2023年、約11年ぶりに復活したマツダのロータリーエンジンを搭載する「MX-30 Rotary-EV」。「8C」と呼ばれる新開発のシングルローターエンジンを発電に徹するPHEVは、どのような走りを魅せてくれるのでしょうか? マツダ党員のモデル兼タレントの新 唯( あらた・ゆい)さんと試乗してきました。
◆燃費に難ありだったロータリーエンジンが
発電用のエコカー用エンジンとして復活

マツダによると、MXという名は「その時代ごとの自動車の常識に囚われることなく、新しい価値の創造と提供に挑戦したモデル」に与えられるのだそう。記憶を遡るとMX-5(初代ロードスターの北米仕様)やハッチバッククーペのMX-3(ユーノス・プレッソ)、スペシャリティカーのMX-6(同じプラットフォームを利用したクルマに、2代目フォード・プローブがある)などが思い出されます。
1990年代から2000年代前半に誕生したこれらのクルマは、確かに「新しい価値の創造と提供に挑戦したモデル」でした。
2020年代におけるクルマの「新しい価値の創造と提供」はズバリ電動化。MX-30は、マイルドハイブリッド車のほか、BEV(バッテリーEV)、そして今回ご紹介するPHEVの3モデルをラインアップしました。技術面のみならず、車両の価値の面でも新しい価値の創造と提供に挑戦。「わたしらしく生きる」という、今までのマツダでは聞きなれないグランドコンセプトを提案。「ちょっとぜいたくなパーソナルモビリティ」に仕上げてきました。

筆者は、MX-30を触れるたびに「このクルマ、ホントに居心地がよい」と感心するとともに、マツダのSUVで買うならコレ一択という気分であることを正直に告白します。背伸びをしない「身の丈にあった心地良さ」で、たとえるなら晩酌で飲むビールが「サッポロ黒ラベル」から「赤星」に変えたような感覚。「ちょっとだけぜいたくなんだけど、毎日飲むのにちょうどよい」そんなクルマなのです。
ですが、世間はMX-30が提供する「新しい価値」を受け入れられていないというのが実情のようで、街でMX-30を見かけることはほとんどありません。唯さんも「ディーラーで見たことがある」というくらいの認識だったりします。
◆観音開きのドアは好みがわかれるが
使い勝手は良好



ボディーサイズは全長4395×全幅1795×全高1565mm。ホイールベースは2655mmで、車重は1780kgが公表値。全体的に柔らかで優しい印象を抱くデザインで、唯さんは「マツダっぽくない」という印象を抱かれたようですが、「コレはコレでいいと思います」とのこと。ここら辺は好みの話。

そして賛否両論を巻き起こす、このクルマの「新しい価値」のひとつが、観音開きの「フリースタイルドア」。その機構を始めてみた唯さんは「なんですかコレ?」と驚きの表情を隠しません。そして「これ、後ろの人がドアを開けるの、大変じゃないですか?」と正直な感想を漏らします。



実際に乗車してみると「後席はコンパクトカーくらいの広さはありますが、閉塞感が強いですね」とも。また、USB充電ポートの類もなく。これに関しては、開発陣の誰もが「言われなくてもわかっている」というほどに十分に理解しており、マツダとしては「普通のクルマが欲しい方は、兄弟車のCX-30をどうぞ」なのでしょう。


ですが、次第に1人でクルマに乗る場合は、普通のドアよりフリースタイルドアの方が使い勝手が各段に良いことに気づきます。というのも、軽ハイトワゴンのスライドドアに似て、「いちいち後席ドア側に移動せずに、後席の荷物の出し入れができる」から。




◆コンパクトSUVだけど荷室の容量は文句ナシ
荷室の容積はBOSEのカーオーディオ装着車で332リットル、装着なしで350リットルと必要にして十分な容積が確保されています。リアハッチはパワーゲート(自動開閉)にも対応しており、装備面でも文句ナシ。とにかくコンパクトSUVで、この容積は立派です。


また、MX-30 Rotary-EVのみ、AC100Vコンセントを用意しています。キャンプや被災時に家電が使えるって、大きなメリットですね。





MX-30の運転席はカジュアルリビングといった風情。コルクの加飾が優しい印象を与えます。「マツダって国産車の中で、いちばんインテリアのセンスがいいと思うんですよ」というように、ハイセンスながら嫌味がないところが◎。



