テスラが独自に展開する充電ネットワーク「スーパーチャージャー」の国内設置が100ヵ所を達成しました。
◆テスラ独自の「スーパーチャージャー」の特徴
テスラが独自に世界に展開するEV用の充電設備が「スーパーチャージャー」です。最近では「NACS(North American Charging Standard:北米充電規格)」と呼ばれます。アメリカにおいては、日産も利用することを表明して話題となりました。
この独自の充電設備「スーパーチャージャー」が日本で最初に設置されたのは、2014年9月の東京の六本木においてでした。それから9年を過ぎた2023年の暮れ、ついに日本の記念すべき100ヵ所目となる「スーパーチャージャー東名川崎」ができました。場所は、東名高速道路の川崎ICを出た、ほぼ正面という好立地。ここに最高出力250kWの充電気が3基設置されています。
この「スーパーチャージャー東名川崎」は、1年半ほど前にサービスセンターとしてオープンしていた場所です。そこに充電器が設置された格好になります。東名川崎に設置されたのは「バージョン3」と呼ばれる最新機器で、過去の125kWより2倍の250kWもの高出力を誇ります。ちなみに日本の標準的なチャデモの急速充電気の出力は50kWですから、スーパーチャージャーは、チャデモの5倍もの出力を持っているのです。
そのため、大容量の電池を搭載するテスラ車でも、ほぼ20分もあれば80%までの充電が可能とか。
充電器は3基しかありませんが、充電器の利用状況の情報が常に周辺のテスラ車に通信されており、“充電に来たけれど、予想外に混んでていて待つ”ようなことがないようにテスラ車のナビが案内するそうです。また、充電が終わったあとにクルマを放置すると、充電していなくても1分あたり100円の超過料金を徴収することで、無駄な充電器の占有を防いでいます。
実際に、取材で「スーパーチャージャー東名川崎」を訪れたところ、ちょくちょく充電に訪れるテスラ車を見かけましたが、充電待ちをする車両はありませんでした。うまく、充電の交通整理がなされているようです。
◆新モデル3は精悍な顔つきになり
インテリアと操作はよりシンプルに
そんな「スーパーチャージャー東名川崎」から試乗をスタートしたのが、新しくなった「モデル3」です。テスラの主力セダンである「モデル3」は、昨年9月にマイナーチェンジを実施して、2023年12月より日本での納車を開始しています。
マイナーチェンジにおける変更点は、エクステリアからインテリア、そしてユーザーインターフェイスにパフォーマンスまで、多岐にわたります。
エクステリアは前後のライト周りが一新されました。フロントのヘッドライトは、ウイングシェイプヘッドライトと呼ばれるシャープなものに。この変更で、フロントはよりワイドに見えるようになり、ライトの光はより遠くに、より幅広くとどくことになりました。リヤのライトはワンピース型となり、シャープな「C」字型を形どります。
インテリアは、よりシンプルに。なんとウインカーレバーとシフトノブがなくなっています。ウインカーはステアリングのスイッチに、シフト操作は15.4インチのセンターディスプレイで行なうことに変更されたのです。
また、インパネからドアまで、ぐるりと室内を囲むインテリアのラインにはアンビエントライトが設置されました。窓はすべて2層アコースティックガラスを採用。静粛性がアップしています。シートのデザインが変わってサポート性がアップ。シートヒーターだけでなく、フロントベンチレーション機能も追加されています。
室内の音響はスピーカーを増強。スタンダードなRWD(後輪駆動)モデルで2つを追加する9スピーカーに、上位モデルのロングレンジAWDでは2スピーカーと1つのサブウーファーをプラスした17のスピーカーにデュアルアンプというシステムになっています。
後席には、8インチのタッチスクリーンが追加されました。これでシートヒーターとエアコン、音楽やビデオストリーミングなどが後席でも操作可能となります。
◆パワフルかつ、シャキッとした走行フィーリング
試乗での、最初の驚きは操作系です。もともと「モデル3」はスタートボタンもパーキングボタンもありませんでしたが、今度のマイナーチェンジで、シフトとウインカーのレバーさえもなくなってしまいました。
動き出すには、ディスプレイの右端にあるフェーダーを「P」から、前向きの矢印に操作させる必要があります。これは初見では、なかなか対応が難しいはず。ある意味、テスラ車の特別感がさらに高まりました。
ちなみに走行中の現在のシフト・ポジションは、ルーフ前方に表示されています。いざというときはルーフを見上げましょう。ウインカーの操作は、ステアリングスイッチ。これは、すぐに慣れるはずです。
走り出して感じるのは、シャキッとした走行フィーリングです。操作に対してクルマが、素直に、そしてダイレクトに反応します。
高速道路でのダッシュは俊敏です。試乗は上位グレードのロングレンジAWD。システムの最高出力は331kW(馬力換算で約450馬力)、最大トルク559Nmもあります。これは、エンジン車でいえば3リッターV6ツインターボを積む「フェアレディZ」の405馬力よりも上。本気のスポーツカーよりもパワフルで、0-100km/hは4.4秒という、とんでもないスペックを備えています。ただし、のんびりと走れば、あくまでもフィーリングはセダンそのもの。心を湧き立たせるようなものではないことをお伝えいたします。
そして航続距離は1モーターのRWDで、旧型より8kmアップの573km(WLTCモード)。
EVというだけでなく、“テスラらしさ”が魅力
新しくなった「モデル3」を乗ってみて思ったのは、やはり最大の魅力は「テスラらしさ」であったという点です。「テスラらしさ」とは、言ってしまえば「従来のクルマとは違う」というところです。
テスラ車に乗って最初に誰もが驚くのが、走り出すまでの手順の少なさです。スタートボタンもなければ、パーキングブレーキのボタンもありません。そうした斬新さが、改良によって、さらに進んでいるのです。シフト操作まで、ディスプレイで行なうというのは、個人的にはかなり抵抗感がありました。しかし、このチャレンジングな手法を選ぶところこそが“テスラらしさ”ではないかと思います。
そして、その一方で、目立たないけれど、走り曲がる止まるという、クルマ本来の性能的な部分の磨き上げも続いていました。ミッドサイズセダンで331kW(約450馬力)/559Nmものパワーを受け止めるシャシーに仕上げるのは並大抵のことではありません。こうした「テスラらしさ」があるからこそ、テスラは2023年に年間180万台ものグローバル生産を達成したのでしょう。
■関連サイト
筆者紹介:鈴木ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。