと釘をさします。「今日の経験が万が一の時の対処における引き出しになったと思います」。
安全な場所で、緊急時に回避行動を体験すること、雪道など滑りやすい路面でコントロールを失った時の体験は、彼女にとって大きな糧になったことでしょう。普段クルマを乗り回す同行スタッフたちは「やってみたいなぁ」と心底思いましたし「1万6000円でもしものときに回避できるなら安いよね」と正直思いました。
結構ハードな内容であるにも関わらず、スクールの様子を見て思うのは「楽しく学べる」というところ。インストラクターの指導方法が褒めて伸ばす、という感じを強く受けました。その一方で、クルマは楽しい乗り物だけど、コントロールを失うとあっという間にドライバーに牙をむくことも一貫してお話されているのも印象的でした。
運転支援などの技術向上は目覚ましいものがありますが、運転するのは人間です。当たり前のことですが、運転支援がついているからといって、事故に遭遇しないという保証はないのです。50年に渡って交通教育センターもてぎが伝えてきたのは、命の大切さと命を守る方法なのです。
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寺坂ユミ(てらさかゆみ)プロフィール

1月29日愛知県名古屋市生まれ。趣味は映画鑑賞。志倉千代丸と桃井はるこがプロデュースする学院型ガールズ・ボーカルユニット「純情のアフィリア」に10期生として加入。また「カードファイト!! ヴァンガード」の大規模大会におけるアシスタント「VANGIRLS」としても活躍する。運転免許取得してから上京後は一切運転していないが、最近は自動車にも興味を抱く。こだわりが強く興味を抱くとのめりこむタイプであることから、当連載で、お気に入りの1台を探す予定。