人生を楽しむことに長けた人々が多いお国柄のフランスから、これまた人生に彩りを添えるクルマがやってきました。その名は「ベルランゴ・ロング」。
そんな大人数でのレジャーにピッタリのクルマを、近年「キャンプしてみたい熱」が高まりすぎているアイドルユニット「純情のアフィリア」の寺坂ユミさん(本稿ではASCII.jp自動車部のゆみちぃ部長)とともにチェックしました!
◆フランスのMPVは「乗用遊びグルマ」にピッタリ!
ベルランゴが日本にやってきたのは約3年前のこと。そのライバルは、同郷であるルノーの「カングー」であることは疑いの余地もありません。ちなみに、シトロエンが属するステランティスグループの別ブランド、これまたフランスのプジョーからも「リフター」という兄弟車が発売されており、こちらも日本で発売中。しかも、ベルランゴ・ロングの登場に合わせて、リフター・ロングも上陸を果たしました。どうやらかの地ではMPVが人気のようです。


これらフランスのMPVは日本のミニバンと比較されがちです。その理由はバンという車両形態によるのですが、同じ土俵に並べての単純比較は違うかもと、ASCII.jp自動車部の書記兼撮影係で車両手配担当の部員Kは思います。
というのも、国産ミニバンは「乗用車」として設計されているのに対して、これらのフランス車は「商用車」がベース。つまりトヨタの「タウンエース」と「ノア」を比較するようなものです。それゆえパワースライドドアや快適な2列目シート、痒いところに手が届く装備品の数々は、これらのフランス産MPVに望めません。求めるのであれば、国産ミニバンを買われることをオススメします。
ですが、快適装備は遊び用途では不要になる場合も。
よって、使い勝手のよい遊びのクルマ、いわば「乗用遊びグルマ」を求めようとすると、オシャンなフランス産MPVが一気に輝いてくるのです。

そんな「乗用遊びグルマ」市場ですが、我が国ではルノーのカングーが巨大勢力を作り上げてきました。その勢力は年々拡大し、ルノー・ジャポンは昨年「過去最高益」を記録したとか。そんなカングーに支配された日本人に、シトロエンは新しい選択肢となりうるのでしょうか?
◆国産ミニバンよりコンパクト!? 意外と使いやすいボディーサイズ
ベルランゴは、登場時から2列シート車と3列シート車がラインアップされていたそうですが、3列シート車の日本導入は随分と慎重で3年遅れ。そこにはコロナ禍と、カングー帝国の日本で3列シート(7人乗り)のベルランゴは売れるのか? などの議論があったのでしょう。



標準モデルに対して、全長が365mmも伸長したベルランゴ・ロング。それでも全長は4770mmで、Hondaのステップワゴンよりも短いというから驚き! ちなみに全幅は1850mmで、ステップワゴンと比べると100mm幅広。ですがアイポイントが高いため「幅が広くて運転しづらい」とは感じませんでした。全高は1870mm。いうまでもありませんが、1.55mの立体駐車場への入庫はできません。

中央のシトロエンのマーク「ダブルシェブロン」からサイドに伸びて、LEDヘッドライトへとつながるお顔立ち。



エンジンをチェックしましょう。1.5リッターの直4 DOHC16バルブ ディーゼルターボからは、最高出力130PS/最大トルク30.6kgf・mを発生。8速ATを介して前輪に駆動が伝えられます。最近は燃料費が高騰していますから、軽油のクルマはお財布に優しいですね。
一方「ディーゼルエンジンって、ガラガラうるさいんだよね」というのが懸念材料。ご安心ください。絶対といってもよいほど、「え? これ本当にディーゼル?」と驚くこと間違いナシの静粛性なのです。ゆみちぃ部長はもちろん、取材に同行する部員Sもディーゼルであることを見抜けませんでした。ステランティスのディーゼルユニット、実に恐るべしです。
◆内装はちょっとオシャレな商用車










まずは運転席から。商用車をベースに少しオシャレにしてみました、というのがファーストインプレッション。
メーターパネルは今では古風な指針式。中央に各種インフォメーションが表示できます。その上には水温計と燃料計が置かれているのですが、こちらも指針式。LCDで何でも表示させるという最近のクルマに見慣れた目には、逆にレトロで新鮮に映ります。乗降性は良好でSUV的な印象。ドアは重くて頼もしさを覚えます。




