「満を持して登場」とはまさにこのこと。テラノ、ミストラルと続く日産の本格SUV「エクストレイル」が2022年にフルモデルチェンジしたとのことで、最新モデルで1泊2日過ごしてみました。
◆あえて激戦区に挑むエクストレイル
猫も杓子もSUVの昨今。それは日本だけに留まらず世界規模でのできごと。それゆえ「並みのSUV」では誰も見向きもしません。そのレッドオーシャンに、技術の日産は3本の柱をエクストレイルに詰め込みました。

1本目の柱はe-POWER。先代エクストレイルは、ガソリンエンジン車とハイブリッド車の2本立てでしたが、今回はe-POWERのみという思い切った設定。e-POWERは、エンジンが発電した電気でモーターを駆動するシリーズハイブリッド。2016年登場の先代ノートe-POWERから始まった日産のコアとなる技術ですが、本格オフローダーに搭載するのは今回が初めてのこと。なんと、「アリア」に搭載するモーターよりも高トルクのモーターを搭載しているのだそうです。

高トルクモーターを搭載するということは、当然、より大きな電力が必要になります。そこで2本目の柱として、新型のエンジンを開発。従来の1.2L 直3自然吸気を改め、1.5L 直3ターボへと変更。しかも、世界で初めてとなる可変圧縮比エンジン「VCターボ」というから驚き! ちなみに圧縮比とは簡単に説明すると、高ければ高いほど燃費や出力が向上しますが、ハイオク専用になったり故障の原因になったりといったデメリットもあります。
圧縮比可変は、圧縮比を8:1から14:1の間で無段階に自在に変更し、アクセル操作に対して常に最適な圧縮比にしてくれる技術。ですが「発電するためにそんな物がいるのか?」という疑問が沸くことでしょう。日産によると、停止状態の発電機を回す時に必要となる大トルク時は、圧縮比を下げることで、エンジンをガン回しすることなく駆動することができ、高速道路など常に発電する必要に迫られる時は、圧縮比を高くして燃費を稼ぐのだとか。
思えばe-POWERは、加速とエンジン音が一致しない時、つまり不自然さがありました。ついにそれを克服した、というわけです。


3本目の柱がe-4ORCE。前後2基のモーターとブレーキを統合制御することで、駆動力を自在にコントロールするというものです。悪路も走れる4WDとして、この技術はとても重要だったりします。センターコンソールにあるドライブモードセレクターで、AUTO、ECO、SPORT、SNOW、OFF-ROADと、動作モードを切り替えます。それにしてもe-4ORCE、プロパイロット、e-POWERというネーミングをつける日産のセンスには毎回脱帽させられます。
◆大迫力のグリルが特徴のエクステリアと
オーソドックスでシンプルなインテリア




LEDヘッドライトと大きなフロントグリルが目を惹くエクステリア。SUVらしくホイールアーチが設けられ、たくましさを演出しています。いわゆる都市型SUVと言われる、バックドアをスラントさせずにクロスカントリーのようなコンサバスタイル。








エクストレイルの室内は、オーソドックスかつシンプルで飽きのこないデザイン。タンレザーの色合いに黒の木目調パネルのコントラストで、落ち着いたオトナの空間を演出しています。




ノート/オーラでみられる、センターコンソールを上に持ち上げて二階建てとして、コクピット感を演出しています。ややD型のステアリングホイールに目を移すと、右手親指一番地に日産自慢のプロパイロットボタンが。ボタン1つでアダプティブクルーズとハンドル支援の両方が動くのは、とても使いやすくてイイ!



センターコンソールに目を落とすとシフトモードセレクターはプレイスティック式で、こちらもノート/オーラから採用されている四角いタイプのものに。住宅地で夜間車庫入れや出庫する際にご近所迷惑になりづらいEVモードも備えており、このあたりに「すべての駆動を電気で行なう」クルマらしさを覚えます
◆iPhoneもAndroidも使える利便性










ナビシステムはスマホライクで、大変使いやすいもの。音声認識はちょっと怪しいところはありましたが、5年前とは隔絶たる差を感じさせました。USBはTYPE-AとTYPE-Cの2系統を用意。Apple CarPlayやAndroid Autoに対応しています。うれしいのは最大2台のスマホと車両が接続できるところ。Wi-Fi設定画面やデザリング設定もでき、もはやタブレットと言っても過言ではありません。


