経営施策がなく頓挫・失敗した事業の責任は全て下に押し付ける。下請けや担当社員のことはお構いなし・・・そう思わせる大事件が名門ゼネコンで起きている。
■本業の落ち込みの穴埋めで新規事業を展開するも・・・
写真週刊誌「FLASH」2023年2月28日発売号において、第一報が伝えられた契約トラブルを発端にした、名門ゼネコン・戸田建設による零細企業いじめ(記事タイトルは「戸田建設 黒幕は創業家4代目の副社長 欠陥品 言いがかりで22億円踏み倒しトラブル」)。この記事を企画立案から取材・執筆を担当した週刊誌記者が「FLASH」では、誌面上の都合で割愛された記事全文の詳細を公開する。
東京・新宿の「スタジオアルタ」や「早稲田大学大隈講堂」など、数多くの有名建築を手がけ、今年で創業142年を迎える準大手ゼネコンの戸田建設。
「円安や物価高の影響により、建築資材がかつてないほどに高騰するなど、いまゼネコン各社は、非常に苦しい状況に置かれています。その中でも戸田建設は、2023年3月期の営業利益を79億円も下方修正するなど、特に、業績不振が著しい」(不動産ジャーナリスト・榊淳司氏)
本業の落ち込みの穴埋めをするために、新規事業の立ち上げが急務になっているという。
戸田建設の支店社員が語る。
「業界内では〝病院の戸田〟と呼ばれ、虎の門病院や都立駒込病院など、全国各地の有名病院を多数、建設しています。
ゲナノ社は、日本では、ほとんど知られていないが、フィンランドに拠点を構え、世界40か国以上で販売を展開している空気清浄機メーカーだ。
「中国・武漢の新型コロナ仮設病院でも数百台のゲナノ社製の空気清浄機が設置されました。欧州のスターバックスにも設置している店舗があります。また、東京オリンピックで金メダルを獲得したホッケーベルギー代表もトレーニングルームなどに設置しています。欧州では医療機関だけでなく、幅広いユーザーに愛用されるなど、コロナ禍以降、急成長を遂げているグローバル企業です」(医療関係者)
そこで、戸田建設は、ゲナノ社製・空気清浄機の輸入元であるメディカルクリエイトジャパン(以下、MCJ)と国内販売に向けて交渉をはじめる。2020年8月のことだという。
MCJ代表取締役の上野桂(うえの・けい)氏が契約締結までの経緯について説明する。
「2020年8月3日、東京・宝町のオフィスに呼ばれ、会議室でプレゼンを行いました。同席したのは、戸田副社長(当時、専務)と同社の社員3名です。わたしが、ゲナノ社が行った性能評価試験のデータや欧州での販売実績などを説明したところ、戸田副社長は、同席した社員に対して、『性能が良いのはよく分かった。
この商談の翌日から、戸田建設とMCJとの間で具体的な契約内容が精査され始め、2020年12月1日に契約は締結。小誌が独自に入手した戸田建設とMCJが結んだ「取引基本契約書」には、このような記載がある。
〈甲(MCJ)乙(戸田建設)は、第1項の独占販売権許諾の趣旨に鑑み、取引最低販売台数を定め、乙はこの数量を購入するものとする〉
「『取引基本契約書』には、具体的な販売計画も記され、戸田建設は、20年12月から22年9月にかけて1995台を販売し、輸入元である弊社に総額22億750万円を支払うという約束になっています。けれども、現時点で、その約束は果たされていません。というのも、戸田建設からは初回の100台分の注文があったのみで、ある日、突然、不当な理由をつけて一方的に契約解除を迫ってきたからです」(上野氏)
いったい両者の間で何があったのだろうか? トラブルの詳細については後述するが、契約締結した直後は良好な関係にあったと上野氏はいう。
「21年3月30日に、戸田建設本社の会長室や社長室などにゲナノ社製・空気清浄装置を設置しました。わたしも立ち会ったのですが、その際、今井(雅則)会長からは『頼んだよ。頑張って、力を合わせて一緒に売りましょう』と、さらに、大谷(清介)社長からは『わたしも各方面にゲナノの空気清浄機の営業をしているよ』と声をかけていただきました。また、ゲナノ社製・空気清浄機を広く知ってもらうために、同年11月に東京ビックサイトで開催された医療・福祉機器の見本市『HOSPEX』にも出展したのですが、今井会長が視察に訪れ、『頑張って売っていきましょう』と激励を受けました。
しかし、次第に雲行きが怪しくなる。

■戸田建設からの注文が突如パタリと途絶えた・・・
2020年12月にMCJには、100台の発注があったが、それ以降、戸田建設からの注文がパタリと途絶えたからだ。
「担当者のN(戸田建設・医療福祉部課長)に何度もメールや電話をして『次の注文はいつごろになりますか?』と確認の連絡をしました。しかし、Nは『いま忙しい』と具体的な回答を拒否し続けたのです」(上野氏)
このとき、戸田建設の社内において、いったい何が起きていたのだろうか?
