うれしさから物足りないに変わったデビュー戦
SUPER GTでおなじみのグッドスマイルレーシングが、片岡龍也選手率いるTKRIとタッグを組み、女性ドライバーだけで争われるシリーズ「KYOJO CUP」の2024年シーズンに参戦することとなった(初音ミクレーシングプロジェクトがKYOJOで新規チームを立ち上げドライバーを募集!)。
ドライバーは厳しいオーディションを勝ち抜いた岡本悠希選手。だが、5月12日の開幕戦は、うれしさあり物足りなさありの26位でレースを終えた。

レース経験はナシ! だがやる気は人一倍アリ!
昨年秋にプロジェクト発足が発表された、グッドスマイルレーシングのKYOJO CUP挑戦。ドライバーは公募でシーズンオフにドライバーオーディションが実施された。多数の候補者の中から岡本悠希が参戦ドライバーに選ばれたのである。つい最近、モータースポーツを始めたばかりということで、レース経験はほとんどない岡本。ただ、やる気だけは人一倍あるのが取り柄だ。

「友人から“女子ドライバーだけのレースがあるけど、出てみたら?”と勧められたのが、KYOJO CUPを知ったきっかけでした。私自身、モータースポーツを始めたばかりで、レースはまだ無理! と思っていたのですが、片岡さんがオーディションを開催するのを聞いた時に、これは応募するしかない! と、すぐに応募しました」(岡本)

見事、書類選考と実車を使った選考に合格し、KYOJO CUP参戦のチャンスを掴んだ岡本。とはいえ、すぐに上位に食い込めるほど甘いカテゴリーでないのが、今のKYOJO CUPだ。
日本人初のル・マン24時間レース総合優勝を果たした、元レーシングドライバーの関谷正徳氏が2017年に立ち上げたKYOJO CUP。女性ドライバー同士で競い合い、活躍できる場所を作りたいという想いからシリーズがスタートし、昨年は20台を超えるエントリーがあり、毎回手に汗握るバトルが繰り広げられている。

歴代でも激戦区になる今年のKYOJO CUP
テストから厳しい現実を突きつけられた
今年の開幕戦は過去最多の28台がエントリー。予選でのラップタイムを見ても、前年をはるかに上回るアベレージで、今までは2分01秒台を切ることができればトップ10圏内に入れたが、今回は2分01秒台の先頭が16番手と、非常にハイレベルな戦いとなった。

そんなシリーズに初めて参戦する岡本。レース経験はもちろんのこと、参戦車両である「VITA-01」も今年から初めて乗るということで、4月に行われた合同テストでは、トップから8秒差でほぼ最下位という状況だった。
「やっぱりみんな速いなと思いましたし、それだけタイム差があると周回遅れにされるかもしれない……でも、周回遅れはさすがに恥ずかしいから、とにかく速くなりたい! と思いました」(岡本)
覚えなければいけないこともたくさんあり、早くも様々な壁が立ちはだかったが、持ち前の笑顔とポジティブな性格で一歩ずつ成長し、開幕戦のレースウィークを迎えた。

KYOJO CUPは、富士チャンピオンレースで開催される「FCR-VITA」というレースと併催されることが多く、たくさんのKYOJOドライバーが走る機会を増やすためにダブルエントリーしている。岡本も例に漏れずFCRーVITAにエントリーした。結果は予選では42台中42位と最後尾からのスタートとなるも、決勝では上位の脱落等もあり、38位でゴール。
無事にレースを完走できた開放感からか、マシンを降りると飛び跳ねるように喜び、迎えにいった荒井つかさチームアンバサダーと合流。結果はひとまず置いておいて、本人としては満足感いっぱいなレースデビューとなった。
試行錯誤しながらタイムを縮めていく
一夜明けた5月12日、いよいよKYOJO CUPのレース日を迎えた。このシリーズはワンデー開催ということで、早朝に予選を行い、お昼に決勝レースが実施される流れとなる。岡本もほかの車両に混ざってコースイン。


すると、計測1周目から前日のFCR-VITA予選でのベストタイム「2分05秒770」に迫る「2分05秒845」を記録。さらに周回を重ねるごとにタイムを縮めていき、最終的に自己ベストを更新する「2分03秒974」をマーク。28台中26位につけた。トップとの差はは5.2秒を大きな開きはあるものの、合同テストから練習走行があまりできないなかで、成長を遂げた走りをみせた。

