「アメ車はデカくて燃費悪い」と敬遠されている方は多いと思います。筆者もそうでした。
もちろん、難がないわけではありません。ですが試乗したら「こんなにイイの?」と驚くとともに「お迎えしたい」と頭の中でソロバンを弾くこと間違いナシの、実にイイクルマなのです。
日本ではなぜアメ車が選ばれにくいのか


iPhoneにWindows、GoogleにAmazon、X(旧Twitter)、ハーレーダビッドソンなどなど……、私たちは日頃からアメリカのプロダクトやサービスに慣れ親しんでいるにも関わらず、なぜかアメリカ車に対しては疎遠だったりします。
それもそのはず、アメリカ三大自動車メーカーのうち、フォードは2016年に日本市場から撤退。クライスラーはJeepのみ、GMもコルベットとカマロ、そしてキャディラックの一部モデルしか日本に導入していません。

こうなってしまった背景には、日本人がアメ車に対して「走らない・曲がらない・止まらないうえに燃費も悪い」というイメージがあります。さらに燃費が悪いというアメリカンV8の排気量は7Lとか8Lなんてモデルも存在します。我が国のお上は6L超のエンジン車に対して「所有しているなら年額11万円の自動車税を上納せよ」といいます。
加えて日米自動車紛争やジャパンバッシングに代表される外交圧力に拠る敬遠ムードと、メルセデスやBMWに代表される日本人の欧州ブランド信仰も相まって、アメ車を選ぶ理由は「好きだから」以外、何1つありません。
メーカー側も右ハンドル車を用意したり、ネオン(クライスラー)やサターン(GM)といった、従来のアメ車とは異なる日本車キラーをリリースしたこともありました。ですが結果は……。気づけばJeepのような、日本車にはない趣味性の高いクルマのみを輸入・販売するという方針へと舵を切って今に至ります。
テスラもアメ車なわけですが、電気自動車ゆえガソリン車に比べて多く売れているワケではありません。
このカマロは2L直4ターボでアメ車っぽくない

シボレーのスポーツカーはカマロのほかにコルベットが有名です。ですがコルベットがミッドシップ化したため、「アメリカンマッスルのお約束」である、フロントにトルクフルな大排気量エンジンを載せ、地面をリアタイヤだけで蹴り飛ばす快感が得られるのはカマロだけに。ですが、現行にあたる6代目は2024年で生産完了するのだそう。事実、現在ボディーストライプや専用プレート、そしてレカロシートをおごった50台限定の「ファイナルエディション」が販売されています。
もちろん大排気量のV8 OHVエンジンが最高なのは言うまでもありませんが、毎年5月に11万円を納税するのはちょっと……という貴方にピッタリなのが、カマロ LT RSです。というのも、搭載するエンジンは2L 直4ターボなので、自動車税も3万6000円と1/3以下。燃費だって10km/Lはいけそうです。



アメ車はデカい、と思っている方のために、ここで寸法をチェックしましょう。ボディーサイズは全長4780×全幅1900×全高1345mmで、ホイールベースは2810mm。このボディーサイズ、実は現行のメルセデスCクラスとあまり変わらないのです。1900mmという全幅は狭い路地に入ると心が折れそうになるものの、一般道や高速を走るなら、デカいから買わないというほどではないでしょう。

それにバックカメラもちゃんとあります。

駐車場ついでに、スポーツカーでは気になる輪留めについてもチェックしましょう。車高が低いスポーツカーの中には、バンパーが輪留めにあたって破損するということがおこりがちです。ですがカマロはそのような心配はなさそう。またガソリンスタンドへの入出庫も神経を使うことなくスムーズにできました。

ややロングノーズなボンネットを開けると、2L 直列4気筒ターボエンジンが姿を現わします。最高出力は275PS、最大トルクは40.8kgmと十分すぎるほどのパワーを有しています。ちなみに2Lの直4ターボエンジンで頭に浮かぶHonda「シビック TYPE R」は、最高出力310PSとカマロを上回るものの、最大トルクは40.8kgmと同じだったりします。
カマロのビッグパワーは8速ATを介して地面に伝えられます。ちなみにガソリンはハイオク専用で、燃料タンクは72L。




