先だって、イギリスの名門ブランドであるアストンマーティンの「DB12」を試乗することができました。わずか半日という短い時間、しかも街乗りという条件でしたが、その印象をレポートしたいと思います。


モータースポーツで名声を得たスポーツブランド

 アストンマーティンは1913年にイギリスの地においてライオネル・マーティン氏とロバート・バンフォード氏によって設立します。アストンマーティンは初期からレースに積極的に参加して、その性能の高さを証明。高級&高性能なスポーツカーブランドとして名声を得ます。第2次世界大戦後も、F1やル・マン24時間などのレースで大活躍。


 ちなみに、現在のアストンマーティンが熱心にレースに取り組んでいるのはF1ファンであれば、周知のことでしょう。そんなアストンマーティンは量産車も超高級スポーツカーとして人気を博し、1964年には「DB5」が映画「007シリーズ/ゴールドフィンガー」に採用されました。


アストンマーティン「DB12」はラグジュアリーと最高性能を両立させて究めた1台
アストンマーティン
アストンマーティン「DB12」はラグジュアリーと最高性能を両立させて究めた1台
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 そして、今回の「DB12」は、そんなボンドカー「DB5」の後継・最新モデルにあたる存在です。日本での発売は2023年5月。最初にクーペが導入され、後にオープンカーの「DB12ボランテ」、「007シリーズ」とコラボした「DB12ゴールドフィンガー」が追加されています。


 特徴は2+2のクーペであること。サーキットのような専用コースを攻めるクルマではなく、大陸を遠くまで移動するGT(グランドツアラー)です。移動を速く、そして快適に過ごすために、技術の粋を集め、素晴らしいパフォーマンスと極上の快適性を実現します。


 搭載する心臓部は、最高出力680PS・最大トルク800Nmを発生させる4L V8のデュアルツインスクロールターボ・エンジン。

駆動方式はFRで、トランスミッションとなる8速ATを後輪側に置く、トランスアクスル方式を採用します。0-100km/h加速は3.6秒、最高速度は325km/hにもなるスーパーマシンです。


アストンマーティン「DB12」はラグジュアリーと最高性能を両立させて究めた1台
アストンマーティン
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アストンマーティン
アストンマーティン「DB12」はラグジュアリーと最高性能を両立させて究めた1台
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 アストンマーティンは「DB12」のことを「スーパーツアラー」と呼びます。その価格は3090万円です。


サイズを超えた存在感の大きさ

 取材の当日朝に試乗車を受け取りましたが、そのときの第一印象は「大きい!」ということでした。写真ではわかりにくいのですが、装着されたホイール&タイヤはリヤで325/30R21もあります。21インチといえば、LサイズSUVでオプションに設定されるような巨大なもの。それがちょうどよく見えるという時点で、尋常ではありません。


アストンマーティン「DB12」はラグジュアリーと最高性能を両立させて究めた1台
アストンマーティン
アストンマーティン「DB12」はラグジュアリーと最高性能を両立させて究めた1台
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 また、ボディーサイズは全長4725×全幅1980×全高1295mm。全長そのものはDセグメントセダンなみですが、幅は2mにも迫ろうというもので、そこにアストンマーティンの伝統的な台形グリルが鎮座します。見た目のインパクトの大きさは、まさに「スーパーカー」然としたもの。ただし、アグレッシブでありながらも、エレガントさも感じさせてくれます。これは流麗と呼ぶにふさわしいフォルムのおかげです。


アストンマーティン「DB12」はラグジュアリーと最高性能を両立させて究めた1台
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 クルマを横から見たときに、ボンネットが長く、人が乗るキャビンが後ろの方にちょこんと配置されるスタイルは、“ロングノーズ&ショートデッキ”と呼ぶ古典的なものです。最新モデルに、そうした古典的なスタイルで登場するというのは、歴史を重んじるイギリスらしさを感じます。


