一日の利用者数が350万人……横浜市の人口に匹敵する世界最大の乗降客数を誇る「新宿」駅に対して、一日の利用者がほぼ0人という、信じられない駅も日本には数多く存在する! その名は「秘境駅」……。なぜか鉄道ファンをひきつける、そのディープで不思議な魅力に迫ってみたい。
■降りたら最後、次の列車は数時間あと!
旭川に宿を取り、朝一番の列車に乗れば、宗谷本線のすべての秘境駅へ行くことが可能である。どの駅で降りるか、その選択が肝心だ。
なにしろ秘境駅という場所は降りたら最後、次の列車までは数時間、路線によっては明日の同じ時間まで、列車がやって来ないのだから。
ようやく降りる駅を決めて、ワンマンカーの運転手さんに切符を見せると、思いがけず声をかけられた。
「なにもありませんよ?」
板張りのギシギシするホームに降り立ち、気動車が音を立てて行ってしまうと、私一人が原野に取り残された。
これから上りの列車が来るまでの数時間は、野を渡る風が唯一の相棒になる。ありあまる時間は、私だけのものだ。
彼の言ったことは本当だった。駅前には商店や旅館はおろか、自動販売機ひとつない。なにか観光になるものは無いかと、尋ねようにも人がいない。
まさに魔境の入り口。駅前通りはけものみち。
メルヘンの世界ならそれも許されるだろう。しかしこれはリアルな現実。
「なぜ、こんな場所に駅があるのか」だなんて、疑問に思うのも野暮ってものだ。

かつてここには人の営みがあり、通勤、通学の足として、物資の輸送や産業に、長い間、地域に貢献してきた。
わけあって僅かな民も駅を離れ、代わりに物好きな旅人が訪れるようになった。が、その収益は微々たるものだ。
JRはこのように利用者が極端に少ない36駅を廃止するという意向を発表した。それに「待った」をかけられた幸運な18駅は、地元が管理費を負担するという条件で、とりあえず命を長らえた。
中には利用者が一桁という「秘境ぶり」を逆手に取って、観光資源として売り出そうという考えを打ち出した自治体もある。これは喜ばしいことだ。
いま北海道は新幹線を開通させることに躍起になるばかりで、地元の足には目が向いていないが、古き良き伝統を色濃く残す秘境駅こそ、未来永劫に残すべき国鉄時代の遺産なのである。
「フォ~ン!」。短い汽笛がなった。
上りの列車が私を迎えにやってきた。どんなローカル線でも定刻通りにきっちり運行する、日本の鉄道は偉い。
次回から、これら秘境駅たちの各駅停車の旅に出かけたいと思う。
<第二回へ続く>