もともとV8エンジンを搭載する場所に直4ターボを置く都合上、ラジエターの背後には結構な空間があるのが印象的。かなり運転席側に置かれているほか(フロントミッドシップ)、エンジンは縦置きなあたりに、ちょっとハンドリングの良さを予感させるものがあります。
ラゲッジスペースは狭いが
後席と組み合わせて広く使える



リアガラスごと開きそうかなと思ったラゲッジのドアは小さく、開口部はやや狭い印象。ちなみに雨が降ったときなど、ラゲッジドアが濡れた状態で開けると、ちょっと水分が室内に侵入してくるのはご愛敬です。閉めている時は雨漏りしなかったのでご安心ください。





ラゲッジは奥に深く、大型のスーツケースが4つくらいは入りそうです。12Vアクセサリーソケットやネット、コンビニフックといった便利アイテムはありません。後席を倒すと容積は大幅アップ。フルフラットにはなりませんが、開口部も広く不満を抱くことはないでしょう。
運転席は余裕あるけど後部座席はかなり狭い
荷物を載せるためと割り切りも必要



ドアを開けてみましょう。開口部はかなり広いものの、開く角度はちょっと浅め。サイドシルにはカマロの大きな文字がドライバーを迎えてくれます。

乗り込みづらさ、という点では後席はかなり大変。まずシートの背もたれを倒すわけですが、ほかのクルマでは背もたれに合わせて座面が前へ移動するところ、カマロは動きません。つまり別途シートの移動ボタンを押さなければなりません。さらにシートベルトを跨ぐ動作が必要で、スカートを履いている方には辛いかも。



センターアームレストのない後席は、大人2人がギリギリ座れる印象。足元はかなり狭く、つま先は運転席/助手席のシート下に収めないと着座は困難です。またドリンクホルダーもありませんので、長時間の移動は厳しいかもしれません。

中央にはワイヤレス充電対応のスマホホルダーを用意。この位置にスマホホルダーを配置するクルマは初めて見ました。ちなみに、運転席側にスマホホルダーはありません。
左ハンドルは慣れてしまえばどうということはない



カマロは左ハンドルのみの設定。「右ハンドルを作ってよ」と思いますが、工場見学に行くと、右ハンドルと左ハンドルの混合生産はかなり大変なことがわかります。






ステアリングホイールにはカマロのロゴ。パドルシフトスイッチが設けられ、マニュアル変速が可能です。ステアリングリモコンに目を向けると、最近のクルマとしてはボタンが少ないことに気づきます。特に左手側のクルーズコントールボタンは、単なる速度調整のみ! 車間設定もなければ、ハンドル支援のオンオフもありません。そう、このカマロには車線監視アダプティブクルーズがないのです。
一方、ステアリングにヒーターボタンがあるのは◎。ステアリング左手下側のFAV±ボタンは、ラジオの時は選曲、音楽再生時にはトラック送りに割り当てられていました。

メーターは中央にインフォメーションディスプレイを、左右に指針式メーターを配置。水温は摂氏なのに、油温は華氏で表示されています。華氏を摂氏に換算するには度=([℉]-32)÷1.8ですから、写真の場合(215℉)は101度になります。


センターコンソールにはシフトレバーのほか、パーキングブレーキと走行モードセレクター、そしてTCSオフのボタンを配置。


アームレストを開けると、USB Type-Aソケット2つと、3.5㎜ステレオフォーンジャック、そしてSDカードスロットが見えます。見づらい位置にあるため、方向性のあるUSB Type-Aはちょっと使いづらい印象を受けました。

アクセルペダルはオルガンタイプ。足元はかなり広く、また自然なペダルレイアウトで違和感はありません。
8インチのディスプレイは光沢があり綺麗だが
ゆえに太陽光の角度次第で見づらさも