リアルなカーボンと上質なレザーで囲まれたインテリア

 「DB12」のインテリアの印象は「オーソドックスだな」というものでした。柔らかく触り心地のよい上質なレザーに、繊維までがハッキリと見えるカーボンで構成されています。最近、はやりのデスクトップモニターのような大げさなディスプレイはありません。インパネ中央部とメーターに必要十分なだけのディスプレイが用意されています。


アストンマーティン「DB12」はラグジュアリーと最高性能を両立させて究めた1台
アストンマーティン
アストンマーティン「DB12」はラグジュアリーと最高性能を両立させて究めた1台
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 そしてセンターコンソール部には、小さなシフトノブと、ドライブセレクトのダイヤル、各種のボタンが並びます。しっかりと物理スイッチが用意されているところに好感が持てました。行き過ぎたデジタル化は、操作しづらくなるからです。重要な操作には、やはり物理スイッチを残しておくべきというのが個人的な考えです。超高級ブランドが、僕と同じ方針というのは、ちょっとうれしいところです。


アストンマーティン「DB12」はラグジュアリーと最高性能を両立させて究めた1台
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 シート、ドア、天井など、細かな部分まで、きっちりと丁寧に仕上げられており、このきめ細やかさこそ、超高級ブランドならではです。サンバイザー裏にあるミラーの開閉の動きが、今まで体験したことないほど滑らかだったことにも驚きました。


アストンマーティン「DB12」はラグジュアリーと最高性能を両立させて究めた1台
アストンマーティン
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ゆったりと走れば快適そのもの

 「DB12」のエンジン始動は、センターコンソールにあるダイヤルの中のボタンを押すことで行われます。一瞬の間の後、ブオン!という野太い音と共に、目覚める4L V8デュアルツインスクロールターボ・エンジン。ハイブリッドが増えた現在では、古典的な演出です。ただし、その音量はミニマム、良識の範囲内であり、周囲に気を配るほどではありません。


アストンマーティン「DB12」はラグジュアリーと最高性能を両立させて究めた1台
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 街中を走り出してみれば、大きな車幅こそ気になるものの、軽いステアリング、静かなエンジン音、快適な乗り心地に、すぐにリラックスして運転できるようなりました。ゆったりと街中を流せば、運転は何も難しいものはありません。21インチもの巨大なホイール&タイヤであることを忘れるほど、まずまずの乗り心地です。


 東京都内の渋滞を抜けて、横浜方面に首都高の流れにあわせて走ってみれば、まったく普通のクルマのようにイージーそのもの。80km/hで走行しても、エンジン回転数は1500回転ほどしか回っていませんから、エンジン音もほとんど聞こえません。助手席との人の会話に困ることはありません。


アストンマーティン「DB12」はラグジュアリーと最高性能を両立させて究めた1台
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 ただし、道が空いた状況で試しとばかりにアクセルを深く踏み込めば、一瞬のためのあとに、一気にエンジン音が高まり、最大トルク800Nmの強烈な加速を味わうことができました。その加速は、モーターの“ドン!”という後ろからモノがぶつかって押されるようなものではありません。ターボらしい、加速するほどに、より加速が強くなるような伸び感のあるものです。


 やはり、最高出力500kW(680PS)/6000rpmに、最大トルク800Nm(81.6kgm)/2750~6000rpmというスペックは特別です。


 わずかな時間しか走らせることはできませんでしたが、「DB12」の特徴は揺らぎません。最上級の高級車であり、その一方で最上級のスポーツカーでもあったということです。ゆったりと快適な空間でくつろぎながら、その気になれば周りを置いてけぼりにするスポーツカーにもなるというわけです。なるほど、これが「スーパーツアラー」なのかと納得させられる試乗となりました。


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筆者紹介:鈴木ケンイチ

 1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。

新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。


 最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。



アストンマーティン「DB12」はラグジュアリーと最高性能を両立させて究めた1台
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