「約2000台を販売する大きなプロジェクトだったにもかかわらず、ゲナノ社製・空気清浄機を販売する営業チームを新設することもなく、ひとりの社員Aさんに営業から販促までを丸投げしていたんですよ。実は、これまでにも新規事業の立ち上げのために、他業界から人材を積極的に採用していたんですけど、戸田副社長は、いつも『やろう』とは口ではいうけれど、結局、統率力がないので、うまくいったことは一度もないんです。業績も悪化して、会社にいても未来がないと優秀な若手社員も次々と辞めていますし……。そもそも現状の社内体制では、どだい無理な話だったんです。Aさんは、当時の担当部長・Kに『営業を増員して、チーム一丸となって取り組まないと、MCJと契約したノルマを達成することは不可能だ』と訴えていたようですが、プロジェクトの責任者であるKは『分かった。検討する』と言うものの、結局、何も対応しなかったようです。そこでAさんは、戸田副社長にも販売体制の改善を直訴したそうです。すると、戸田副社長は『それはお前の仕事だろ』と突き放したと聞いています。結局、年間1000台を販売する目標に対して、わずか30台ほどしか売れなかったみたいです」(前出の戸田建設の支店社員)
さらに、22年7月13日には、こんな修羅場もあったという。
「深刻な表情を浮かべた医療福祉部長のTと課長のNと法務部長とAさんの4人がフロアにやってきて、Kにひそひそと報告をしていました。すると、Kは顔を真っ赤に紅潮させ、大声をはり上げて、『俺は、こんな契約は知らない。Aが勝手にやったことだろう!』と、契約書を自身のデスクに叩きつけていました。さらに、『(契約書に署名してある)俺の名前を消すことはできないか?』と、契約書の改ざんまで口にしていました。Kの子飼いの部下であるNは、自分が現場の担当者であるにもかかわらず、『わたしは契約書の作成には一切かかわっていません』と報告していました」
その後、戸田建設は、KとNを中心に組織ぐるみでMCJと締結した契約書のもみ消しを企てるのだった。
「このやりとりがあった直後、すぐに法務部長は、会社の顧問弁護士に相談することなく、こともあろうか、自分たちの都合のいいように動いてくれる別の女性弁護士を連れてきたんです。そして、その弁護士は『ゲナノ社製の空気清浄機は欠陥品だったことにして、契約解除を迫ってみたらどうか』と入れ知恵したそうです」(別の戸田建設の支店社員)
「ゲナノ社製の空気清浄機を欠陥品」だと主張する戸田建設に対して、上野氏が反論する。
「戸田建設の主張には、違和感しかありません。なぜなら、すべての製品は、フィンランドの工場でいくつもの項目にわたる厳格な検査を経て、出荷されています。また、来日したゲナノ本社のエンジニアや弊社の保守点検の担当者などが製品を精査した結果、戸田建設が欠陥品だとする主張は、電気技術者などによる専門家の知見に基づいたものではなく、そもそも戸田建設の担当者がユーザーに対して、十分な説明を行っておらず、メーカーが推奨していない誤った使い方などの理由により発生した不具合だったと、弊社は判断しています」(上野氏)
現在も戸田建設とMCJは、それぞれ代理人の弁護士を立てて、和解に向けた交渉が続いているという。果たして嘘をついているのは、どちらなのだろうか?