センターディスプレイは8インチのタッチパネルタイプ。デザイン的にもシンプルなうえに、近くに音量調整のボタンがあるなど使いやすくなっています。なのですが、ディスプレイが垂直に取り付けられ、さらに光沢液晶であるため、見づらいうえに太陽の光加減によっては反射で見づらい時が……。


ナビは起動がとても遅いのが気になるところ。しかし、起動すれば普通に使えますし、特段問題を感じることはありませんでした。


Apple CarPlayはワイヤレス非対応。ちょっと気になったのは、ショートカットアイコンが左側にあること。普通、右側じゃないかな? と思ったのですが、きっと運転席に近い方にショートカットを置くのが仕様なのでしょう。また、車両側に戻る時のアイコンがなく、ディスプレイ外にあるホームボタンを押すという仕様である点も気になりました。

逆に違和感なく使えたのがAndroid AUTO。終了アイコンもちゃんとありますし、画面表示も普通。動作面で気になるところはありませんでした。


カーオーディオはBOSEが手掛けています。さっそく再生してみると低域ドバドバで「いくらBOSEが低域が出る傾向とはいえ、さすがにコレはオカシイ」とイコライザー画面を開いたところ、低域がMAXという驚きの仕様。

筆者はオーディオ好きなので、イコライザーを一旦フラットに。それでも低域は多めの印象なので、上の写真のようなセッティングへと変更。これでBOSEらしい中低域がたっぷりのサウンドになりました。


室内イルミネーションは青で控えめながらもシッカリと主張するもの。ライトアップはこのくらいがちょうどよいと感じます。
排気量は小さいがアメ車らしい力強い走り

走り始めて気づくのは、実にジェントルな乗り心地の良さ。アメ車だからフワフワとかはなく、むしろシッカリとしたスポーツの足。ゴツゴツさはなく、適度な硬質さを感じる程度のフラットライドっぷり。特に高速道路でこの足は活き、なるほど広大な大陸を延々と走る土地柄から生まれたクルマであることを感じた次第。
パワーも額面通りで速さは十分。マニュアルでシフトダウンすれば、回して楽しい感覚と、気持ちのよい排気音に気分が高揚すること間違いナシ。

アメ車というとブレーキがプアというイメージがあったのですが、カマロにそれはあてはまりません。というのも、ブレーキの名門「ブレンボ」が採用されているから。そのフィールはさすがなもので、初期制動を高めた一般車のそれではなく、踏力に合わせて効くというスポーツライクなセッティング。これは確かにイイと感心しきりです。

走行モードは、スポーツ、ツーリング、スノーの3種類。変化するのはアクセルレスポンスとシフトタイミングで、足回りには変化ナシ。スポーツだから過激ということはなく、お好みでどうぞ、という印象。


クルーズコントロールの画面はシンプルでわかりやすいもので不満はありません。それ以上に「いつまでも走り続けていたい」と思わせる快適さには心惹かれるものがあります。

高速はいいけれど、ワインディングや一般道が気持ちよく走れないと困ります。その点カマロは合格どころか満点と言いたくなるほどの心地よさ。普通に走っている限り、排気音やメカノイズ、ロードノイズが耳につくことはなく、実に心地のよいドライビングが楽しめます。
それは心の余裕につながり、強引に割り込まれた際、いつもならイライラしているところ「そういう人いるよね」と許してしまう気分になるから不思議。これはJeepのチェロキーでも感じてはいたのですが、雄大な大地を走るアメ車には、そういう心の豊かさが得られる特別な魅力があるのかもしれません。

「いつまでも、このクルマと走っていたい」と思いながら走っていたら海岸線に。潮風を感じながらのカマロは格別の一言。訪れたことはありませんが、カルフォルニアにいるような錯覚に。そしてアダプティブクルーズコントロールがないとか、左ハンドル設定しかないといったことは些末に思えてくるから不思議です。

今までアメ車のことを良く思ってなくてゴメンナサイ。ただただ「こんなにイイクルマなのか」とため息ばかりが出たことを申し上げます。