「金曜日の練習走行で2分04秒台を出していたのですが、昨日はなぜか2分05秒台でした。今日は2分03秒台に入ることができました。あのラップはすごくリズム良く走れているなという感じがあって、最終コーナーを立ち上がってから、(2分03秒台が)出ろ! 出ろ! と必死になって、頭を引っ込めて空気抵抗を少しでも減らすようにしました(笑)」
予選後、TKRI with GOODSMILE RACINGのピットは、まるでポールポジションを獲ったかのような騒ぎとなり、応援に駆けつけた個人スポンサーやファン、さらに家族友人らと満面の笑みで記念撮影していた。「家族や友達もみんな応援に来てくれて、自己ベストを更新できたというだけだったんですけど、うれしかったです!」と岡本。確実に勢いがついているという雰囲気が漂っていた。
KYOJO CUPの決勝レースは甘くはなかった
28台中26位のままゴール
歓喜の予選から約3時間後に迎えた決勝レース。スタート前のグリッドには岡本を応援する人で溢れかえった。KYOJO CUPはスタンディングスタート方式(停止状態からの発進)で周回数は12周。グランドスタンドにはSUPER GTでもおなじみのグッドルマイルレーシング大型応援フラッグ隊が登場し、大きな注目を集める中でスタートした。


直後のTGRコーナーでは前方でスピンを喫する車両が発生し、後方集団は混乱気味となったが、岡本は冷静にアクシデントを回避し、26番手をキープして1周目を終える。そこから前の集団に食らいつこうとするも、なかなか安定したタイムを刻むことができず、中盤は2分06秒台を推移することとなった。前を走るライバルとの差も徐々に広がっていく。

しかし、レース後にマシンを降りた岡本は、飛び跳ねるような喜びを見せることはなかった。
「昨日のFCR-VITAは完全にデビュー戦だったので、完走できただけでうれしかったんですけど、実質的に2回目のレースとなったKYOJO CUPでは完走だけでは物足りないというか……、ひとつでも前に行きたいという気持ちが出てきました」

「予選はリズム良くいけましたけど、決勝になると周りにクルマがいて、そっちに気を取られてしまいました。今はコーナーを曲がることに全集中しないとうまくいかないので、なかなかうまくいかなかったです。あとは(前のクルマと接触しそうで)こわくて引いてしまうところもありました。次はちゃんと勝負ができるように練習がんばって、次は自己ベストのペースでずっと走れるようなレースをしたいです!」
少し悔しさも残るKYOJO CUPデビュー戦となったようだが、個人スポンサーやファンの声援は力になったとのこと。「メインストレートで私が通るたびに旗を振ってくれるのが見えましたし、コースサイドで手を振ってくれる人もいました。めちゃくちゃ力になりました!」と語っていた。

チームとしてもデビュー戦となった第1戦。「プロジェクトとしては3年という計画なので、最初から全然経験のない子を選んいでるし、デビュー戦なので最後尾は間違いないのかな、とは思ってはいたんですけど、ちゃんと最後尾のグループの辺りにはついてけそうなところで走ることができました。誰ともぶつからずに、前日のFCR-VITAを含めて両方でちゃんとチェッカーを受けられたので、上デキかなと思います」と片岡監督は語る。

「今回のレースウィークを通して彼女のキャラクターが垢抜けて、何か突き抜けた明るさを持ってるのもの存分に見られて、そこは非常に応援し甲斐もあるし、特にファンと一緒に走るグッドスマイルレーシングとしては、非常にいい感じだなと。すごく一体感があったと思います」(片岡)
「振り返ると予選の2分03秒台は想定以上でした。それまでのベストが2分04秒8だったので、自己ベストは更新したいよね、と言っていましたけど、予選で見事に上回ってくれました。決勝に関しては、安定して走れるのがあれくらいのタイムなのが現状。まだ練習も3回くらいしかしていないので、伸びしろしかないと思っています。今後に期待です」(片岡)

なお、トップ争いは初ポールポジションを獲得した斎藤愛未と2022年チャンピオンの翁長実希によるバトルが白熱。最終ラップで逆転を果たした翁長が0.2秒差で逃げ切り、開幕戦を制した。2位に斎藤、3位に下野璃央が入った。
次回は7月20~21日。富士スピードウェイで開催されるスーパーフォーミュラとの併催で週末に2回レースが行なわれる。「伸び代しかない!」状況にある岡本が、次はどんな走りをみせてくれるのか目が離せない。

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