■相次ぐ内部告発で判明した経営陣のお粗末ぶり
「戸田建設側が欠陥品だと主張しているゲナノ社製の空気清浄装置ですが、現在も本社の会長室・社長室、さらに副社長、専務、執行役員のデスク横などに計9台が設置してあって、普通にちゃんと動いていますよ(苦笑)」(前出の戸田建設関係者)
さらに記者は、戸田建設からゲナノ社製の空気清浄機を購入した医療機関に勤務する2人の職員を取材した。
−−戸田建設からゲナノ社製の空気清浄機を購入したいきさつは?
「21年の春ごろ、『東京医科歯科大学病院や東海大学医学部付属病院にも入っています。導入を検討していただけないですか?』と提案がありました。有名な病院もすでに購入している。『戸田建設が病院内の空気も責任を持って管理します』とも説明され、それだったら安心だね、ということで、購入に至りました」(大学病院職員)
−−これまでに故障トラブルはなかったのか?
「タッチパネルが反応しないとか、そのような機器の故障は、これまでに一度もありませんよ。ゲナノ社製の空気清浄機は、空気中を漂う目に見えない汚れを吸い取り、数週間ほど使用していると、下のトレイにドサッとたまるんですよ。空気の汚れが目に見えるので、職員の安心につながっているようで、評判はすこぶるいいですよ」(同前)
さらに、別の総合病院職員もこう話す。
「現在も戸田建設から購入したゲナノ社製の空気清浄装置は、病室などに、数台設置してありますが、どれも正常に動いています。院内には日本製の空気清浄機も数台設置しているのですが、ゲナノ社製は、音も静かで使い勝手もよく、医師や看護師などの医療従事者にも好評です。いまのところ、戸田建設の担当者からは何の説明も受けていません。もしも欠陥品だったら、すぐに回収に来るはずですよね。欠陥品を放置したままなら、大問題に発展しますからね。
さらに、研究施設にゲナノ社製の空気清浄機を販売しているバイオ機器メーカー・朝日ライフサイエンスにも「ゲノナ社製の製品を購入したユーザーから、これまで機器の故障トラブルや動作の不具合など、クレームがきたことはあるか?」と質問すると、書面で以下のような回答があった。
「特にトラブルはございません。定期的なメンテナンスが必要な製品ですので、弊社で実施しています」
■渦中の戸田守道副社長を直撃取材
さる2月20日、朝、記者が社用車で出勤する、渦中の戸田守道副社長を取材した。

−−ゲナノ社製・空気清浄機の事業は、現在どうなっているのか?
「わたしは担当ではないので、まったく知らない。何も知らない」
−−本当に何も知らないんですか?
「本当に知らない」
−−この件に関して、戸田副社長は、まったくタッチしていないということなのか?
「まったくタッチしていない」
−−でも、もし契約トラブルがあったりしたら、それは会社の責任になるんじゃないですか?
「わたしは担当ではなかったのでタッチしていない」
−−そんなことがまかり通るんですか?
「通ります。当然ですよ。分担が違うので」
−−では、戸田建設の経営陣の中では、空気清浄機の事業は、誰が担当しているんですか?
「知りません。知りませんというか、あなたに言う必要はありません」
−−きちんと説明してくださいよ。こちらは取材できている。
「あなたに説明する必要はありません」
−−戸田副社長は、この件についてまったく対応しないということですか?
「対応しません」
−−知らないということですか?
「知りません。わたしは対応しません」
−−販売した病院に対しても何も責任を持たないのか?
「持ちません。わたしは、病院関係の担当ではありませんから」
−−戸田建設の経営幹部として、そんな対応でいいんですか?
「もちろん。だって、わたしは、担当ではないんだから。上場企業ですから、それぞれ担当に分かれて、責任があるんだから、わたしは知らないです」
−−では、御社の広報部に対して、正式に取材申請をすれば、本件についての取材に応じていただけますか?
「知りません。わたしは、広報の担当ではありませんから。広報の担当ではありませんから、何も言えません。会社というのは、当然、責任分担がありますから。わたしはゲナノの空気清浄機の担当ではないし、広報の担当でもない」
−−ゲナノの空気清浄機の販売に関しては、まったく把握していないということですか?
「そうです」
−−でも、ゲナノの空気清浄機は、御社に設置されているのではないでしょうか?
「ありますよ」
−−先ほどから、言っていることが矛盾していませんか? ご存知なんですよね?
