それまで乗っていたのは1997年に買った初代プリウス。仕組みは大層ユニークで面白いクルマでしたが、運転がまったくつまらないので最期は屋根に苔がむしておりました。
街中を走るカッコいいクルマに気がつき、調べてみたら電動で屋根が開くロードスターの最新型というではありませんか。おおっ、お前はかつて私が買い損ねたクルマの末裔か。じゃ、次のクルマはアレにしよーっ。と、その時、心に決めたのでした。
新車を買った情報2024、そのロードスターRFを手放した私は四本淑三です。今回の話題の中心といたしますのは、この連載を始めるきっかけとなったRFの顛末。それをまとめつつ、この連載の締めとさせていただきたいと思います。
人生老い易く二座乗り難し

手放した理由は保険のセールスマンがよく口にする「ライフステージの変化」というものです。2座席のオープンカーというのは、大人が1人か2人で移動する以外、ほぼ実用にならないクルマですから、一生のうち乗れるチャンスはそう多くはありません。
最初のチャンスは免許取得以降の独身時代にやって参ります。200万円台前半で買えた初代のNA型「ユーノスロードスター」は、正にそうした20代、30代を狙ったものでした。
初代発売当時の1989年に25歳だった私も、乗るなら今しかないぞと当時のマツダの販売チャンネルの一つ、ユーノス店へ出かけた一人でした。そこで何を血迷ったかユーノス店で併売されていたシトロエンのBXを買ってしまった。これが運の尽きでありました。なぜなら、その後程なくして5ドアファミリーカーのユーティリティー性を検証すべく結婚しちまったわけですから。
さて、現代のND型はどうかと申しますと、300万円台からスタート。ずいぶんと値上がりしたものですが、所得水準は前世紀末から大して上がっておりません。おそらく現代の若者には昔よりもハードルが高いはず。そこでマツダは初代に乗り損なった昔の若者もターゲットに入れてきたわけですな。つまり私のような。
2度目のチャンスはさらに短かった

そうしたカモ……もとい30年後の昔の若者のうち、その多くは子育てが終わっているか、そろそろ悠々自適の生活に移る頃。とっくに離婚して子供もいない私の場合は、歳を取った親と会社の面倒を見るため、実家の北海道へ戻るタイミングでした。おっしゃあ、東京と違って北海道は走り放題だぜ。というわけで直ちにロードスターRFの購入に至ったわけであります。
2018年末に納車されて以降、最初の1年間はロードスター生活をたっぷり堪能しました。しかし2020年にはコロナ禍へ突入して遠出は困難に。さらに親の状態も悪化して滅多に家も空けられなくなり、自由になる時間と言えば、透析のために親を病院へ預ける数時間のみ。この辺りは未就学児童のいる家庭と同じです。
そんな細切れの時間でも走った気になれるというので、自転車が趣味として復活。加えて豪雪対策として買った中古のフォレスターが意外と運転も楽しい。納期未定のジムニーシエラが来るまでのつなぎのつもりだったフォレスターでしたが、人間というのは楽な方に傾きますからシエラはキャンセル。当然ながらロードスターの稼働時間はますます減って行ったわけであります。
ロードスターRFの5年間の総走行距離は4万3165km。
次世代にロードスターを遺す

だからと言って走らなくてもカッコいいわけですから、手放すかどうかは車検が切れても決めかねておりました。ただ庭に置いておいても劣化が進むだけ。そしてまだ走れる中古を次世代に渡すのは大人の役目。ということで市場へ還すべくお迎えに来ていただきました。
中古のロードスターと言えばやはり初代NA型が人気です。私だっていまだに初代のVスペが欲しいくらいです。しかし最終型は1997年式で、すでにクラシックカーの部類。それでも状態のいい中古がまだ存在するのは、歴代オーナーが大切に扱ってきたから。あるいは程度が悪くても引取り手があるから。もし中古に乗ろうとするなら、それなりの見る目とサポートが必要でしょう。
一方、ND型の発売は2015年。
現在のRFの相場は、2017年式で150万円あたりからスタート。程度のいい初代NA型より安く、若い方にもなんとか手が届きそうな値段です。タイミングさえ合えばぜひにと申し上げたいところ。
ソフトトップよりもRFが優れている点

では、お勧めどころはどこなのか。もう最終回ですから各方面への気配りなしに申し上げますと、RFはライトウェイトスポーツの王道から外れています。ハードトップとその格納装置による重量増のおかげで旋回中のロール量は大きい。要するに腰から上が重く、軽快な挙動を楽しみたければソフトトップに勝るものはありません。
しかしソフトトップのボディをベースに、電動開閉式ルーフを取り付けるべくデザインされたクーペボディが奇跡的と言えるほどカッコ良かった。その重量増を補うために2リッターエンジンを積んだ。この2点を良しとするならRFを買っても後悔はしません。
もうひとつ遠慮なく申し上げますと、RFのトランスミッションはマニュアル一択。マイナーチェンジで出力特性が向上した2018年後期型以降がおすすめです。ソフトトップに1.5リッターエンジンしか用意されない日本市場においては、このエンジンのために存在するのがRFと言っていいくらいです。
何しろ2速踏みっぱなしで100km/hまで澱みなく到達する、このエンジン特性とギア比の組み合わせは最高で、直線主体で幹線のペースも速い北海道の道路では、そのおいしいところを存分に楽しめました。加えてバイパスや高速道路では、このサイズのクルマらしからぬ路面に張り付くような安定感があるのも、小型の中距離ツアラーとして推せるポイントです。
中古で買われる方への申し送り事項

褪色が気になる本体色のソウルレッドでしたが、やはり5年で若干の褪せた感じはしています。これは個体差の大きな部分なので、なるべく天気のいい日に現車確認した方がいいでしょう。構造的な難点やトラブルはいくつかありましたが、それは過去の記事を振り返ってもらえば分かるように、どれも克服できない大きな問題ではありません。
それから私と同じ寒冷地にお住まいの方へ。
冬の北海道でソフトトップは破損し易いだろう。ならば冬もオープンで走りたいからRFだな。マニュアルにも「外気温が5℃を下回ったら凍結の恐れがあるから開閉するな」とあるぞ。
オープンで気持ちがいいのは外気温5℃くらいまでの乾燥路です。0℃前後になると融けた凍結路から跳ね上げられた泥水をかぶってしまう。ウエストラインが低いクルマなので、これは尚更です。そして-5℃を下回ると路面はおおむね凍結していますが、今度はヒーターを効かせても寒い。結局、ソフトトップでもハードトップでも、冬の間は5℃を下回ると天井を開けるタイミングが難しい。余計なことを考えずに、欲しい方を選びましょう。
最後に、モーターアシストのない、後輪駆動で、手動変速機の付いた、オープンボディの量産車なんてものの新規開発はこの先、絶望的です。各世代のロードスターオーナーの皆さん、愛車を大切に。もしかしたら貴方のそのクルマ、いつかまた私が乗ることになるやも知れません。
それではごきげんよう。