ゆみちぃ部長を驚かせたのが極太のセンターコンソールと、そこに取り付けられたシフトセレクター。蛇腹のフタをあけると、そこにはドリンクホルダーはなく、ただの仕切りだけ。
そして使い勝手の面で賛否が分かれるダイヤル式のシフトモードセレクター。最初は戸惑うこと間違いナシですね、コレ。
◆ドリンクホルダーは多いがサイズが合わないことも




運転席のあちこちにドリンクホルダーがあるのですが、日本で売られているペットボトルのサイズと合わないため、キチンと入りません。「ここに何を入れるんですか?」という彼女の素朴な疑問に、部員Kは「きっとオランジーナを入れるんですよ」と適当に答えます。
ドアポケットは、ドリンクホルダーのかわりに大きなポケットがあります。メーターバイザーの上に収納を設けるのはカングーも同様です。こういった収納は日本車的で使い勝手バツグンです。助手席側にも収納がしっかりあります。





車両に取り付けられていたオプションのカーナビは、本体側にUSB端子を置くタイプ。ここに接続したスマホを放り込んでおく、というわけです。ナビゲーションシステムはApple CarPlayなどに対応していますが、ワイヤレス接続には非対応の様子。画面サイズは公開されていませんが、8インチ程度といえそうです。
また、エアコンダクトの下にスマホを置くスペースが用意されていました。車両に充電用のUSB端子などはありません。ですので、ナビ本体のUSBコネクターが運転席側につけられている唯一の端子となります。あとはアクセサリーソケットに社外品の充電器を取り付けるしかなさそうです。


ルームミラーの上には後席の様子が確認できるミラーが用意されています。室内灯まわりはほかのクルマとあまり変わりはありませんが、SOSボタンはありません。
◆椅子を外すと当連載史上最大の荷室空間が出現!


手動のスライドドアを開けて車内に乗り込む部長。「このドア、めっちゃ重たい……」というように、かなり力を必要とします。特に車内から閉めようとした時、か弱い人の力では片手で閉めることは困難で、両手で掛け声をかけて閉める感じに。こういうとき、外からサポートするのが優しさというものです。



2列目シートは3座独立タイプ。エアコンの風量調整機能が備わっています。


助手席背面にはテーブルがついています。「なんか新幹線みたい」と喜ぶゆみちぃ部長ですが、「テーブルのドリンクホルダー、ただの穴なんですけれど……」と、再びドリンクホルダー問題が発生。どうやらフランスの方は紙コップで飲み物をいただく文化のよう。「この中に水を入れて、峠道をこぼさないように走るんだよ」と茶化す部員S。残念ながら、彼女にこのネタは通じません……。

快適性を求める部長的に、この商用車のノリは合わないと思ったようですが、座ってみるとシトロエンの常でシートは柔らかめ。「シートはいいかも」と思われたようです。驚きは2列目シートを倒すとフラットな床になるところ。「こんなことができるんですか!」と、大きな目を丸くして関心された様子。一方で「リクライニングとかあればいいんですけれど」とも。





驚きは3列目。入るのはちょっと大変ですし、普通に座ると体育座りのような体勢になってしまうのですが、足を投げ出す感じに座れば快適。2列目よりも3列目の方が快適かもしれません。そして前出の2列目シートをたためば、とんでもなく広大で快適な3列目シートとなります。これには、その場にいた誰もが驚き! ですが「なんかコレは落ち着かないですね。戻してください」ということで、普通の3列目に戻りました。
実は本稿の企画意図としては「2列目シートを倒した状態の3列目シートが快適で、ヴェルファイア越えを達成!」だったのですが……。「なんか2列目よりも3列目の方が座り心地がよい気がします。あとドリンクホルダーがありますね。ペットボトル入らないですけれど」とチクリ。「3列目からの眺めがいいですね。って、運転席の頭の上、物入になっているんですね」と、思わぬ発見も。見直してみるとバインダーに挟んだ書類や、ひざ掛けなどをおくのにちょうどよいスペースのようです。