「知識としては知っています。知ってはいるけれど、ビジネスとしては、わたしの担当ではないということです」
−−ゲナノの空気清浄機の販売をめぐって、もしも契約のトラブルや不正があったら、それはすべて担当者の責任ということですか?
「そうですね。分担が分かれていますから」
−−契約のトラブルなどがあったら、誰が責任を取るのか?
「上場企業だし、それなりの規模の会社ですから、当然です。それは当たり前のことじゃないですか。わたしは、執行役員ですから、分担して責任を負っています」
−−ゲナノの空気清浄機を販売する事業の責任者は、戸田副社長のほかに執行役員、取締役の中にいるということですね?
「戸田建設が扱っていたんだとしたら、それは当然(担当者は)いるんでしょうね」
−−わかりました。では、御社の広報部を通して、再度、その責任者の方に取材を申し込みます。
「いなければ仕方がないということですね。わたしは担当していないから分からない。それで、いいですか」
−−ありがとうございました。戸田副社長は、黒い色のクラウンの後部座席に乗り込み、その場から逃げるように立ち去るのだった。

■戸田建設の実態は、日本企業の実情なのかもしれない・・・
戸田副社長との取材のやりとりの一部始終は、動画にも収めてある。いま、あらためて動画を見ているが、怒りを通り越して、悲しい気分になる自分がいる。なぜなら、戸田副社長の対応そのものこそが、日本経済、日本社会、そして日本人の感情の劣化、想像力の欠如の象徴、縮図のように思えるからだ。
戸田建設のホームページには、「人も自然も、豊かな地球を目指して。」「多様性を力に」など、美辞麗句の言葉が並んでいる。しかし、戸田副社長をはじめ、同社の幹部たちは、社員や株主の前では「コンプライアンス」や「リスクマネジメント」「SDGs」「多様性」など、もっともらしいことを口にしているが、本当に心の奥底からは理解できていないのではないだろうか?
おそらく彼らの脳内は、昭和脳に毒されていて、いまだに「男は外で働き、女は家庭を守るべき」という価値観を持ったイタいおじさんたちのような気がしてならない。そのような人物たちが経営を司っている会社で働いている社員たちには同情しかない。また、これから4月を迎え、戸田建設には多くの新卒社員が希望に胸をふくらませて入社してくるはずだ。そういう若者たちは、この記事を読んで何を思うのだろうか?
今回の一件において、戸田建設に裏切り続けられてきた、上野氏が現在の心境を語ってくれた。
「戸田建設がゲナノ社製の空気清浄機は欠陥品だという情報を流したことで、ゲナノ社、弊社、そしてわたし自身の信用が揺らいでいます。今回の一件で、わたしがこれまで培ってきた事業が握りつぶされてしまったことは、とても悔しいです。また、製品の在庫を保管している倉庫代についても弊社が立て替えをしている状況でして、非常に困っています。戸田建設は、表向きには『女性が活躍できる職場』などと謳っています。でも、結局は、わたしが女性の経営者だから、強硬姿勢に出れば、どうせ泣き寝入りするだろうと軽く見ているのかもしれません。わたしたちのような零細企業が戸田建設のような上場企業と争うことに、恐怖もありますが、これまで戸田建設の下請けいじめに泣かされてきた人たちは、たくさんいると思うのです。わたしの告発が、#MeToo運動のような広がりをみせ、虐げられてきた人たちの救いになればと思い立ち上がりました」
「FLASH」の記事が出た直後に同編集部には、このようなタレコミがあったという。
〈戸田建設記事の件。今はどうか定かではありませんが、MCJ上野社長と戸田建設購買部(当時)のAが男女の関係。共謀して下請け企業にキックバックを求めていました。いくつもの下請け企業が泣き寝入りしております。業界裏情報誌(名前を失念しました)では周知の事実です。今回の記事を見て、まさか上野が戸田建設までかみつくとはびっくりしています〉
もちろん、このタレコミはガセネタだ。上野氏とAさんは、男女の関係ではない。もしもこのタレコミを戸田建設の関係者が行っていたら、それこそ上野氏とA氏に対する名誉毀損である。
戸田建設のホームページにアクセスすると〈いい仕事には、愛がある〉という企業メッセージが掲げられている。戸田建設が掲げる〝いい仕事〟は、世間では〝愛ではなく、いじめ〟だということに同社の経営陣は気がついていないのだろうか。
取材・文 大崎量平