◆3種類のモードをシーンに合わせて切り替えて走れる
機能面での特徴はハイブリッドの切り替えが用意されていること。EV、オート、チャージの3種類。普段はオートでよいでしょう。

USBはType-A。イマドキのクルマでしたらPD20WくらいのUSB Type-Cにしてほしかったのが正直なところ。ただ、車内運転席側にもAC100Vが用意されているのは、車内で仕事をする人間にとってうれしい限り。



Apple CarPlayやAndroid Autoも対応可能ですが、ディスプレイがタッチパネル式ではないため、ジョグダイヤルをグルグルしながらアイコン選択をするのは、ちょっと使いづらいかも……。この点は他のマツダ車も同様です。



ボンネットを開けると、シングルローターの8Cエンジンが姿を現します。ユニットそのものはとても小さく、補器類の方が容積をとっているのでは? と思うほど。このエンジンに関しては別記事をご覧いただければと思います(新型ロータリーエンジンを組み立てる匠は3名! 工場のデジタル化と職人の合わせ技で完成する)。


動作はシリーズハイブリッドで、駆動は100%電気。エンジンはバッテリー残量等に応じて、発電のため適宜動きます。
◆ロータリーエンジンの音は大きいが
高速走行だと気にならない

走行モードをAUTOにセットして試乗開始。「コンパクトで運転しやすいですね。乗り心地もよいと思います」というのが唯さんのファーストインプレッション。充電量があれば、エンジンが動くことはほぼなく、事実上電気自動車そのもの。「静かで滑らか。街乗りにピッタリのクルマだと思います」というように、電気自動車のよいところを前面に押し出したようなクルマです。
「回生ブレーキの動きも違和感が少ないように思います」というように、大変よくしつけられているクルマで、ガソリンエンジン車から乗り換えても、アクセルワークで不満は少ないかも。
気になる8Cロータリーエンジンですが、バッテリー残量が半分近くある状態なら、ほとんど動くことはない様子。チャージモードを選び強引に動かすと、排気量1.5リットルのエンジンと比べて大きな音が車内に聞こえてきますし、振動も伝わってきます。
「ロータリーだから滑らかな……」というのは、2ローターだから得られる話で、大排気量シングルローターは、いわば400㏄の単気筒バイクに似たようなもの。

高速道路に乗ると、ロードノイズなどにより、動いているかどうかは判別しづらくなってきます。合流や追い越しの加速力は必要にして十分ですが、MX-30 EVほどの鋭さがあるかというと、そこまではない様子。ちなみに、スピードリミッターが135km/hでかかる点はMX-30 EVと同じです。


渋滞時に運転支援を使ってみました。その動きはなかなか上々です。ただ、車線監視をしてえるのかどうかが、ちょっとわかりづらい……。アイコンが小さい上に、色も白ですから、ちょっと見づらいのです。
試乗後、唯さんに尋ねてみると「普通にいいクルマでした」と語ります。それはEVだから、ロータリーだから、というエクスキューズが一切なく「普通のクルマとして扱える」ということ。

遠出がメインの方はマイルドハイブリッド、通勤など毎日の近距離移動に使われる方にBEV、時々遠出をする方にPHEV。MX-30の「わたしらしく生きる」コンセプトは、自分の生活スタイルに合った3つのドライブトレインを用意することで完成したように思います。あとは使い手次第。ロータリーに注目が集まるクルマですが、いやいや本質はそこじゃないんですよ。とはいえ、ロータリーは気になりますよね。特に燃費が……。

最後に燃費をご紹介しましょう。燃費はリッターあたり15km弱を記録。これは走り方によって変わるので参考までにとどめてもらいたいのですが、とはいえ同クラスのハイブリッド車と比べるとあまり良くはありません。

基本的には充電がメインで、航続距離を稼ぎたいときにガソリンを使うという走り方がベストなのかなと思った次第です。

ロータリーエンジンを現代に適した形で復活させたマツダの意地を見たMX-30 Rotary-EV。「わたしらしく生きる」というコンセプトは、マツダらしく生きる、というステートメントでもある気がしました。
■関連サイト
モデル紹介――新 唯(あらた ゆい)

10月5日栃木県生まれ。ファッションモデルとしての活動のほか、マルチタレントを目指し演技を勉強中。また2022年はSUPER GTに参戦するModulo NAKAJIMA RACINGのレースクイーン「2022 Moduloスマイル」として、グリッドに華を添えた。