●「安心・安全の追求」が最優先課題 消費者だけでなく加盟店も意識
大規模キャンペーンを起爆剤に急スピードで拡大したスマホ決済だが、現時点では多くの課題も抱えている。7月3日に明らかになったセブン&アイ・ホールディングスのスマホ決済「7pay」の不正アクセス問題は、その事実を改めて浮き彫りにした。
5日には、経済産業省が改めて決済事業者各社に不正利用防止のための各種ガイドラインの徹底を求めるなど、行政としても今回の事態を重く受け止めている姿勢を示した。一社だけでなく、全社に徹底と体制の向上を促したことからも、同省がスマホ決済における安全性を業界全体の問題として認識していることがうかがえる。
座談会が開催されたのはこの問題の発覚以前だが、業界全体の共通課題として「安心・安全の追求」というキーワードは頻出した。これは、消費者だけを向いたものではない。導入を検討する店舗にとっても、安心・安全は優先度の高い判断基準だ。すでに拡大している大手小売チェーンはともかく、中小企業や個人経営店が少しでもリスクのあるシステムの導入に対して消極的になることは避けられない。
●地方の自治体と提携 点ではなく面で訴求
各社が口をそろえた最大の共通課題が、まさにこうした「中小企業や個人経営店の加盟店開拓」だったことから、安心・安全を重要視していることは明らかだ。「スマホ決済は広がってはいるが、クレジットカードなどと比較するとその差は歴然。本当に普及させるならば、加盟店は圧倒的に足りていない」という危機感もあり、神経を尖らせている。
中小企業や個人経営店舗への導入は大手のように多数の店舗に一括で導入できるわけではないため、営業効率はよくない。また、リテラシーもさまざまで、特に地方では消費者として利用できる機会も限られているため、メリットを訴求するのは容易ではない。
その点は各社もよく理解しており、地方の商工会議所や商店街に働きかけて草の根で啓蒙活動に取り組むなど、ターゲットに合わせた訴求を行っている。参加者からは、「個人という点ではなく、地域という面に働きかけることが重要」という指摘があったが、キャッシュレスに紐づけて、ご当地イベントや町おこしを企画するなど、キャンペーンとは異なり報道されることが少ないアプローチも試みている。
「本当に利用されるのか」「面倒なのではないか」「手数料が高いのでは」などの声は当然のことながら多いというが、いざ試してみると好意的な反応も多く、手応えを感じているようだ。「伝えたいのは、コストがかかっても、それ以上の売り上げをつくることができるということ。業務効率化やデータ活用の成功例を提示できれば、納得していただけるはずだ」。促進を加速させるための材料を増やすことにも注力している。
10月1日に実施される増税後には、キャッシュレス・消費者還元事業がスタートする。この好機はキャッシュレス決済を普及させる上で、直近における官民共通の目安となる。現時点では訴求のスピード感が見えづらい部分もあるが、残り3か月で取り組みが加速することは間違いないだろう。(BCN・大蔵 大輔)
参加者一覧(五十音順):Origami PRコミュニケーション部 古見幸生 PRコミュニケーションディレクター、KDDI(au) ライフデザイン事業本部・新規ビジネス推進本部・金融決済ビジネス推進部 長野敦史 部長、LINE Pay 営業統括本部 Direct sales事業部 大清水康徳 事業部長、NTTドコモ パートナー推進室 田原務 担当部長、PayPay 事業推進室 柳瀬将良 室長、メルペイ 杉水流智之 Head of Enterprise Sales、楽天ペイメント 楽天ペイ事業本部・加盟店営業第一部 土田智之 エリア営業開発第三グループマネージャー。
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