今年もマスクが手放せない夏が到来。暑さによるバテと勘違いをして、脱水を見逃しているかも? 「かくれ脱水」のサインに気づくことで快適な夏にしよう!
監修
イシハラクリニック副院長 石原新菜さん
幼少期をスイスで過ごし、帰国後は伊豆の緑豊かな環境に育つ。
*『一個人』2021年夏号 特集「〝コロナ夏〟の不調に備える」より抜粋
「息苦しい」「だるい」は不調のシグナル!? 「かくれ脱水」のワナ
コロナ禍でマスクをつけて過ごす2度目の夏。猛暑が続き、「息苦しい」と感じつつもそれが日常化してはいないだろうか。その息苦しさはもしかすると、大変危険な「かくれ脱水」のシグナルかもしれない。
「かくれ脱水」とは、脱水の初期症状を指す。最初は自覚するのが難しく、脱水が進行してはっきり分かったときには手遅れになっていることも。その特徴を知って、しっかり対策をしよう。
初期症状は「なんとなく体調が悪い気がする」といった感覚から始まる。顕著な症状としては、だるさや異常な喉の渇き。また、自覚しづらいものにトイレの回数が減ったり尿の色が濃くなるなどの徴候もある。このような症状が出始めたら、まずは意識的に水分を摂るようにし、風通しのよいところで様子をみよう。
こんな症候はありませんか?
【2つ以上あてはまれば「かくれ脱水」です】
①息苦しさ
息が深く吸えない、うまく空気が入ってきていない気がする、マスクが顔に張り付いて呼吸が妨げられているように感じることなどがあれば、要注意。
②喉が渇く
水分を補給したそばからまた喉が渇くなどいつもとは違う異常な口渇を覚えるときは、「かくれ脱水」の初期段階に入っている可能性が高い。
③だるい
なんとなく身体が重い、動くのが億劫になるなど、活動に支障が出始めたら「かくれ脱水」の疑いがある。バテているだけだ、と見逃すことも多いので注意が必要。
④脚がつる
寝ているときや、激しい運動をしていないのにこむら返りになったときは要注意。こむら返りは運動不足でも起こるが、この時期は水分不足を疑うようにしたい。
「かくれ脱水」にはこのような症状も
●イライラする
●判断力、集中力の低下
●頭痛
●食欲不振
●トイレの回数が少ない
小さなサインを見逃すと気づいたときには手遅れに
毎年多くの人が脱水症状に陥ってしまう。その理由は、自身では充分に注意しているつもりでも、夏バテと脱水は症状が似ていることから、初期症状に気づけないことにある。
だるさややる気の減退は、暑さのせいだと思いがちなものだ。また、夏は普段以上の水分補給が必要となるが、充分な量や回数を摂れていない可能性も大いにある。喉が渇くのは脱水のサインであり、本来ならば事前に水分を摂るのが望ましいし自然だが、実践できている人となると意外と少ない。
「かくれ脱水」の小さなサインを見逃すとあっという間に脱水症へと発展してしまう。
「マスクを着け始めて1年以上が経ち、マスク生活にも慣れてきたように考えがちですが、暑さや身体のほてり、息苦しさをマスクのせいだとつい思ってしまう方は要注意です」と、イシハラクリニック副院長の石原新菜さん。
脱水の症状を正しく認識し、身体からのサインを見逃さないようにしよう。さらに、水分補給についてもタイミングや頻度など、いつも以上に気をつけなければいけない。次ページでは具体的な方法を解説する。
[主な脱水症状]
めまい、立ちくらみ
まっすぐ歩けない、立っていることができない、頭がクラクラするといった症状が出たときはすぐに脱水を疑い、水分補給などの対処が必要。
食欲がない
いつもご飯を食べている時間になっても食欲が湧かない、またはなんだか胃がムカムカするのは危険サイン。さらに悪化すると吐き気をもよおしてしまう。
頭痛
風邪の症状がなく、天気痛でもないのに頭痛がする場合は、水分不足を疑おう。最初は我慢できても、放っておくと頭が割れるかと思うほど痛くなってしまうこともあるので注意。
こまめに少量ずつの水分補給が脱水予防の要
「脱水を防ぐためには、日頃から1時間にコップ0・5杯(約100㎖)を目安に水分を摂るようにしてください」と石原さんはアドバイスする。さらに、起きたときや入浴前後など、特に意識して水分補給をしたほうがよいタイミングもあるが、まずは水分補給そのものを習慣化するのがいいと言う。
コーヒーや緑茶はカフェインによる利尿作用があるので控えめにしたい。またジュースは、1日の必要摂取量以上の糖分が含まれているものがあるので注意が必要だ。
また、運動をするときや脱水気味のときなどは、適度な塩分と糖分のある飲料を飲むと水分の吸収率が比較的高まり、バランスよく取り込むことができる。その点からも、スポーツ飲料はエネルギー補給に加え、脱水対策にもなる飲み物といえる。
しかし、生活習慣病を気にして甘い飲料には抵抗がある方もいるだろう。そんな場合でも、「はちみつとレモンをお湯や炭酸ジュースで割ったものや、黒砂糖を溶かしたものなどは、糖分だけでなくビタミンやミネラルを含んでおり、血糖値の上がり方が緩やかになるのでおすすめです」と石原さん。既製品で好みのものがなければ、自家製ドリンクを試すのもよいだろう。
【摂取のタイミング】
寝る前と起きたとき