荷室は3列目があるとそれなりという印象。国産ミニバンと変わりはありません。「3列目ってたためないんですか?」と、ゆみちぃ部長。たためますが、国産ミニバンと異なり、前に倒す方式です。「へー!」と感心する部長。


そして……なんと椅子(シート)を外すことができるのです! しかもメッチャ簡単に! その様子をみた部長は「え?」と驚いたまま思考停止。さらに2列目シートを収納したら、過去のASCII.jp自動車取材史上、最強の荷室空間が出現したのです! 自転車はもちろん、バイクだって載せられそうです。
「どうですか!」と、何故かドヤる部員K。「いや、これすごいんですけれど……。ところで取り外した椅子はどうするんですか?」。部長はいつも根本的なことを聞いてきます。「家でゲーミングチェアとか座椅子として使えばいいじゃないですか」という部員Kを、ジト目で見るゆみちぃ部長が印象的でした。
【まとめ】高速道路クルーザー、遠出にピッタリの1台
見た目はクセっぽいベルランゴ・ロング。ですが走らせてみると、実に普通のクルマ。商用車にありがちな「硬さ」というのはなく、シトロエンらしい乗り心地の良さが体験できます。ほかのシトロエンと比べれば、それはシートも足も硬めですが、突き上げ感は少なく、適度に腰から路面のインフォメーションを伝えてくれる走り。この塩梅、さすがシトロエンといったところ。

運転しながら「普通のクルマですね」とゆみちぃ部長。ミニバンサイズのクルマでありながら、小柄な女性が「普通のクルマ」と感じる、つまり運転していて不満を覚えないというのは、大きなメリットだと思いませんか? これはすごいことだと思います。
ですが、部員K的にイチバンすごいと思ったのは、高速道路の安定性。120km/h区間でもピタッとしており、車内は快適そのもの。さすが欧州車だと思わずにはいられません。それにパワーも十分で、追い越し車線で一気に加速。振動も少なく「これ、本当にディーゼルなのか?」と驚かされます。
クルマにBBQセットやキャンプ用品を詰め込んで、仲間や家族と一緒に長距離ドライブといった用途にピッタリ! 取材を忘れて車内はピクニック気分です。


取材日は好天でまさにピクニック日和。ですが、女性のお肌の天敵である日差しが強い日でもあります。そんな日焼けを気にされる部長にとって、プライバシーシェードはありがたい装備。こころなしか室温も下がったようです。
ガソリン車と変わらないエンジンフィール、と言いたいところですが、唯一気になったのは、10km/h以下の低速域において滑らかさに欠けるというところくらい。それはミッションとの兼ね合いもあるのでしょう。信号待ちからの発進や渋滞の時に気づいてしまいましたが、それとて重箱の隅をつつくような話です。

ちなみに気になる燃費は、試乗取材時においてはリッターあたり16km程度。悪い数字ではありません。ただ渋滞時はリッター10kmを下回る時があり、そこは車重などを考えると仕方ないかなとも。
国産ミニバンに比べると、荒削りの部分があるのは確か。ですがキャンプ用品や自転車など載せるといったレジャー目的に、ベルランゴ・ロングは適応範囲が広く、実に良いクルマだと思った次第。なるほど、遊びに長けたフランスらしい“乗用遊びグルマ”だと思いました。もちろん仕事グルマとしても最適なのはいうまでもありません。
個性的な見た目も、だんだん頼もしくみえてくるようになりました。「いいじゃんベルランゴ!」部員たちは納得です。ですが最後に、ゆみちぃ部長は「ドリンクホルダーがねぇ……」とチクリ。たしかに、ここは直してほしいですね。
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寺坂ユミ(てらさかゆみ)プロフィール

1月29日愛知県名古屋市生まれ。趣味は映画鑑賞。志倉千代丸と桃井はるこがプロデュースする学院型ガールズ・ボーカルユニット「純情のアフィリア」に10期生として加入。また「カードファイト!! ヴァンガード」の大規模大会におけるアシスタント「VANGIRLS」としても活躍する。運転免許取得してから上京後は一切運転していないが、最近は自動車にも興味を抱く。こだわりが強く興味を抱くとのめりこむタイプであることから、当連載で、お気に入りの1台を探す予定。