日本独自の自動車文化から生まれたコンパクトミニバン。その雄となるHondaの新型FREED(フリード)を公道で試乗しました。
【FREEDのいいところ その1】静粛性が高く、必要十分のパワー

それでは一般道での印象について。現行FITから始まった1.5L 直列4気筒+モーターのパワーユニット「e:HEV」は、チューニングを重ねることでかなり静かに仕上げられた印象。ファミリーカーにおいて静粛性は何よりも重要だと感じる筆者的には、大変好ましい傾向のように思います。クルマが静かですと、車内での会話がはずみますからね。

ならシエンタは? というと、1.5L 3気筒エンジン+モーターという組み合わせ。一般的にエンジンは同じ排気量ならシリンダー数が少ないほど振動や音が大きくなる傾向があります。つまりトヨタの方がエンジン音は結構盛大に聞こえます。一方でエンジンは1シリンダーあたり500㏄が最も効率がよいため、トヨタの方がHondaよりも燃費はよい傾向。
シャシー(車体重量)の絡みもあるとはいえ、ヤリスとFITではヤリスの方が圧倒的のよかったので、その傾向は引き継がれていると思われます。
最高出力はエンジンが106馬力、モーターが123馬力。最大トルクはエンジンが13kgf・m、モーターが25.8kgf・m。シエンタの最高出力はエンジンが91馬力、モーターが80馬力。最大トルクはエンジンが12.2kgf・m、モーターが14.4kgf・m。
一部ジャーナリストからは「もっとパワーが欲しい」という声があったそうですが、FREEDはスポーツカーではないですし、高速道路の合流で踏んでも進まないということはありませんから、これで十分だと筆者は思います。
【FREEDのいいところ その2】接地感のある乗り味

適度に柔らかく、それでいてシッカリと芯のある乗り味は、高速道路の長距離クルーズで大変有利。つなぎ目で強い衝撃とあとを引く振動が続くようなことはありません。ですが、キビキビとした走りはちょっと苦手のようです。その逆がシエンタです。
それは車体重量に表れていて、シエンタは約1.4t、FREEDは約1.5tと、その差は約100kg。なるほどと思いつつ、そこもまたトヨタとHondaの考え方の違いがあるようです。
【FREEDのいいところ その3】ネガティブな部分はすべてポジティブに変えてきた

昨年登場の新型「N-BOX」、今春登場のマイナーチェンジ版「VEZEL」など、最近のHondaは「前作で不評だった部分をキッチリ直してくる」という印象。その姿は保守的に見えるかもしれませんが、ファミリーカーだからこそ、こうした積み重ねは大切です。たとえば、運転支援は以前は少し頼りなさを覚えましたが、キッチリと治して安定感バッチリ。

パーキングブレーキはフット式から電子式へと変更。さらに長年にわたってHondaはパーキングブレーキの自動解除をしなかったのですが、FREEDは方針を変更しアクセルを踏めば自動解除されるように。使い勝手が一気に良くなりました。

また3列シート仕様(6人乗りと7人乗り)には、後席用エアコンを装着。シエンタはサーキュレーターですので、エアコンはうれしい限りです。特に今年の夏ような酷暑の場合、後席に送風口があると室内を一気に冷やすことができます。Hondaの生真面目さを感じさせる出来栄えです。
【FREEDのいいところ その4】居心地と居住性のよさ



「肩ひじの張らない居心地の良さ」も、最近のHondaの特徴。もちろんFREEDにもその良さは引き継がれています。シートはファブリックで座り心地は上々、変な場所に縫い目がありませんから、途中で太ももが痒くなったりしません。

運転席右手の収納にはリモコンキーを置く場所を設置するなど、細かな部分で使い勝手を上げてきています。

運転席のうしろには、2列目シートのためのUSB充電ポートを配置。しかもType-Cというのが今風ですね。



3列目シートがオマケではなく、キチンと座り心地も担保された居住空間なところも◎。さらに前方視界が開けているから、窮屈な感じがしません。これもまたファミリーカーとしては大切なこと。
それゆえ、シートはSTEPWGNのように床下収納ができず、跳ね上げ式に。また後席の荷室スペースは少し小さめ。この点ではライバルに劣ります。
【FREEDのいいところ その5】買いはCROSSTARスロープ仕様


そんなFREEDですが、何のグレードが一番オススメでしょうか? もちろん「何名乗るか?」という話になるのですが、3人とか単身者でしたらCROSSTARスロープが一番推したいと思います。というより、筆者が買うならコレ一択です。「身内に車椅子を利用している人がいるのか?」いません。「何か証明書は必要なのか?」必要ありません。「じゃぁ何でスロープなのか?」便利だからです。


両親の今後のことを考えている、というのもありますが、普段は荷物を載せた状態のカートや台車が収納できるのです。スロープがあるから出し入れは簡単ですし、重かったら電動ウインチで引き上げることもできます。ちなみにスロープの耐荷重は200kgまで。


スロープの収納は2つ。


そして、CROSSTARは車中泊がしっかりできるのが魅力。もちろんスロープでもこれはできるようです。つまり、カートを使えば荷物の出し入れはラクですし、スグに車中泊ができる。車椅子の人を運ばない時はレジャーとして使えるのです!


とはいえ、車椅子状態の乗り味はどうなの? というのが気になるところ。実際に乗り込んでみました。車椅子の座面は薄いので、走行中の振動がダイレクトに伝わるんだろうなぁと思っていたのですが、そのようなことはなく快適。つまり車両の足がよくできている、というわけです。

さらに5人乗りには用意されていない、2列目用のエアコンが装備されています。


【FREEDの×なところ その1】ライバルに比べてちょっとお高め
ファミリーユースのクルマにとって、値段は重要なファクター。FREEDのライバルはトヨタの「シエンタ」なのですが、価格を見てみるとシエンタが199万5200円~323万4600円であるのに対し、FREEDは250万8000円~343万7500円と、ハイエンドで20万円、エントリーモデルに至っては50万円以上の価格差があります。「高いということは、シエンタより良くて当然」なわけで、逆に期待できると思いましょう。

【FREEDの×なところ その1】AIRの5人乗り仕様がない
クロスターの7人乗り仕様がない


今回のフリードは、スッキリ顔のAIRとSUVライクなCROSSTARの2車種がラインアップされています。


キャプテンシートの6人乗りは両モデル用意されていますが、7人乗りベンチシートはAIRのみ、3列目を取り外した5人乗りはCROSSTARのみ。以前はFREED+というグレードがあり、FREED顔で5人乗りがあったのですが……。
この「AIRのスッキリデザインで5人乗りが欲しい」という声は、営業サイドやジャーナリストを中心に開発陣に届いていたようで、筆者も当然その質問を投げかけました。すると「SUVスタイルのCROSSTARはミニバンというよりマルチパーパスに使われることが多い。それゆえ個性と差別化を与えたかった」とのこと。ちなみにCROSSTARにAIRの部品を付けることは、現実的ではないようです。
★★★
総合的に考えると、CROSSTARが大変お買い得なのでは? 事実、価格も標準仕様とそれほど変わりません。使い出があってお買い得、これこそ推しのグレードです。それゆえ「AIRルックのスロープを」と願ってしまうわけですが、そこは「個性」ということで。
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