睡眠中は水分が摂れない上に、寝ている間に人は約500㎖も汗をかくといわれている。寝る前と起きたときにコップ1杯程度の水を飲むようにしよう。
日中の活動時
まずは休憩の度に水分を摂ること。室内でもエアコンなどで空気が乾燥していると脱水しやすいため、油断は禁物。また、車に乗るときや外出するときは忘れずに飲み物を持ち歩こう。
入浴するとき
入浴中は脱水しやすいため、入る前に水分を摂り、風呂上がりにもしっかりと水を飲む(目安約150㎖)ようにする。
【水分補給時の飲み物に注意】
水や麦茶
日常的に飲むなら、カフェインを含まない水や麦茶がおすすめ。脱水になりやすい夏場は一度にまとめてではなく、できるだけこまめに水分補給をするように心がけたい。
コーヒー、緑茶、ジュース
カフェインの含まれる飲料には利尿作用があり、他の飲み物に比べて水分排出が早くなったり多くなったりする。また、多量の糖分は水分の吸収を悪くするため、ジュースも飲み過ぎに注意したい。
アルコール飲料
アルコールによる新陳代謝の活発化に加え、特にワインやビールなどはカリウムを含んでおり、利尿作用があるので要注意。アルコール類を飲む場合は必ず水も飲むようにする。

熱中症のカギは体温調節ができるかどうか
多くの場合、脱水症から熱中症になるが、水分が足りなくなり症状が出る脱水症に対し、熱中症は体温調節ができなくなることで発症する。
通常であれば、汗をかいたり皮膚の表面から放熱することで体温はコントロールされているが、脱水によって体内の水分が失われたり、あまりの高温で発汗などでは体温を下げられなくなると熱中症の症状が現れる。
環境省の熱中症予防情報サイトによると、28℃を超えると大幅に熱中症患者が増加していることが分かる。
常に隣り合わせの熱中症と夏血栓のリスク
脱水による体内温度の上昇も一因となる熱中症。発症のピークは7~8月といわれるが、近年は5月頃から初夏の暑さとなり、熱中症患者のニュースを聞くことも増えた。
もっとも、軽度の場合は適切な応急処置を施せば、大事には至らない。まず涼しいところに移動させて、ベルトやシャツのボタンなどを外し、身体を締め付けているものから解放しよう。血圧が低下している場合は、台の上に足を置いて高くして寝かせる。経口補水液やスポーツドリンクで水分を補給しつつ、濡れたタオルなどで首やわきの下、足の付け根を冷やすと、軽度であれば回復する可能性が高い。

そんな熱中症よりもさらに恐いのが夏血栓、つまり夏の脱水から誘発される脳梗塞だ。いったん夏血栓に陥ると、一般の人では回復させることができないため、すぐに救急車を呼ぶなど専門機関に頼るようにしたい。
夏は食欲減退から栄養バランスが偏ったり、運動不足になったりとそもそも身体の不調を招く可能性が高い。さらに、肥満や多量飲酒、喫煙などの生活習慣がある場合はよりいっそうの注意が必要だ。
熱中症よりさらに恐い! 夏血栓
夏血栓とは夏場に多い、脱水に起因する脳梗塞のこと。動脈硬化で血管が細くなっている場合、脱水症状によって血液中の水分が不足して血液の粘度が増し、血栓ができやすくなるのだ。脳梗塞は半身麻痺や言語障害など重い後遺症が残ることもあり、命にもかかわる恐ろしい症状である。
意外に多い自宅での発症 大切なのは「快適な」環境作り
小さな子どもや高齢者は熱中症になりやすい。なぜなら、自分自身で体温調節することが難しいことに加え、脱水状態から抜け出すのに時間がかかってしまうからだ。暑く感じないからとエアコンを入れない高齢の方は多いが、これは単に我慢しているのではなく、体感温度のセンサーが衰えていることも原因といわれている。
特に同じ部屋にずっといると、年齢にかかわらず室内温度の上昇に気づきにくくなる。実際に、熱中症による死亡場所は、全年齢で「自宅」の割合が最も高いのだ。「体感に頼って『まだ大丈夫』だとエアコンをつけないのではなく、室温計などを確認して『何℃になったらつける』とルールを作ることが大切です」と石原さんは言う。
もちろん、屋外での熱中症予防も欠かせない。日傘や帽子などでなるべく日差しを避け、人けがあまりないところであればマスクを外し、こもりがちな熱を逃がすことも大切な体温調節の手段となる。
エアコンによる身体の冷えや、外との気温差による不調を気にして、扇風機などで乗り切ろうとしがちだが、大切なのは快適に過ごせる温度に環境を整えることなのだ。
〝コロナ夏〞はマスクの着脱も重要ポイント!
脱水・熱中症を防ぐ心得
①エアコンの使用と換気を心がけよう
まずはエアコンを使用し、快適な空間を作る必要がある。さらに、一般的な家庭用エアコンのほとんどは、室内の空気を循環させるだけで換気機能がない。そのため、定期的に空気の入れかえを行うことが必要となる。
②マスクを外せるところでは取ってしまおう
自宅以外ではマスク着用が当たり前となっているが、体調管理のためにもマスクが外せるところでは取ってしまい、熱中症などにならないよう気をつけよう。
③日陰や日傘などで暑さを避けよう
日向/日陰で体感温度はぐっと変わる。屋外では特に、なるべく日差しを浴びないようにすることが大切だ。
*『一個人』2021年夏号 特集「〝コロナ夏〟の不調に備える」より抜粋