ASCII.jpらしく、スマホまわりを見てみましょう。

フルLCDのメーターパネルはマップ表示が可能。縮尺変更はできないようで、ちょっと使い勝手には難アリ。ですが「やっと日本車でも同様のシステムが登場したか」とうれしくなります。
◆リクライニングする後席と広い荷室の使い勝手の良さ



天井面に目を向ければ、イマドキ装備をしっかり用意。サングラスケースも用意されています。最近はサンルーフ人気が復活しているようで、エクストレイルにもキチンと用意されていました。








ラージサイズなだけあって、後席は広々としていて快適そのもの。シートヒーターにUSB、エアコン送風口にプライバシーシェードに後席リクライニングと、装備も充実で文句の「も」の字でも言おうものなら、それはバチがあたるというものです。
ちなみに、リクライニング機構は8段階で、運転席側と助手席側で個別設定が可能です。さらに言えば、この価格帯でシートを前後に動かすことができるのは、エクストレイルだけ! 圧倒的じゃないか日産は!



バックドアを開けてみることに。少しスラントしている形状のためでしょうか、思ったより壁が近くても開けられそうな感じです。








さすがラージサイズSUVと思わせるのが、荷室の広さ。まずこの荷室で文句を言う人はいないでしょう。素晴らしいのは、AC100Vのアウトレットが用意されているというところ。車両の電源が入っていれば、ある程度の時間は給電ができますし、電力が足りなくなると自動的にエンジンがかかり発電するようです。
◆慣れるとラクチンなワンペダル操作
まず走らせて思うのは「かなり操舵感軽い」ということ。それはパワステだからでしょ、という話ではなく、クルマの動きそのものがライトウェイトのクルマなのか? と思えるほど軽やかなのです。見た目は重厚な雰囲気ですから、そのギャップにまず驚きました。

そして、どこかフワフワして地面の上を滑っているような、微振動は吸収しているのだけれども、大きな振動は結構伝えているタイヤフィーリング。タイヤを見るとハンコックとあり、その影響なのかはわからないのですが、これもまたクルマの見た目とは違う印象を受けました。
ですので、ハンドリングを楽しむというより、移動の時間を快適に過ごすことに振っているという印象です。とにかく静かなことに驚きます。コールドスタート時は、エンジンを温めようと一生懸命回しますが、温まってきたらかなり静か。
では、走りは楽しめないのかというと、そんなことはなく。以前のe-POWERは、高速道路や峠道など高負荷時は、エンジンから「頑張っている」音が聞こえたのですが、今回はそれがとても少ない! さらに言うと、アクセル開度とエンジン音が比例する生理的心地よさが得られるのです。何よりトルクがあるので、とにかくラク。これにワンペダル動作(e-Pedal)が加わると、もう実に快適なワインディングが楽しめるのです。

e-POWERは高負荷が続く高速道路を走行すると燃費が悪い傾向が出てくる、というのが通説なのですが、120km/h区間を含めて高速道路で走らせてもリッターあたり17kmを記録。街乗りも同じような燃費なので、「同クラスのガソリン車よりは燃費がよい」といえそうです。

一方、長時間走行で気になったのがシート。これは体格によるのですが、大柄(185cm)な筆者の場合、サイドの縫い目が太ももに当たり、2時間位座っていると痒くなりました。小柄な方なら当たらないと思います。

気に入りましたので、一緒に一晩過ごすことにしました。いわゆる車中泊です。

素晴らしいのはAC100Vがあるので、車内であぐらをかいた状態でノートPCでの作業ができたこと! エンジンをかけずにACCだけで、かなりの時間PCを動かすことができましたし、クルマのバッテリーが減ると、エンジンが自動的に回って発電するようです。テレワークやワーケーション、車中泊という言葉が一般化して久しいですが、そういった用途を考えていらっしゃる方に、エクストレイルは見事に応えるクルマといえます。

レッドオーシャンのSUV市場において、エクストレイルは確かにほかにはない魅力を数多く兼ね備えた1台でしょう。
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